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zoom RSS ヒトにおける父親からのmtDNAの遺伝

<<   作成日時 : 2019/01/06 10:13   >>

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 取り上げるのが遅れてしまいましたが、ヒトにおける父親からのミトコンドリアDNA(mtDNA)の遺伝に関する研究(Luo et al., 2018)が報道されました。ミトコンドリアはエネルギーの産生に関わっている細胞内の小器官で、核とは異なる独自のDNAを有しています。そのため、真正細菌が真核生物と共生し、取り込まれたことがミトコンドリアの起源と推定されていますが、それがどの系統かをめぐっては議論が続いています(関連記事)。ヒトのような2倍体の生物では、核DNAは1個の細胞の核内に両親から1セットずつ受け継いだ2セットの染色体上にしか存在しませんが、ミトコンドリアは1個の細胞に数千個存在することもあり、それだけmtDNAも豊富です。そのため、古代DNA研究の初期においては、核DNAの解析よりも容易なmtDNAの解析が主流でした。

 mtDNAは原則として母親からしか受け継がれません。しかし、藻類と植物では厳密な父系遺伝が観察されており、双系遺伝は酵母でよく報告されています。動物では、ショウジョウバエ・マウス・ヒツジなどいくつかの種で、稀にmtDNAの父系からの遺伝が報告されています。これまでヒトでも、mtDNAの父系遺伝がいくつか報告されてきました。しかし、それらは試料汚染の可能性が指摘されたり、骨格筋のみで他の組織では確認されなかったりするなど、確実な事例はまだありませんでした。本論文は、血縁関係にないヒト3家系の3〜4世代のmtDNAの解析から、ヒトにおいてもmtDNAの父系遺伝が確認された、報告しています。本論文は、3ヶ所の研究室で複数の方法を用いてmtDNAの父系遺伝を検証し、それを確認したことから、ヒトにおけるmtDNAの父系遺伝は確実に存在する、と言えそうです。

 本論文は、ミトコンドリア病の家系のmtDNAの解析により、トにおけるmtDNAの父系遺伝を確認しました。もっとも、厳密な父系遺伝ではなく、父系と母系双方からの遺伝です(双系遺伝)。上述したように、ヒトでも原則としてmtDNAは母親からのみ継承されます。また、細胞によっては数千個存在するミトコンドリアのDNAは、基本的にはほぼ同一なのですが(同質性、homoplasmy)、多くのミトコンドリア病では変異型が共存しており、異質性(heteroplasmy)として知られています。異質性の程度は組織により異なり、ミトコンドリア病の重症度を決定する一因となります。たとえば、小児患者の事例からは、精神・運動の力の低下などをもたらすような変異は、その割合が30%未満の時は無症状で、60〜70%に達するまでは重症化する可能性は低い、と予想されています。したがって、低水準の有害な異質性変異を有する臨床的に無症状の女性は、病因となる変異を子孫に伝えるかもしれません。

 しかし本論文は、上述したようにmtDNAが父系でも遺伝する事例を報告しており、mtDNAの異質性が双系遺伝に由来する可能性を指摘しています。本論文がまず検証した家系では、ミトコンドリア病の疑いのある4歳男児患者の双子の妹は、話すようになるのが遅かったものの、それ以外は健康でした。この双子にとって姉となる女児は健康でした。双子およびその姉の3人の子供の母には脚の痛みがありましたが、ミトコンドリア病が原因とは考えられていませんでした。双子の母方祖父は心臓発作を経験したことがあるものの、その他にはとくに疾患はありませんでした。この家系の他に、独立した2家系が調査されました。これら3家系のmtDNAの遺伝の共通点は以下の通りです。

 きょうだい間では、通常の母系遺伝と父系・母系双方からの双系遺伝が分かれます。双系遺伝の場合のmtDNAハプログループは、両親のものが混在しています。母親のmtDNAが双系遺伝の場合は、子供のmtDNAは通常の母系遺伝で、母と同じく母の両親(子供の視点からは母方祖父母)のmtDNAが継承されます。したがって、mtDNAハプログループも母方祖父母のものが混在しています。父親のmtDNAが双系遺伝のさいには、子供たちの間で通常の母系遺伝と双系遺伝の両方が見られます。ここで注目されるのは、mtDNAが双系遺伝の父親の子供のmtDNAが双系遺伝だった場合、父系のハプログループのみが継承され、父方祖母のハプログループは継承されない、ということです。もっとも、まだ3家系だけの調査なので、mtDNAが双系的に遺伝することもあるとはいっても、どのようなパターンなのか、確定したとは言えないでしょう。

 本論文は、ヒトにおいてmtDNAが基本的には母系遺伝との見解は依然として有効ではあるものの、父系からも含む双系遺伝が例外的に見られることは確実だ、と指摘します。ヒト(に限らずほとんどの生物)においてmtDNAが原則として母系遺伝なのは、受精時に父方のミトコンドリアが除去されるからですが、このある分子メカニズムはまだ部分的にしか解明されていないそうです。上述したショウジョウバエ・マウス・ヒツジなどの事例からは、異なる組み合わせが機能することで、父系でのmtDNA遺伝が起きているようです。

 本論文は、父親由来のミトコンドリアの除去と関連する未特定の核遺伝子の多様体が影響しているのではないか、と推測します。受精胚に継承される父系ミトコンドリアの量は、卵母細胞にすでに存在する母系ミトコンドリアと比較してかなり少ない(0.1%未満程度)ので、ミトコンドリアの除去と関連する未特定の核遺伝子の多様体は、mtDNAの複製もしくはコピー数制御に関与しており、父系mtDNAを増加させる一方で、母系mtDNAを増加させないか、減少させるような役割を担っているのではないか、と本論文は推測しています。また本論文は、特定のmtDNA多様体と、この未定の核遺伝子との間に相乗的な相互作用がある可能性も想定しています。

 mtDNAの父系遺伝は間違いなくたいへん注目される研究なので、今後、mtDNAの父系遺伝がどの程度の頻度で起き、それがどの程度継承されていくのか、大規模な調査が期待されます。その結果により、mtDNAに基づくじゅうらいの人類進化史も、あるいはかなりの程度修正が必要になってくるかもしれません。また本論文は、このように、時として父系でも起き得るミトコンドリアの遺伝様式の解明は、ミトコンドリア病の治療法の改善にも役立つのではないか、と指摘しています。


参考文献:
Luo S. et al.(2018): Biparental Inheritance of Mitochondrial DNA in Humans. PNAS, 115, 51, 13039–13044.
https://doi.org/10.1073/pnas.1810946115

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