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zoom RSS アメリカ大陸の大規模な古代DNA研究

<<   作成日時 : 2018/11/10 03:52   >>

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 アメリカ大陸への人類の拡散に関する二つの研究が報道されました(報道1および報道2および報道3)。『サイエンス』のサイトには解説記事が掲載されています。これらの研究はいずれもオンライン版での先行公開となります。一方の研究(Moreno-Mayar et al., 2018B)は、アラスカからパタゴニアにまでアメリカ大陸の広範な地域に及ぶ、10700〜500年前までの15人の古代ゲノムを新たに解析し、そのうち6人は1万年以上前で、網羅率は最大で18倍となります。

 この研究(サイエンス論文)が新たにゲノムを解析した個体の中には、その形態からアメリカ大陸先住民集団とは異なる系統ではないか、と推測されたものもあります。一つは、現時点では世界最古とされるミイラである、アメリカ合衆国ネバダ州の精霊洞窟(Spirit Cave)で1940年に発見された、10600年前頃と推定されている40代の男性遺骸です。もう一方は、ブラジルのラゴアサンタ(Lagoa Santa)で19世紀に発見された人類遺骸です。このように、アメリカ大陸の最初期の人類の中には、形態的にアメリカ大陸先住民集団と異なっている集団も存在すると主張され、アメリカ大陸の最初期の人類はアメリカ大陸先住民集団とは系統的に異なる、との見解も提示されていました。しかし本論文は、精霊洞窟とラゴアサンタの人類遺骸が、ともにアメリカ大陸先住民集団の遺伝的変異内に収まることを示しました。このように、アメリカ大陸の住民は、形態学からの仮説とは異なり、その最初期から現在の先住民集団と同一の系統に区分され得る、と明らかになりました。

 アメリカ大陸先住民集団は、暦年代で17500〜14600年前頃に、南方系統(A系統)と北方系統(B系統)に分岐したと推定されています(関連記事)。既知の研究では、たとえば、カナダ東部のオンタリオ州の古代人は北方系統に近縁で、アメリカ合衆国カリフォルニア州の古代人やアメリカ合衆国モンタナ州西部のアンジック(Anzick)遺跡の男児アンジック1(Anzick-1)は南方系統に近縁とされていますが、中央および南アメリカ大陸の先住民集団は、南方系統と北方系統のどちらからも一定水準以上遺伝的影響を受けている、と推測されています(関連記事)。

 精霊洞窟とラゴアサンタの人類遺骸は共に、アンジック1系統との遺伝的近縁性が確認されました。アンジック1系統との遺伝的近縁性は、精霊洞窟とラゴアサンタの人類遺骸よりも後の南北アメリカ大陸で確認されています。さらに、メキシコのオアハカ(Oaxaca)市の先住民集団であるミヘー(Mixe)と関連する系統が、南アメリカ大陸では6000年前頃、北アメリカ大陸へと1000年前頃に確認されましたが、これらは遺伝的置換ではなく、混合だと推測されています。

 また、アマゾン地域の一部先住民集団は、オーストラレシア人と密接に関係するゲノム領域がある、と指摘されていますが(関連記事)、サイエンス論文では、10400年前頃のラゴアサンタの1個体でそれが確認されました。この件はたいへん謎めいており、オーストラレシア人の遺伝的影響を受けた集団が、アメリカ大陸先住民系統の他集団と交雑することなく、アメリカ大陸へと移住した可能性も想定されますが、正確なところは不明です。そもそも、アマゾン地域の一部先住民集団がいつオーストラレシア人の遺伝的影響を受けたのかも不明だったのですが、サイエンス論文により、遅くとも1万年以上前のことだと明らかになりました。さすがに、更新世にオーストラレシア人がオーストラリア(もしくはオーストラリアも含むサフルランド)からアメリカ大陸へと渡海したとは考えにくいのですが、今後の研究の進展が注目されます。

