4万年前頃の東アジアの現生人類のゲノム解析

 これは10月16日分の記事として掲載しておきます。4万年前頃の東アジアの現生人類のゲノム解析結果を報告した研究(Yang et al., 2017)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究は、北京の南西56kmにある田园洞窟(Tianyuan Cave)の男性遺骸のゲノム規模のデータ(平均網羅率は2.98倍)を報告しています。以前の田园男性のゲノム解析では、まず間違いなく現生人類(Homo sapiens)であることと、現代の東アジア人およびアメリカ大陸先住民と近縁で、現代ヨーロッパ系と現代東アジア系が分岐した後の個体である、と報告されていました(関連記事)。この研究は、田园男性のゲノム規模のデータを、現代人および更新世の大まかには同年代のユーラシアの現生人類と比較しています。その結果、興味深いことが色々と明らかになりました。

 現生人類とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)との交雑は今では広く認められていますが、田园男性は同年代のユーラシア人と同様に、現代のヨーロッパ人と東アジア人よりも多くのネアンデルタール人由来のDNA(4~5%程度)を有していました。田园男性のゲノムには現代オセアニア人と同程度の種区分未定のデニソワ人(Denisovan)由来の領域は確認されませんでしたが、田园男性のゲノム配列の網羅率は低いので、他の現代アジア人と同程度のデニソワ人由来のDNA領域を有している可能性は否定できない、と指摘されています。また、田园男性は解剖学的研究で非現生人類系統の人類との交雑の影響が指摘されていましたが、ゲノム解析ではそうした交雑は確認されませんでした。

 以前の研究と同様に、田园男性は更新世および現代のヨーロッパ人とよりも、現代・古代のアジア人および現代アメリカ大陸先住民集団の方と近縁であることが確認されました。ただ、現代のアメリカ大陸先住民集団のなかでも、ブラジルのカリティアナ(Karitiana)集団やスルイ(Suruí)集団およびアルゼンチン北部とボリビア南部のチェイン(Chane)集団のようなアマゾン地域の現代の先住民集団は、他のアメリカ大陸先住民集団よりも多くのアレル(対立遺伝子)を田园男性と共有しています。これは、アメリカ大陸先住民とオーストラレシア人との遺伝的関係を報告した見解(関連記事)と整合的かもしれず、南アメリカ大陸のアマゾン地域の先住民集団は、田园男性やパプアニューギニア人の祖先集団と関連する古代集団から9~15%ほど遺伝的影響を受けているのではないか、と推定されています。現代のアメリカ大陸先住民集団の遺伝的起源集団は単一ではなかっただろう、というわけです。

 このように、アメリカ大陸への現生人類の移住に関しても、複雑な様相だったことが窺えますが、ユーラシアに関してもそれは同じだったようです。ベルギーのゴイエ洞窟(Goyet Caves)の35000年前頃の上部旧石器時代人は、他の同年代の西ユーラシア人よりも多くの対立遺伝子を田园男性と共有しています。ゴイエ洞窟の上部旧石器時代人は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)のハプログループではMに分類されますが、Mはユーラシア東部やオセアニアでは高頻度で見られるものの、現代のヨーロッパではほとんど確認されていません。田园男性とゴイエ洞窟の上部旧石器時代人は、これまで分析された上部旧石器時代のユーラシア人に寄与しなかった祖先集団を共有しているようです。

 こうしたゲノム解析および他集団との比較から、田园男性は現代アジア人の創始者集団の直接的祖先ではないものの、その近縁集団だったと推測されています。現生人類はアフリカから世界中に拡散しましたが、ネアンデルタール人やデニソワ人といった他系統の先住人類との交雑も含めて、その様相はたいへん複雑だったことが、この研究からも窺えます。田园男性のゲノム解析結果はたいへん興味深く、東ユーラシアの更新世人類のゲノム解析の進展が大いに期待されます。


参考文献:
Yang MA. et al.(2017): 40,000-Year-Old Individual from Asia Provides Insight into Early Population Structure in Eurasia. Current Biology, 27, 20, 3202–3208.
http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2017.09.030

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