ネアンデルタール人やデニソワ人から現生人類へと感染した発癌性ウイルス

 現代人の発癌性ウイルスに関する研究(Pimenoff et al., 2017)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。現代人は生涯を通じて多くのパピローマウイルス(PVs)に感染しますが、そのほとんどは無症状です。著しい例外はヒトパピローマウイルス16(HPV16)による持続性感染で、発癌性が認められています。HPV16には複数の系統が確認されており、発癌の可能性は均一ではなく、その多様性も各地域で異なります。この研究は、HPV16の多様性と地理的分布を分析し、その進化史を復元しています。

 現代人の遺伝的多様性に関しては、サハラ砂漠以南のアフリカ地域集団の方が、その他の地域よりずっと高くなっています。しかし、HPV16の多様性に関しては、サハラ砂漠以南のアフリカよりも東・東南アジアの方が高くなっています。この研究は、HPV16の進化史と後期ホモ属の進化史の共通性から、現生人類(Homo sapiens)ではない系統の人類から現生人類に、交雑を通じてHPV16のいくつかの系統が感染したと考えるのが、もっとも説得力のある仮説だ、と指摘しています。

 具体的には、HPV16のA型がネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のデニソワ人(Denisovan)由来で、HPV16のB・C・D型がアフリカ起源の現生人類由来と考えられています。サハラ砂漠以南のアフリカでは、HPV16のA型がひじょうに少なくなっています(サハラ砂漠以南のアフリカのA型は、出アフリカ後に一部の現生人類集団がアフリカに戻ったことや、イスラーム勢力やヨーロッパ勢力のアフリカへの拡大に由来すると考えられます)。

 HPV16のB・C・D型の最終共通祖先の推定年代は197000年前頃で、(非アフリカ系現代人の主要な祖先集団となった)現生人類の出アフリカの前となりそうです。HPV16のA型とB・C・D型の推定分岐年代は、46万年前頃です。46万年前頃では、現生人類の系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の系統との分岐年代としてやや新しい感もあり、この研究で提示された仮説の弱点と言えるかもしれませんが、あくまでも推定年代であり、HPV16の進化史と後期ホモ属の進化史の共通性は否定できないでしょう。

 注目されるのは、東・東南アジアでは、HPV16のA型のうちヨーロッパや南アジアなどでは見られないA4型が多く見られることです。あるいは、A1~3型がネアンデルタール人由来で、A4型はデニソワ人由来かもしれません。HPVは骨格には感染しないので、現在のネアンデルタール人とデニソワ人のゲノムにはHPVは含まれません。今後の研究の展望として、古代人の肌からHPVの痕跡を見つけることが指摘されており、研究の進展が期待されます。


参考文献:
Pimenoff VN, Oliveira CM, and Bravo IG.(2017): Transmission Between Archaic and Modern Human Ancestors During the Evolution of the Oncogenic Human Papillomavirus 16. Molecular Biology and Evolution, 34, 1, 4-19.
http://dx.doi.org/10.1093/molbev/msw214

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