白石典之『モンゴル帝国誕生 チンギス・カンの都を掘る』

 これは9月10日分の記事として掲載しておきます。講談社選書メチエの一冊として、講談社より2017年6月に刊行されました。なぜチンギスというかモンゴルが12世紀末以降に台頭し、短期間で大勢力を築いたのか、専門家の間でも決定的な見解はまだ提示されていないようです。文献からだけでは解明に限界のあるこの謎を、本書は考古学的観点から検証しています。本書は古気候学や古生態学の研究成果を大きく取り入れ、学際的な内容になっています。気候変動とチンギスやその周囲の諸勢力の動向を結びつける見解は興味深いものでした。できれば、遺伝学的成果も大きく取り入れてもらいたかったのですが、それは他の本・論文で今後調べることにします。

 本書は、豊かな放牧地と鉄を得たことにより、チンギスが飛躍的に勢力を拡大した、と指摘しています。この点に関して、チンギスは雌伏期に魚を食べるほど苦境に追い込まれていた、とのじゅうらいの解釈は、魚を食べなくなった後世のモンゴル人の価値観を過剰に反映したものであり、むしろ放牧に適した豊かな土地を得ていたと考えるべきだ、との指摘は興味深いものです。チンギスは鉄にかなり拘っていたようで、鉄を豊富に獲得して優れた武器に加工したことが、チンギスの飛躍の軍事的要因となったようです。また、チンギスが交通を重視していたことも、飛躍の要因として指摘されています。

 しかし本書は、チンギスの周辺の諸勢力もこれらを重視していたのであり、チンギスが一代で大勢力を築いた理由として決定的ではない、と指摘し、別の側面から推測しています。本書は、チンギスはカンになれる家柄とはいえ、元々の勢力は小さく、自ら放牧の計画を立てて実務に直接携わっていかねばならなかったので、遊牧民の指導者として他勢力の指導者よりも優れた見識・判断力を身に着けていったのではないか、と推測しています。また本書は、チンギスはモンゴルの生存・安定を第一に考えており、世界征服は念頭になかっただろう、との見解を提示しています。

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