絶滅人類種を経由してのチンパンジーの祖先から現代人の祖先へのウイルス感染

 これは10月17日分の記事として掲載しておきます。チンパンジーの祖先から現代人の祖先へのウイルス感染に関する研究(Underdown et al., 2017)が報道されました。この研究は、世界中の現代人で見られる単純ヘルペスウイルス2型(HSV2)がどのように現代人系統に感染したのか、検証しています。多くの霊長類で確認されているアルファヘルペスウイルス亜科のうち、現代人ではHSV2やHSV1などが確認されています。HSV 1はおもに口唇、HSV 2はおもに生殖器で発症します。HSV2は当初、HSV1と近縁だと考えられていましたが、ゲノム解析の結果、チンパンジーに見られるヘルペスウイルス1型(ChHV1)の方とより近縁だと明らかになりました。ChHV1とHSV2の分岐年代は300万~140万年前と推定されており、現代人系統ではない人類種経由でチンパンジーの祖先から現代人の祖先へと感染したのではないか、と推測されています。

 この研究は、過去300万年のアフリカの古環境データと、300万~140万年前頃のアフリカの人類化石種の年代・分布範囲のデータ、チンパンジーとボノボの現在および過去の分布範囲のデータを用いて、ネットワーク分析により、チンパンジーの祖先からどの人類種を経由して現代人の系統へとHSV2が感染したのか、推測しています。チンパンジーに関しては、50万年前頃の(現生チンパンジーの祖先もしくはその近縁種の)化石が知られており、大地溝帯の西リフト・バレーの東側で発見されたことから、かつてチンパンジーは現在よりも広範に生息していたのではないか、と考えられています。

 この研究は、チンパンジーの祖先から現代人の系統へのHSV2感染の「中間宿主」として、頑丈型として知られるパラントロプス属のなかでもボイセイ(Paranthropus boisei)の可能性が最も高い、と推測しています。また、最初期のホモ属とされるハビリス(Homo habilis)が、チンパンジーの祖先からボイセイへのHSV2感染に重要な役割を果たした可能性も指摘されています。現代人の直接の祖先系統になる初期ホモ属としてはエレクトス(Homo erectus)が想定されていますが、ボイセイもハビリスもアフリカ東部においてエレクトスと長期間共存していました。

 HSV2は、母子間だけではなく、血液・唾液の交換や性交により容易に感染します。HSVが種を越えて感染するには、顕著な量の体液・血液の交換が必要です。そのため、チンパンジーの祖先からボイセイへの感染としては、ボイセイが草原と森林の境界付近でチンパンジーの祖先を食べたことが想定されています。ボイセイからエレクトスへの感染も、エレクトスがボイセイを食べたことが想定されています。200万年前頃以降に出現したと推測されているエレクトスは(食資源獲得において最重要な役割を果たしていたわけではないかもしれないとしても)狩猟を行なっていたと考えられており(関連記事)、ボイセイも狩猟対象になっていた可能性もありますが、死肉漁りの方がありそうだ、と指摘されています。

 人類進化史において1種のみが存在する期間は、この数万年程度と(人類進化史の観点では)ごく最近のことであり、かつては複数の人類種が共存し、相互に接触していたのでしょう。そうした中には、性交や殺害とそれに伴う消費もあり、種を越えたウイルス感染も起きたのでしょう。この研究で用いられた方法論は、ゴリラの祖先から300万年以上前に中間宿主の人類種を経由して現代人の祖先系統へと感染したと推測されているケジラミのように、他の古代疾患の解明にも役立つ、と指摘されており、今後の研究の進展が期待されます。


参考文献:
Underdown SJ, Kumar K, and Houldcroft C.(2017): Brain response patterns to economic inequity predict present and future depression indices. Virus Evolution, 3, 2, vex026.
http://dx.doi.org/10.1093/ve/vex026

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