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zoom RSS アラビア半島内陸部において19万年前頃以降も続いたアシューリアン

<<   作成日時 : 2018/11/30 16:34   >>

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 アラビア半島における終末期に近いアシューリアンの年代に関する研究(Scerri et al., 2018B)が報道されました。アシューリアン(Acheulean)の起源はアフリカ東部において176万年前頃までさかのぼり(関連記事)、150万年以上にわたって用いられてきた文化で、人類の進化と拡大の理解に重要です。しかし、アシューリアンの時系列と地理的範囲、とくに終末期については、未解明なところが多分に残されています。本論文は、アシューリアンの終末期の手がかりとなり得る、アラビア半島内陸部に位置するサッファーカ(Saffaqah)遺跡のアシューリアンの年代を報告しています。

 サッファーカ遺跡は、ワディアルバティン(Wadi al Batin)川とワディサブハ(Wadi Sabha)川という、現在では枯れてしまったアラビア半島の当時の主要な2河川の源流近くに位置します。アシューリアンを用いた人類集団はこの河川網を利用してアラビア半島内陸部へと拡散した、と推測されます。サッファーカ遺跡は1980年代に発掘され、8395点の石器が発見されましたが、層序や人工物の分布について詳細にはなっていません。その年代はウラン-トリウム法により20万年以上前と推定されましたが、確定的ではありません。サッファーカ遺跡のアシューリアン石器群に関しては、保守的傾向が指摘されています(関連記事)。

 本論文は、サッファーカ遺跡で新たに500点を超える石器を発見し、その堆積状況と年代を測定しました。剥片の分布から、サッファーカ遺跡で石器が製作されていた、と考えられています。サッファーカ遺跡ではA〜G層まで確認されています(上から順にA→Gとなります)。このうち、F・G層では人工物が確認されていません。人類の痕跡が最初に見られるE層では高密度の人工物が確認されています。その上のD層の人工物密度は低く、さらにその上のC層とB層でも人工物が確認されています。本論文は、長石の年代測定を可能とする赤外放射蛍光(infrared-radiofluorescence)測定を含むルミネッセンス法の組み合わせにより、サッファーカ遺跡の年代を測定しました。その結果、F層は25300±13000年前頃、D層は188000±11000年前頃と推定され、おおむね海洋酸素同位体ステージ(MIS)7(24万〜19万年前頃)にアシューリアン集団がサッファーカ遺跡一帯に拡散してきて、それはMIS6にも継続した、と推測されています。

 西アジアにおけるアシューリアンとしては、これは最も新しい年代となります。サッファーカ遺跡のアシューリアンは大型剥片・握斧(handaxes)・鉈状石器(cleavers)により特徴づけられます。アラビア半島では年代が未確定のアシューリアン石器群が発見されていますが、それらはサッファーカ遺跡のアシューリアン石器群との技術的類似性が指摘されており、サッファーカ遺跡のアシューリアン集団がアラビア半島に広範に拡散していた可能性を示唆します。なお、アラビア半島内陸部における人類の痕跡は50万〜30万年前頃までさかのぼる、と推測されています(関連記事)。

 一方、アラビア半島でも北部のネフド砂漠南西部で表面採集されたアシューリアン石器群は、大きな石材の利用が明らかにも関わらず、鉈状石器やあらゆる大型剥片構成が欠けており、高度に洗練された握斧が特色という点で、サッファーカ遺跡のアシューリアン石器群とは大きく異なります。こうしたネフド砂漠南西部のアシューリアン石器群の技術的特徴は、レヴァントの後期アシューリアンと類似しています。一方、サッファーカ遺跡のアシューリアン石器群、年代の近いレヴァントのアシュールヤブルディアン技術複合(Acheuleo-Yabrudian technocomplex)と異なっており、エチオピアのミエソ(Mieso)遺跡で見られるような、年代が比較的近いと推定されているアフリカ東部のアシューリアン石器群との類似性が指摘されています。そのため、MIS7にアフリカ東部からアラビア半島へと人類集団が拡散してきた可能性が指摘されています。また、西アジアのアシューリアン石器群の製作者は、異なる系統の複数の人類集団だった可能性も考えられます。

