ネアンデルタール人の人口史

 これは8月10日分の記事として掲載しておきます。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の人口史に関する研究(Rogers et al., 2017)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究は、これまでのホモ属の古代DNA解析を再検証することにより、ネアンデルタール人の人口史を推定してます。後期ホモ属の進化に関する現在の有力説では、まず現生人類(Homo sapiens)系統とネアンデルタール人および種区分未定のデニソワ人(Denisovan)の共通祖先系統とが分岐し、その後にネアンデルタール人系統とデニソワ人系統とが分岐した、と推定されています。

 この研究は、現生人類系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統との分岐が25920世代前(751690年前頃)、ネアンデルタール人系統とデニソワ人系統との分岐が25660世代前(744000年前頃)と推定しています。ネアンデルタール人系統は、現生人類系統と分岐してさほど時間を経ずにデニソワ人系統と分岐した、というわけです。

 ヨーロッパには60万年前頃、アシューリアン(Acheulian)石器技術を有する大きな脳のホモ属が進出してきました。この大きな脳を有するホモ属は、形態と石器技術からアフリカ起源と考えられています。この大きな脳のホモ属は、ヨーロッパに進出する前にデニソワ人系統と分岐し、(その一部が)ネアンデルタール人へと進化していった、と考えられます。この見解は、スペイン北部で発見された43万年前頃のネアンデルタール人的特徴を有する人骨群が、核DNAの解析ではデニソワ人よりもネアンデルタール人に近いと指摘されていること(関連記事)と整合的だ、とこの研究では指摘されています。

 この研究は後期ホモ属の人口史に関して、現生人類系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統との分岐後、現生人類系統は人口が増加したのにたいして、ネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統は人口が減少し、ネアンデルタール人系統はデニソワ人系統との分岐後に人口が数万人規模まで増加していき、各地域集団に細分化されていった、と推測しています。

 これは、南西シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見されたネアンデルタール人1個体のDNA解析に基づく、現生人類・ネアンデルタール人・デニソワ人の系統はともに100万年以上前に人口が減少し(おそらくはまだ分岐していなかったため)、現生人類の系統はその後に人口が増加していったのに対して、ネアンデルタール人とデニソワ人の系統の人口規模はさらに縮小していった、とする見解(関連記事)と矛盾しているように見えます。

 この研究は両者の整合的な解釈として、ネアンデルタール人はデニソワ人系統との分岐後に複数の小規模集団に細分化されていき、集団間相互の交流は稀だった、との見解を提示しています。この研究はその証拠として、ネアンデルタール人は地域集団間で遺伝的差異が見られる、との見解(関連記事)も取り上げています。またこの研究は、ネアンデルタール人の多数の化石が広範な地域で発見されていることも、ネアンデルタール人の人口規模が小さかったとの見解と矛盾する、とも指摘しています。こうしたネアンデルタール人の人口史は、現代ユーラシア人の祖先たる出アフリカ集団が、アフリカ集団との分岐後に、人口減少を経て各地域集団に細分化されていったことと類似している、とこの研究は指摘しています。

 この研究は、現代ユーラシア人の祖先たる出アフリカ集団と交雑したネアンデルタール人集団は、系統的に離れていたアルタイ地域のネアンデルタール人集団よりも人口規模が大きかったのではないか、と推測しています。ネアンデルタール人は、ユーラシアの広範な地域で中期~後期更新世にかけて数十万年間にわたって存続した人類系統ですから、各地域集団間の違いは大きかったはずで、現生人類との関係も多様だったのでしょう。この研究の見解はまだ確定とは言えないでしょうが、たいへん注目され、人口史も含めて後期ホモ属の進化史の今後の研究の進展が期待されます。


参考文献:
Rogers AR. et al.(2017): Early history of Neanderthals and Denisovans. PNAS, 114, 37, 9859–9863.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1706426114

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