ナレディの新たな化石と年代(追記有)

 これは5月11日分の記事として掲載しておきます。新種のホモ属とされているナレディ(Homo naledi)に関する新たな論文3本が報道されました(報道1および報道2および報道3)。ナレディは南アフリカ共和国のライジングスター洞窟(Rising Star Cave)にあるディナレディ空洞(Dinaledi Chamber)で発見された年代不明の人骨群(関連記事)で、一般誌でも大きく取り上げられる(関連記事)など話題になりました。ナレディの足と手には現代人的(派生的)特徴と祖先的特徴との混在が指摘されており(関連記事)、ナレディの年代推定と人類進化系統樹における位置づけを難しくしています。当初、ナレディの報告者たちは、ナレディは鮮新世後期~更新世初期の人骨群で、アウストラロピテクス属からホモ属への移行的な種である可能性が高い、と示唆していましたが(関連記事)、頭蓋と歯の比較からは、年代が912000年前頃と推定されています(関連記事)。ただ、あくまでも人類化石やチンパンジーやゴリラとの比較からの推定年代であり、堆積物から推定されたわけではないので、確定的とはとても言えませんでした。

 このように、ナレディの年代と人類進化系統樹における位置づけについては、不明な状況が続いていたのですが、この一連の論文3本により、ナレディについての研究は大きく進展することになりました。それは、ナレディの新たな化石についての研究(Hawks et al., 2017A)と、ナレディの年代についての研究(Dirks et al., 2017)と、ナレディの人類進化史における位置づけについての研究(Berger et al., 2017)です。これらの研究はいずれも注目されますが、とくに、曖昧だったナレディの年代に関する研究の意義は大きいと思います。以下、これらの研究の成果を備忘録としてごく簡潔にまとめておきます。

 上述したように、ライジングスター洞窟のディナレディ空洞においてナレディの遺骸がすでに発見されており、少なくとも15個体分が確認されています。今回新たに、ライジングスター洞窟のレセディ空洞(Lesedi Chamber)において、131個の人類遺骸が発見されました。「レセディ(Lesedi)」とはツワナ語で「光」の意味です。これらの標本では、成人と子供を含む少なくとも3個体が確認されており、ディナレディ空洞で発見された人類遺骸との類似性が見られることから、ナレディに分類されました。

 これら3個体のうち、最も保存状態の良好な個体(LES1)の頭蓋はほぼ完全であり、脳容量は約610 ccです。これは、ディナレディ空洞で発見されたナレディの最大推定脳容量560ccを上回ります。LES1の頭蓋には、ホモ属ではエレクトス(Homo erectus)やハビリス(Homo habilis)やルドルフェンシス(Homo rudolfensis)、アウストラロピテクス属ではセディバ(Australopithecus sediba)と類似した特徴が見られます。しかし、そうした特徴が一括して見られるのは、現時点ではナレディだけです。

 ナレディは全体的には、エレクトスやハビリスやルドルフェンシスといった早期ホモ属およびアウストラロピテクス属に分類されているセディバと類似しています。しかし、ナレディには、現生人類(Homo sapiens)やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)系統に見られる派生的特徴も確認されています。総合的に考えると、ナレディの系統は、ホモ属の進化系統樹において少なくともアンテセッサー(Homo antecessor)の出現した時点で、現生人類やネアンデルタール人の共通祖先系統と分岐していたようだ、と指摘されています。

 では、ナレディの派生的特徴は何に由来するのかというと、ナレディの推定年代と大きく関わってくるかもしれません。ナレディに関して今回はじめて、より確実な推定年代が提示されました。堆積物のウラン系列法とナレディの歯の電子スピン共鳴法(ESR)により、ナレディの年代は335000~236000年前頃と推定されました。これは、195000年前頃という最古の現生人類化石と近い年代になります。ただ、当初より、ナレディの年代が中期更新世以降にまでくだる可能性も指摘されていたので、さほど意外ではありませんでした。この新たな推定年代から、ナレディの派生的特徴に関しては、他のホモ属系統との交雑によるものかもしれない、と指摘されています。アフリカでも現生人類と他系統の人類との交雑の可能性が指摘されていますが(関連記事)、ナレディはその候補かもしれない、というわけです。けっきょくのところ、現時点では化石記録が不充分なため、ナレディのホモ属進化系統樹における位置づけはまだ確定が難しい、と言えるでしょう。

 ナレディの新たな推定年代は、後期ホモ属の多様性を改めて示すとともに、後期ホモ属の進化史の見直しにもつながります。ナレディの考古学的文脈はまだ不明です。しかし、ナレディは少なくとも中期石器時代前半までは存在していました。中期石器文化に関しては、「古代型サピエンス」や現生人類の祖先系統が担い手だとの前提がありましたが、このナレディの新たな推定年代により、ナレディもその一部の担い手だった可能性が指摘されています。

 これは、ナレディの認知能力についての議論とも関わってきます。ディナレディ空洞もそうでしたが、レセディ空洞に入るのもかなり困難です。そのため、何者かが意図的にナレディの遺骸を空洞まで運んだ可能性が高くなります。傷跡が見当たらないことから、ナレディの遺骸を肉食獣が運んだ可能性はほぼ否定されます。ナレディと現生人類(の直近の祖先系統)との接触はじゅうぶん想定されるので、現生人類(の直近の祖先系統)が何らかの目的でナレディの遺骸を空洞に集めた可能性も考えられます。しかし、解体痕(cut marks)などがないことから、ナレディが自集団の遺骸を空洞まで運んだ可能性が最も高く、ナレディが一部の中期石器文化の担い手だったかもしれない可能性を考慮すると、こうしたナレディの遺骸処理は葬儀のような象徴的行動だったと可能性も考えられる、と指摘されています。

 ナレディについての研究は、今回の一連の論文で大きく進展した、と言えるでしょう。しかし、ナレディの新たな推定年代は、後期ホモ属の進化史が複雑だったことを改めて示したように思えます。中期更新世のアフリカの人骨は少ないので、考古学的証拠と各人類系統とをどう結びつけるのか、難しかったのですが、おそらくは現生人類の系統とかなり早期に(遅くとも現生人類の系統とネアンデルタール人の系統との分岐よりもずっと前に)分岐しただろうナレディが、中期石器時代まで存在していたことがほぼ確実となったことで、さらに問題は複雑になった、と言えるかもしれません。今後の研究の進展が大いに注目されますが、やはり、ライジングスター洞窟以外で、ナレディの遺骸が石器と共伴して発見されることが期待されます。


参考文献:
Berger LR. et al.(2017): Homo naledi and Pleistocene hominin evolution in subequatorial Africa. eLife, 6, 24234.
http://dx.doi.org/10.7554/eLife.24234

Dirks PHGM. et al.(2017): The age of Homo naledi and associated sediments in the Rising Star Cave, South Africa. eLife, 6, 24231.
http://dx.doi.org/10.7554/eLife.24231

Hawks J. et al.(2017A): New fossil remains of Homo naledi from the Lesedi Chamber, South Africa. eLife, 6, 24232.
http://dx.doi.org/10.7554/eLife.24232


追記(2017年5月12日)
 AFPナショナルジオグラフィックでも報道されています。

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