杉本淑彦『ナポレオン 最後の専制君主、最初の近代政治家』

 これは4月15日分の記事として掲載しておきます。岩波新書(赤版)の一冊として、岩波書店から2018年2月に刊行されました。最近、ナポレオンに関する本では『ナポレオン時代 英雄は何を遺したか』を読みましたが(関連記事)、同書がナポレオンの伝記というよりは、ナポレオン時代のパリの様相を中心に、フランス、さらにはヨーロッパにおけるナポレオンの評価・影響を論じた評論といった感じだったのにたいして、本書は歴史学からの堅実なナポレオンの伝記になっています。本書は簡潔にまとまった一般向けのナポレオンの伝記として、長く読み続けていかれることになるのではないか、と思います。

 本書は一般向けであることを意識して、ナポレオン没後に刊行された回想録などから、興味深い逸話も紹介しています。しかし本書は、歴史学からのナポレオン伝なので、そうした逸話を安易に肯定することはなく、当時の状況や当事者の思惑などを解説しつつ、確たる根拠はない、などと読者に注意を喚起しています。このような堅実なところは、ある意味では面白さを減じていると言えるかもしれませんが、それは多分に安易な面白さでもあり、本書は歴史学からの伝記として堅実ですし、かえって魅力的でもあると思います。

 本書の特色は、ナポレオンが皇帝となってからの分量が意外と短いというか、それ以前に多くの分量を割いていることです。ブリュメール18日のクーデタ(グレゴリオ暦では1799年11月9日)以降で数えても、予想していたよりも少ない配分でした。しかし、皇帝に即位してから10年半ほどで、ブリュメール18日のクーデタから数えても15年半ほどでワーテルローの戦いを迎えるわけですから、満51歳で没したナポレオンの生涯を考えると、妥当な配分かもしれません。ただ、それでも、ナポレオンが兄をスペイン王としてからワーテルローの戦いまでの「没落期」が短すぎるかな、とも思いますが。

 本書のもう一つの特色は、ナポレオンのエジプト遠征と、そこでのイスラム教との関係にかなりの分量が割かれていることです。ナポレオンのエジプト遠征はけっきょくのところ失敗だったと言うべきなのでしょうが、本書は、ナポレオンが新聞・雑誌などを活用し、自分の敗北を覆い隠し、勝利を過大に伝えようとするなど、自己宣伝に熱心だったことをやや詳しく解説しています。本書の副題は「最後の専制君主、最初の近代政治家」ですが、こうしたところは、いかにも「最初の近代政治家」といった感じです。

 ナポレオンのエジプト遠征に関しては、イスラム教との関係についてもやや詳しく取り上げられています。ナポレオンの伝記を読んだのはずいぶん昔のことなので、よく覚えていないのですが、こうした観点が強調されていたとは記憶していません(単に私が忘れているだけかもしれませんが)。本書はナポレオンのエジプト遠征を、近代ヨーロッパ世界とイスラム教世界との濃密な関係の起点と位置づけていますが、やはり本書にも同時代の問題意識が反映されている、ということなのでしょうし、それが悪いわけではなく、むしろそうでなければ、平板な伝記になってしまうのではないか、とも思います。

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