初期哺乳類の顎と中耳の進化において小型化が果たした役割

 初期哺乳類の顎と中耳の進化において小型化が果たした役割に関する研究(Lautenschlager et al., 2018)が公表されました。哺乳類の顎の進化は脊椎動物史の中でも重要な新機軸の一つで、過去2億2000万年にわたる哺乳類の放散および多様化を支えています。哺乳類の進化には、顎と頭蓋とをつなぐ関節における根本的な変化が関与していました。とくに、複数の骨で構成されていた下顎が歯の生えた単一の骨(歯骨)へと変化して新たな顎関節が出現した一方で、祖先的な下顎の二つの骨が小型化して中耳の構成要素として組み込まれ、三つの耳小骨からなる哺乳類中耳へと組み込まれたことは、形態的構造の転用の典型的な例としてよく引き合いに出されます。哺乳類の顎の進化は化石標本によく記録されていますが、祖先的な顎関節の骨が、負荷のかかる強力な咀嚼のための関節の蝶番としての機能と、聴覚に使えるほどに繊細な下顎中耳の機能とをいかにして両立することができたのか、という議論は今も続いています。

 本論文は、デジタル復元・コンピューターモデリング・生体力学的解析を用いて、初期の哺乳類の顎の小型化が顎関節の変化の主要な駆動要因であった、と実証します。犬歯類から哺乳型類(mammaliaform)への移行における主要な非哺乳型類分類群には、これまで考えられてきたような、顎関節にかかる応力の減少と咬合力の増加の同時進行を示す証拠は存在しない、と明らかになりました。顎の筋肉系の動員における変化は、現生哺乳類の進化において起きましたが、関節の負荷を減少させつつ咬合力を増加させるという下顎機能の最適化は、哺乳類の顎関節の新形態が出現する後までは起きませんでした。これは、小型化により哺乳類の顎関節の進化に選択的な枠組みがもたらされ、その後で歯骨後方の骨が哺乳類中耳に組み込まれたことを示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


古生物学:哺乳類の顎と中耳の進化において小型化が果たした役割

古生物学:初期の哺乳類が小さかった理由は顎の力学的構造で説明できる可能性がある

 初期の哺乳類は、なぜあれほど小さかったのか。爬虫類から哺乳類への移行には、顎と頭蓋とをつなぐ関節における根本的な変化が関与していた。複数の骨で構成されていた下顎が単一の歯骨からなるものへと変化した一方、下顎の2つの骨が小型化して中耳の構成要素として組み込まれ、3つの耳小骨からなる哺乳類中耳を生じたのである。そこで、ある疑問が生じる。移行期の哺乳類はどのようにして、同じ組み合わせの骨を、獲物を捕らえてかみつくためのツールとしての機能(かなりの損耗や応力、負荷を伴う)と、聴覚という繊細で精密な機能の両方に使うことができたのか。そのカギは最小化にあったと考えられる。今回S Lautenschlagerたちは、哺乳類の小型化が、その独特な顎関節の進化と関係していた可能性について明らかにしている。解剖学的構造の復元とモデル設計により、体サイズの小型化が、関与するさまざまな骨にかかる応力の最小化につながったことが分かった。これによって咬合力も減少したが、その速度ははるかに遅く、指数的ではなく線形的であった。顎の小型化は、哺乳類進化のこの極めて重要な段階において、咬合力の減少を最小にしつつ顎関節にかかる応力を減少させるという最適な妥協点をもたらしたのである。



参考文献:
Lautenschlager S. et al.(2018): The role of miniaturization in the evolution of the mammalian jaw and middle ear. Nature, 561, 7724, 533–537.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0521-4

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