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zoom RSS Louise Humphrey、Chris Stringer『サピエンス物語』

<<   作成日時 : 2018/11/04 05:47   >>

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 ルイーズ・ハンフリー(Louise Humphrey)、クリス・ストリンガー(Chris Stringer)著、山本大樹訳で、大英自然史博物館シリーズ2として、2018年7月にエクスナレッジより刊行されました。原書の刊行は2018年です。170ページほどですが、B5判よりやや小さい程度の大きさで文字数は少なくありませんし、ほぼ全ページカラーで索引もありますから、税抜き1800円はお買い得だと思います。近年までの知見が豊富に取り込まれており、最新の研究成果に基づく解説になっていますから、人類進化史の把握に適した一冊になっています。私にとっても、人類進化史の理解の整理にもなりましたし、新たな知見を得られて、満足できました。参考文献一覧があればもっとよかったのですが。表題には「サピエンス物語」とありますが、現生人類(Homo sapiens)に関する解説は意外と少なく、そもそもホモ属ではない人類系統の解説に半分程度の分量が割かれています。本書は遺伝学や考古学の研究成果も取り入れていますが、基本的には形態学的な解説となっており、各標本のカラー写真には迫力があります。

 初期人類の解説で注目されるのは、400万年以上前の人類としては異例なほど詳しく形態学的研究が進んでいるアルディピテクス・ラミダス(Ardipithecus ramidus)は、性的二形が現代人とさほど変わらないくらい小さかった、ということです。では、この頃にはもう人類系統の性的二形は現代人と変わらないくらいに小さくなり、以降はそのように固定されたのかというと、そうではありません。ラミダスより後に出現したアウストラロピテク・アファレンシス(Australopithecus afarensis)では、性的二形が大きかった、と指摘されています。アファレンシスは現代人の祖先である可能性が高そうですが、ラミダスの進化系統樹における位置づけは明確ではなく、後のアウストラロピテクス属の祖先との見解もあるものの、絶滅した人類系統もしくは絶滅した非人類系統の類人猿系統である可能性も指摘されています。もちろん、発見された化石の数が少なく、適切な評価は半永久的に困難でしょうが、初期ホモ属においても、アウストラロピテクス属とほぼ同程度の性的二形の大きさが維持されていた、との見解もあることから(関連記事)、少なくとも現代人へとつながる系統は、200万年前頃まではチンパンジーよりも性的二形が大きかった可能性は高いと思います。

 ホモ属の解説でやや気になったのは、さまざまな部位の豊富な人骨が一括して発見されている中期更新世の遺跡として有名な、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)の43万年前頃の人骨群についてです。本書は、SH集団を初期ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と把握していますが、訳注ではたびたび、SH集団は一般的にはハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)と分類される、と指摘されています。あるいは訳注の通りなのかもしれませんが、本文の解説にあるように、形態学的にも遺伝学的にも、SH集団を初期ネアンデルタール人と分類する方が説得的だと思います(初期ネアンデルタール人ときわめて近縁な集団とも考えられますが)。じっさいSH集団は、頭蓋(関連記事)および頭蓋以外(関連記事)の形態でも、遺伝学的にも(関連記事)、現生人類や種区分未定のデニソワ人(Denisovan)といったホモ属との比較で、ネアンデルタール人との近縁性が指摘されています。

 そもそもハイデルベルゲンシスについては、形態学的に多様性が大きく一つの種に収まらないほどの変異幅があるとか(関連記事)、ハイデルベルゲンシスの正基準標本とされているマウエル(Mauer)の下顎骨は現生人類とネアンデルタール人の共通祖先と考えるにはあまりにも特殊化しているとか(関連記事)指摘されており、現生人類とネアンデルタール人の共通祖先としての分類群として位置づけるのは難しいと思います。本書は、現生人類とネアンデルタール人の共通祖先としてアンテセソール(Homo antecessor)を想定していますが、アンテセソールがどこで進化したかは不明としています。つまり、アンテセソールがアフリカではなくヨーロッパも含むユーラシアで進化した可能性もある、というわけです。


参考文献:
Humphrey L, and Stringer C.著(2018)、山本大樹訳『サピエンス物語』(エクスナレッジ、原書の刊行は2018年)

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