 1949年にアラスカのスワード半島のトレイルクリーク洞窟群(Trail Creek Caves)で発見された9000年前頃の1歳半の子供は、サイエンス論文では「古代ベーリンジア人」と分類されました。古代ベーリンジア人は、22000〜18100年前頃に(既知の)古代および現代アメリカ大陸先住民の祖先集団と分岐した、と推測されています(関連記事)。古代ベーリンジア人は北方に留まり、アメリカ大陸先住民集団の祖先集団は南下してアメリカ大陸へと拡散していった、というわけです。古代ベーリンジア人は、デナリ複合(Denali Complex)として知られる、アラスカとユーコン準州で12500〜6000年前頃に拡大した文化的集団と直接的に関連している、と指摘されています。この子供の歯の分析から、摂取栄養源は完全に陸上性で、鮭のような溯河性の魚や海洋資源の利用が示唆される他の遺跡とは対照的であることも明らかになっています。

 もう一方の研究(Posth et al., 2018)は、中央および南アメリカ大陸の10900〜700年前までの49人の新たなゲノム規模の解析を行ないました。この研究(セル論文)はサイエンス論文と併せて、64人の新たなアメリカ大陸のゲノム解析結果を報告したことになります。両論文の公表前まで、6000年以上前のアメリカ大陸の古代ゲノムは6人分しか報告されていませんでしたから、飛躍的な発展と評価されています。セル論文でも、サイエンス論文と同様に、形態学的観点から提唱されていた、アメリカ大陸の最初期の人類は現在のアメリカ大陸先住民集団とは異なる系統である、という仮説が否定されています。アメリカ大陸先住民は遺伝的にも文化的にも特有の集団としてアメリカ大陸に起源があり、在住し続けてきた、というわけです。

 セル論文は、チリ・ブラジル・ベリーズの10900〜9300年前の人類遺骸とアンジック1の間に、密接な遺伝的関係を検出しました。クローヴィス(Clovis)文化末期となるアンジック1の年代は12900〜12725年前頃なので(関連記事)、比較的近い年代なのにはるか遠くにいる集団と遺伝的近縁性が見られるのは、アメリカ大陸における急速な移動を示唆しているのではないか、と指摘されています。セル論文は、クローヴィス文化がこの急速な拡大を促進した、と主張しています。しかし、クローヴィス文化は南アメリカ大陸全域には拡大しておらず、アンジック1と遺伝的に近縁な集団はクローヴィス文化の人々よりも広範に存在していた可能性があることから、クローヴィス文化が急速な拡散の要因になったのか、ボルニック(Deborah Bolnick)氏は疑問を呈しています。

 しかしセル論文は、アンジック1との遺伝的近縁性が、南アメリカ大陸の大半で9000年前頃より衰退し始めたことを明らかにしており、9000年前頃以降に、南アメリカ大陸の人類集団において大規模な置換があったのではないか、と推測しています。またセル論文は、4200年前頃より中央アンデスにおいて、南カリフォルニアのチャネル諸島の古代人と遺伝的に最も密接に関連している系統の流入が見られる、と明らかにしました。これらの大規模な移住・遺伝子流動・置換は、現代人のゲノム解析では検出できないので、古代DNAデータの威力が改めて強調されています。この主要な移住・置換の後には、アメリカ大陸ではユーラシアやアフリカと比較して、遺伝的には顕著な地域的継続性がある、とも示されました。現代人の各地域集団は移住・混合により成立していますが(関連記事)、その度合いは各地域集団により異なり、アメリカ大陸は比較的継続性が高い、ということなのでしょう。

 サイエンス論文とセル論文は、アメリカ大陸における古代ゲノムデータの量と質を大きく発展させたという点で、画期的と言えるでしょう。ただ、課題も指摘されています。チリのモンテヴェルデ(Monte Verde)遺跡のような先クローヴィス文化の担い手については、まだ証明できるようなデータが得られていません。また、北アメリカ大陸の中央部と東部には大きな欠落があり、11000〜3000年前頃の、アマゾン地域・南アメリカ大陸北部・カリブ海地域についても同様です。しかし、近年の古代DNA研究の飛躍的な発展を見ていると、近いうちにこれらの欠落もじょじょに埋められていくのではないか、と期待されます。


参考文献:
Moreno-Mayar JV. et al.(2018B): Early human dispersals within the Americas. Science.
https://dx.doi.org/10.1126/science.aav2621

Posth C. et al.(2018B): Reconstructing the Deep Population History of Central and South America. Cell.
https://doi.org/10.1016/j.cell.2018.10.027

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