吉村武彦『大化改新を考える』

 岩波新書(赤版)の一冊として、岩波書店より2018年10月に刊行されました。本書は大化改新の影響を、その前提となる社会・政治状況とともに解説しており、文献だけではなく考古学的研究成果も取り入れられていますから、最新の研究成果を取り入れた大化改新の入門書になっていると思います。かつて、大化改新否定論もありましたが、考古学的研究成果からも、さまざまな改革が試行されたと言って間違いないでしょう。もっとも、それぞれの改革について、実効性がどれだけあったのか、継続したのか、といった問題はあるでしょう。

 大化改新に関する議論というと、制度史と政治史が中心なのでしょうが、民衆の生活・慣習についてもかなりの分量を割いているのが本書の特徴と言えるでしょう。本書は大化改新について、天皇(という称号は当時まだ確立していなかった可能性が高そうですが)に権力を集中させようとする志向を有した改革で、乙巳の変はその起点だった、との見解を提示しています。また本書は、20世紀後半以降の研究動向を踏まえて、乙巳の変とそれに続く大化改新を、東アジア情勢の中に位置づけています。当時、隋・唐という巨大王朝の出現するなか、周辺地域はその対応を迫られていました。そうした中で大きな政変も起き、それは、国王に権力を集中させる百済型と、有力貴族が実権を掌握する高句麗型に分類され、乙巳の変とそれに続く大化改新は百済型を目指した、と把握されています。

 大化改新における地方統治改革は、考古学でもかなりの程度が裏づけられており、本書も考古学的研究成果を取り入れつつ、詳しく解説しています。大化改新の基本的な志向が国王(大王、天皇)に権力を集中させることだとしたら、国造と呼ばれた地方の支配層との利害の衝突も考えられます。しかし本書は、当時新興の地方豪族層の台頭もあり、そうした階層のより安定した地方支配のためには、中央政権(ヤマト政権)との結びつきが有効で、そのために地方支配層は中央政権に従属していったのではないか、と推測しています。しかし本書は、大化改新により中央政権が地方の民衆を個別に支配できたわけではなく、地方豪族層の支配力に依存していたことと、大化改新の前より、中央政権の地方支配の整備がある程度進行していたことも指摘しています。

 本書は、天皇中心志向の大化改新に、民衆を「教化」する傾向があったことも指摘しています。また本書は、大化改新における改革志向の関連史料から、婚姻を中心として当時の生活習慣を推測しており、これは興味深い内容でした。当時の婚姻は、大化改新における旧俗の改廃令の解釈から、嫁入婚よりも妻問婚が一般的だったようです。大化改新の頃、新羅が倭(日本)に従属的だった、との本書の見解は、「進歩的で良心的な」日本人に厳しく糾弾されるかもしれませんが、当時の新羅は厳しい「国際情勢」に置かれていたわけで、本書の見解は基本的に妥当なものだと思います。

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