現代人と似た歯の成長を示す10万年以上前の東アジア北部のホモ属

 10万年以上前の東アジア北部のホモ属遺骸の歯に関する研究(Xing et al., 2019)が報道されました。このホモ属遺骸は許家窯(Xujiayao)遺跡で発見されました。許家窯遺跡は泥河湾盆地(The Nihewan Basin)にあり、行政区分では中華人民共和国河北(Hebei)省張家口(Zhangjiakou)市陽原(Yangyuan)県に位置することになります。本論文は、許家窯遺跡で発見された推定死亡年齢6歳半(2377±47日)の子供の歯を分析し、現代人(Homo sapiens)やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と比較しました。許家窯遺跡の子供の年代は、224000~161000年前もしくは125000~104000年前と推定されています。許家窯遺跡では複数のホモ属遺骸が発見されており、その歯に関しては祖先的特徴と派生的特徴とが指摘されています(関連記事)。ただ、許家窯人の頭蓋骨の形態や薄さ、また大きな歯など多くの特徴は現代人的ではありません。

 現代人は霊長類の中でも遅い生活史を有し、歯の発達も遅くなっています。これは、子供期、つまり親をはじめとして養育者への依存期間が長いことを意味します。現代人に見られるこの生活史の遅さは、巨大な脳など現代人の重要な特徴と深く関わっている、と考えられます。このような生活史の遅さが人類進化史においていつ確立したのか、議論が続いています。エレクトス(Homo erectus)のような初期ホモ属は現代人より速く、ネアンデルタール人はその中間との見解(関連記事)は今でも有力だと思います。一方、ネアンデルタール人と現代人の成長速度はさほど変わらない、との見解も提示されています(関連記事)。

 本論文はX線顕微鏡を用いて子供の許家窯人の歯の成長と発達を定量化し、現代人やネアンデルタール人と比較しました。子供の許家窯人の歯は、歯冠形成期間の延長や最初の臼歯の萌芽の遅れといった歯の成長と発達パターンのほとんどの側面において、現代人の範囲内に収まります。異なるのは、子供の許家窯人の歯根の成長速度が現代人よりも速いことです。本論文は、許家窯人が現代人と同じく遅い生活史を有していた可能性を指摘していますが、本論文の共著者の一人であるグアテリ-スタインバーグ(Debbie Guatelli-Steinberg)氏は、子供期でも後期にどのような成長パターンだったかは不明だ、と慎重な姿勢を示しています。

 現代人と同じような歯の成長・発達パターンは許家窯人が最古の事例となり、形態学的にほぼ完全な現生人類(Homo sapiens)の出現するずっと前に、東アジア北部で現代人的な歯の成長・発達パターンが出現したことになります。許家窯人は、歯冠と歯根のサイズから、デニソワ人である可能性も指摘されています。現生人類の形成過程はたいへん複雑だったと考えられますが、現時点で有力なのは、現代人の派生的な形態学的特徴がアフリカ各地で異なる年代・場所・集団に出現し、比較的孤立していた複数集団間の交雑も含まれる複雑な移住・交流により現生人類が形成された、との「アフリカ多地域進化説」だと思います(関連記事)。

 このアフリカ多地域進化説では、現代人の変異内に収まるような形態の組み合わせの出現は10万年前頃以降と想定され、それまでは部分的に現代人的な形態を有する複数の地域集団が共存していた、と考えられます。すでに194000~177000年前頃にはレヴァントに(関連記事)、12万~8万年前頃には東アジア南部に(関連記事)現代人的な特徴を有するホモ属が出現しており、10万年以上前に現代人的な特徴を有するホモ属が東アジア北部まで拡散していても不思議ではない、と思います。

 許家窯人は、そうしたアフリカから拡散してきた現代人的な特徴を有するホモ属かもしれませんし、アフリカ起源の現代人的な特徴を有するホモ属と在来のホモ属との交雑集団かもしれません。その在来のホモ属がデニソワ人である可能性も考えられます。後期ホモ属の進化はかなり複雑だったようで、今後、アフリカの特定の地域が起源の現生人類集団が6万~5万年前頃にアフリカからユーラシアに拡散して、ネアンデルタール人など先住のホモ属を絶滅に追いやった、というような単純明快な説明が復活する可能性は低いのではないか、と思います。


参考文献:
Xing S. et al.(2019): First systematic assessment of dental growth and development in an archaic hominin (genus, Homo) from East Asia. Science Advances, 5, 1, eaau0930.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aau0930

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