12万~10万年前頃の「許昌人」の頭蓋

 これは3月4日分の記事として掲載しておきます。中国で発見された上部更新世前期のホモ属頭蓋に関する研究(Li et al., 2017)が報道されました。この研究が分析したのは、中華人民共和国河南省許昌市(Xuchang)霊井(Lingjing)遺跡で発見された、125000~105000年前頃の頭蓋です。この頭蓋に関しては、9年前(2008年)にこのブログで取り上げ(関連記事)、その後に補足となる追加記事を掲載したことがあります。

 この研究は、「許昌人」の2個の頭蓋について、複数の人類系統と特徴を共有しており、モザイク的だ、と報告しています。脳の大型化はホモ属の進化において広く見られる傾向で、許昌人にも見られます。許昌人の頭蓋の一方の脳容量は推定1800㎤で、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現代人の上限近くに位置します。一方で、許昌人の頭蓋には、低く平らで下方に広い神経頭蓋を持つという、祖先的特徴も見られます。

 許昌人の頭蓋には、後頭部の局所的なへこみや内耳骨において、ネアンデルタール人の頭蓋との共通点が見られ、これらは現生人類(Homo sapiens)とは異なります。しかし、ネアンデルタール人と同じく眼窩上隆起があるとはいっても、ネアンデルタール人より薄く、頭蓋骨がネアンデルタール人よりも華奢な点で、初期現生人類(やそれに類似したアフリカのホモ属化石)と類似しています。その意味で、頭蓋からは、許昌人の分類が難しくなっています。

 許昌人の頭蓋は、60万~10万年前頃の東アジアの他のホモ属化石と頭蓋底の特徴を共有しており、この点も許昌人の分類を難しくしています。この研究では、許昌人の頭蓋と中国の河北省の許家窯(Xujiayao)遺跡で発見された10万年前頃の頭蓋(関連記事)との類似性も指摘されており、東アジアにおける人類進化の地域的連続性の可能性が提示されています。一方で、上述したような許昌人とネアンデルタール人や現生人類との類似性も考慮すると、東アジアにおける後期ホモ属の地域的継続性と、地域間の比較的低水準の交雑が想定されるのではないか、とこの研究は指摘しています。

 何とも謎めいた許昌人の分類ですが、現時点では、まだその分類やホモ属の進化史における位置づけを断定できる段階にはない、と言えるでしょう。東アジアにおける人類進化の地域的連続性についても、蓋然性が高いと言えるのか、まだ慎重になるべきだと思います。この研究に参加していないハブリン(Jean-Jacques Hublin)博士は、許昌人が種区分未定のデニソワ人(Denisovan)である可能性を指摘していますが、この研究に参加したトリンカウス(Erik Trinkaus)博士は、DNAのみで定義されたデニソワ人という区分に許昌人を分類することには慎重です。許昌人の頭蓋からのDNA解析にはまだ成功していないとのことで、DNA解析の成功により研究が大きく進展することを期待しています。


参考文献:
Li ZY. et al.(2017): Late Pleistocene archaic human crania from Xuchang, China. Science, 355, 6328, 969-972.
http://dx.doi.org/10.1126/science.aal2482

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