 サッファーカ遺跡では、B・C層でもD・E層と類似した石器群が発見されていることから、MIS7〜6の期間のこの地域における文化的継続性が示唆されます。乾燥期のMIS6にもアシューリアン集団が継続したことは、サッファーカ遺跡のアシューリアン集団の柔軟性と適応能力が一定水準以上だったことを示唆します。上述したように、サッファーカ遺跡のアシューリアン集団については、石器技術の継続性からその保守的傾向が指摘されていますが、「頑迷固陋」な人類集団と短絡的に考えてはならない、ということなのでしょう。

 下部旧石器時代となるアシューリアン石器群がサッファーカ遺跡で製作されていたのと同じ頃に、レヴァントのような近隣地域では中部旧石器文化も見られます。中期更新世の西アジアにおいては、異なる文化が共存していたわけですが、人類遺骸がひじょうに少ないので、その担い手および系統関係の推測は困難です。貴重な事例としては、サッファーカ遺跡でアシューリアン石器が製作されていた頃、レヴァントには現生人類(Homo sapiens)が存在していた、と報告されています(関連記事)。サッファーカ遺跡のアシューリアン石器群の製作者がどの人類系統なのか、人類遺骸が発見されていないので不明ですが、本論文は、現生人類がアフリカから拡散してきた時に、現生人類ではない系統のホモ属と遭遇した可能性があり、サッファーカ遺跡が環境も含めてそうした状況の再構築に役立つ可能性を指摘しています。中期更新世後期の西アジアの人類史はかなり複雑だったようで、石器のみからの判断にはやはり限界があるので、今後少しでも多く人類遺骸が発見されるよう、願っています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【考古学】石器の年代決定によってアラビア半島における初期ヒト族の存在を示す手掛かりが得られた

 現在のサウジアラビアにあるSaffaqah遺跡から出土した数千点の石器(大型の剥片石器、手斧、大包丁を含む)の解析が行われ、アラビア半島における「アシュール」技術の確実な年代決定が初めて実現したことを報告する論文が、今週掲載される。この成果から、アシュール人の居住地は約24万〜19万年前あるいはその後まで、河川や湖沼などの水ネットワークに沿ってアラビア半島の中心部に広がったことが示唆されている。そのため、Saffaqah遺跡は、アジア南西部においてアシュール人の遺跡と実証された中で最も新しいものということになる。

 アシュール文化は、ヒト族の進化における重要な段階の1つで、手斧のような大型の切削工具が製作されていたことを特徴とする。今回Eleanor Scerri、Michael Petragliaたちの研究グループは、Saffaqah遺跡がこれまでに実証されたアラビアの遺跡の中で最も大規模な遺跡であることを報告している。研究グループは、この遺跡での新たな発掘作業で、500点を超える石器を発見した。1980年代に行われた発掘作業では8395点の石器が回収されたが、それらは年代決定されておらず、堆積層内の分布状況も詳しく論じられていなかった。研究グループは、これらの石器が含まれている堆積層とその下層の年代測定を行って、石器が堆積した時期を決定し、それに基づいて、これらの石器を製作・利用していたヒト族が存在していた時期を特定した。この知見に基づいて、上層の堆積層に含まれていた石器が堆積したのは約18万8000年前より以降だったとする見解が示されている。また研究グループは、アシュール文化は、アジア南西部においてその後の中期旧石器時代の典型的な技術と共存しており、この地域でヒト(Homo sapiens)が存在した時期と重複していた可能性があると主張している。

 加えて、研究グループは、Saffaqah遺跡で見つかったアシュールの技術が他の発掘現場で発見されたアシュールの石器と異なっており、アシュールの伝統において大きく異なる技術的特徴が存在していたことが実証された点を指摘し、アシュール人の分散が数回にわたって起こったことがそれぞれの遺跡に反映されている可能性があるという考えを示している。



参考文献:
Scerri EML. et al.(2018B): The expansion of later Acheulean hominins into the Arabian Peninsula. Scientific Reports, 8, 17165.
https://doi.org/10.1038/s41598-018-35242-5

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