中期完新世まで現代よりも多様だったパンダの食性

 パンダの食性に関する研究(Han et al., 2019)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。現生パンダはジャイアントパンダ(Ailuropoda melanoleuca)1種のみで、中国南西部の特定の山岳地帯にしか生息していません。しかし古代には、パンダはユーラシアに広く存在しており、中国に限定しても、複数種が現代よりもはるかに広範に生息していました。パンダの食性は元々肉食もしくは雑食で、鮮新世に草食へと移行し、更新世の200万年前頃に竹に特化した、と推測されていました(もっとも、稀に他のものも食べるようですが)。パンダの歯・頭蓋骨・筋肉・指の特徴は、竹を食べることに適応しているように考えられるからです。本論文は、現代パンダおよび同じ場所の動物、さらには初期更新世から中期完新世までの古代パンダおよび同じ場所の動物の骨と歯の安定同位体分析から、パンダの長期にわたる食性を推測しています。

 現代のパンダ(ジャイアントパンダ)と同じ場所の動物の同位体分析からは、食性は肉食・草食・ジャイアントパンダに3区分でき、竹のみを食べる現代パンダの特異性が再確認されました。古代から現代まで、すべてのパンダの食性ではC3植物が優占しており、パンダが鮮新世に肉食もしくは雑食から植物食へと移行した、という以前からの有力な見解が改めて支持されます。しかし、古代パンダの食性は現代パンダよりもはるかに多様で、その食性と生息環境の幅は、古代の方が現代よりも3倍程度大きかった、と推測されています。古代のパンダは同じ場所の他の動物と同様に食性が多様で、竹に特化するようになったのはせいぜい過去5000年間のことだろう、というわけです。パンダがいつ竹のみを食べるようになったのか、より正確な時期を推定するには、過去5000年間のパンダ標本のさらなる収集が必要となります。

 上述したように、パンダは竹を食べることに適したさまざまな特徴を有しています。そのため、早くから竹に特化した食性だったと考えられても無理がないと言えるかもしれません。しかし、リームの逆説では、高度に派生した形態が特化した食性を反映している必要はなく、動物は他の食資源を見つけられるとき、その形態に適したものを食べることを避けるかもしれない、と指摘されており、たとえば人類系統では、その大きく厚いエナメル質の歯と頑丈な頭蓋骨・下顎骨から、食性は堅果や塊茎など固いものに特化していた、と考えられてきたパラントロプス・ボイセイ(Paranthropus boisei)は、死の数日前には固いものではなく果物を食べていた、と推測されています(関連記事)。ゴリラは葉を食べることに適した特徴を有しており、じっさいに葉を大量に食べますが、栄養価がずっと高く、また美味でもある果実を好んで食べます。食性と関連した類人猿(ヒト上科)の表現型の選択圧になったのは、最も好む食べ物ではなく、主要な補助食物ではないか、との見解もあります(関連記事)。

 これは哺乳類全体にもある程度当てはまるかもしれません。鮮新世に草食へと移行したパンダにとって、竹は主要な補助食物だったので、それに適した表現型が選択されていき、さらに何らかの選択圧で、竹に特化した食性のパンダ(ジャイアントパンダ)のみが生き残ったのではないか、と思います。その選択圧はおそらく人間の活動で、多様な食性のパンダ集団が人間による開発の進展にともない生息環境が失われていき絶滅したのにたいして、竹に特化した食性の集団は人間による開発の影響を受けつつも、絶滅するほどではなかった、ということだと私は考えています。あるいは、人間により生息地を大きく喪失し、他の動物との食資源をめぐる競合から食性を竹に特化する状況に追い込まれた、とも考えられます。食性範囲の広い集団より狭い集団の方が絶滅しやすそうですが、パンダは例外的と言えるかもしれません。22000年前頃のジャイアントパンダは現代よりも遺伝的に多様だったと推測されており(関連記事)、ジャイアントパンダの各系統の食性の変容も注目されます。


参考文献:
Han H. et al.(2019): Diet Evolution and Habitat Contraction of Giant Pandas via Stable Isotope Analysis. Current Biology, 29, 4, 664–669.E2.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2018.12.051

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