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zoom RSS アメリカ人類遺伝学会の人種差別に関する声明

<<   作成日時 : 2018/10/21 09:59   >>

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 アメリカ人類遺伝学会(ASHG)の人種差別に関する声明(ASHG., 2018)が報道されました。この声明の内容はおおむね以下の通りです。


 ASHGは、白人優位主義の根拠として、遺伝学にたいする誤解・曲解が見られることを憂慮し、人種差別を扇動するような遺伝学の誤用・悪用を批判します。そのためには、遺伝学的知識を正確に理解しなければなりません。ヒト遺伝学の最前線の研究への支援を通じて、ASHGは遺伝学に関する人々の科学的知識と理解力を発展させ、人種差別的主張を促進するような遺伝学的議論を批判し続けます。

 生物学的に現代人は1種(Homo sapiens)に区分されますが、(人種・亜種など)さらに下位区分を設定することは生物学的に妥当ではありません。ヒトゲノムの多様性と個人の人種認識との間に明確な相関性はありますが、生物学的に分離されて異なるものとしての人種という伝統的概念はもはや成立しません。ヒトのほとんどの遺伝的多様性は勾配的分布なので、集団間の明確な境界を決められません。異なる集団の構成員の間にも、かなりの遺伝的重複があります。ゲノム多様性のそうしたパターンは、ヒトの歴史を通じての異なる集団の移住と混合により説明されます。

 遺伝学は「人種的純粋」という概念が科学的に無意味であることを明らかにしてきました。したがって、他集団に優越するある集団という主張に、遺伝学に基づく支持はあり得ません。個人の遺伝子はその表現型の特徴に影響を及ぼし、人種の自己認識は身体的外見に影響を受けるかもしれませんが、人種それ自体は社会的構築物です。集団を順序づけるために遺伝学を用いるようなあらゆる試みは、遺伝学の基礎的な誤解を示しています。過去10年間にDNA解析は飛躍的に発展し、個人の遺伝的祖先を正確に調べることも可能となりましたが、それは「人種的純粋」を定義するような人種差別的概念を支持するものではありません。


 以上、ざっとこの声明の内容を見てきました。21世紀になり、遺伝学、とくにDNA解析が飛躍的に発展したことで、今では大衆にとっても、自分のゲノム解析が費用・時間の点で現実的となりました。アメリカ合衆国では、16世紀以降の移民の遺伝的影響力が圧倒的に強いこともあり、個人のゲノム解析が盛んなようです。しかし、それが人種差別に利用される傾向も強くなってきたようで、研究者たちも憂慮してこうした声明を出したのだと思われます。

 確かに、ASHGの懸念はもっともだと思います。しかし、古代DNA研究の大家で今も次々と新たな論文を発表し続けるライク(David Reich)氏は、著書『交雑する人類 古代DNAが解き明かす新サピエンス史』において、現代人の各地域集団間で些細とは言えない遺伝学的差異がある、と指摘しています(関連記事)。それは現在の「政治的正しさ(PC)」に反するとみなされても仕方ないかもしれませんが、私は同書の見解を強く支持します。

 この声明が指摘するように、ヒトのほとんどの遺伝的多様性は勾配的分布で、集団間の明確な境界を決められませんし、異なる集団の構成員の間にもかなりの遺伝的重複があります。また、人類史において移住・混合は珍しくありません。しかしそれは、現代人の各地域集団間で、些細とは言えない遺伝学的差異がある、との見解を否定するものではありません。もちろん、『交雑する人類』が指摘するように、大半の特性は個人間の違いがあまりにも大きいので、「黒人」だから音楽の才能があるとか、ユダヤ人だから頭がよいとかいった固定観念に拘るのではなく、どの集団の誰でも、ある特性において能力を発揮できるような環境を整備することが必要だとは思います。

 現代人の各地域集団間で些細とは言えない遺伝学的差異がある、と認めることが必然的に人種差別を促進するわけではないでしょう。むしろ、『交雑する人類』が懸念するように、「政治的正しさ」を優先して現代人の各地域集団間の実質的な差異を無視し続けると、集団間の実質的な遺伝学的差異の確たる証拠を提示された時に右往左往して対処できなくなったり、抑圧により生じた空白を似非科学が埋めたりすることになり、かえって悪い結果を招来するかもしれません。

 上記の報道によると、乳糖耐性の有無が人種差別の根拠とされる事例もあるそうです。もちろん、上述したように、ヒトのほとんどの遺伝的多様性は勾配的分布で、集団間の明確な境界を決められず、異なる集団の構成員の間にもかなりの遺伝的重複があります。したがって、「白人」の中にも乳糖耐性を有さない人もいるわけで、人種差別における遺伝学の誤解・誤用がここにも見られます。なお、乳糖耐性と関連する変異はヨーロッパとアフリカ東部でそれぞれ独立して生じたと推測されており、アフリカや中東にも乳糖耐性を有する人が、とくに伝統的に家畜の乳を飲んできた集団において高い割合で存在します。乳糖耐性については、『カラー図解 進化の教科書 第2巻 進化の理論』(関連記事)にてやや詳しく解説されています(P187〜193)。


参考文献:
ASHG.(2018): ASHG Denounces Attempts to Link Genetics and Racial Supremacy. The American Journal of Human Genetics.
https://doi.org/10.1016/j.ajhg.2018.10.011

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