日本の人類学には日本人の優秀性を証明しようという差別的な動機があった

 表題の発言が流れてきましたが、全文を引用すると、

前にも指摘したが、日本の人類学(日本人起源論)には、周辺アジアの中での「日本人」(ヤマト族)の特異性、言わば優秀性を証明しようという差別的な動機があったののではないか。このことは発言者のお一人も述べられていたが、今は骨の計測値からDNAへと変わっているが、動機は変わっていないと思う

となります。「日本人」起源論に限らず、第二次世界大戦前、あるいは20世紀第3四半期の頃まで、本気で特定の民族や「人種」の優秀性もしくは劣等性を証明しようとした研究者は少なくなかったように思います。もちろん、研究者の動機を決定的に証明するのは困難なのですが、「人種」や民族の優劣が自明のものとされていた時代に、その根拠を人類学も含めて複数の学問分野の研究者たちが解明しようとしたのは、「自然な」こととも言えるでしょう。

 問題は、そうした傾向が現代において克服されているのか、ということです。現代では、各地域集団や民族集団の違いというか特異性とその形成過程を詳細に解明する傾向が強くなっています。これは、DNA解析技術の飛躍的な発展により可能となりました。その意味で、もちろん個々の研究者の動機を決定的に明らかにすることはできないとはいえ、「日本人(ヤマト族)」の特異性を証明しようという動機が多くの研究者にあると考えても不思議ではないでしょう。また今では、「日本人(ヤマト族)」内部の地域差の形成過程にも関心が寄せられ、研究が進められているくらいです。しかし、特異性の証明を「優秀性を証明しようという差別的な動機があった」と評価してしまえば、ほとんどの現代の研究者にたいする明白な誹謗中傷だと思います。あくまでも私の個人的な印象ですが、基本的に現代のほとんどの人類学者の思想的傾向は「リベラル」で、特定の民族や地域集団が他集団よりも優秀あるいは劣等と本気で証明するために研究している人はほとんどいないと思います。

 ただ、20世紀末の中国では、中国における人類集団の100万年以上にわたる長期の連続性を証明する、という明確な動機のもとに遺伝学的研究が進められた事例もあり、これは懸念されても不思議ではなく、じっさい、遺伝学に限らず中国の人類史関連の研究にたいしては、「中国政府は考古学を利用して、単一民族国家主義を強調し、『中国人』としての国民の意識を高めようとしている」との批判もあります(関連記事)。しかし、そうした動機で始められた、上海の復旦大学の遺伝学研究所が中心となった研究でも、当初の動機とは異なる、現生人類(Homo sapiens)アフリカ単一起源説を強く支持する結論が提示されており、中国の少なくとも遺伝学の研究者たちの大半?は、偏狭な民族意識に囚われているわけではないことが窺えます。現生人類の起源をめぐる議論は、中国の「核心的利益」に抵触することが少ないため、中国人研究者も(おそらく一般国民も)わりと自由に発言できるのでしょう。

 では、現代の人類学には差別的な動機はない、と言って問題解決なのかというと、そのような単純な話ではありません。現代の人類学におけるDNA研究の「帝国主義的性格」は、以前より指摘されていました。今や古代DNA研究の大御所の一人となった、『交雑する人類 古代DNAが解き明かす新サピエンス史』(関連記事)の著者であるライク(David Reich)氏も、最近ニューヨークタイムズ紙で批判されました。この批判記事を知ってから1ヶ月ほど経過し、論評やライク氏の反論も含めて取り上げようとは考えているのですが、批判記事が長大で重要な論点を含んでいるので、怠惰で不見識な私としては取り上げるだけの気力がなかなか湧きません。

 主観としては差別的な動機がなくとも、結果として差別的な構造に加担してしまう、という事例は珍しくないと言えるでしょう。現代の人類学におけるDNA研究もそうした陥穽に陥っているのではないか、との指摘自体は重要だと思います。じつのところ現代日本においても、そうした問題が解決済とはとても言えません。おそらく世界でも、そうした問題はありふれているでしょう。人類遺骸ではなく遺物でも、かつての帝国主義諸国の博物館と遺物が発見された国々との間の返還をめぐる問題も珍しくありません。おそらく現代の人類学者のほとんどには、単純に帝国主義の時代的な意味合いでの差別主義的動機は存在しないでしょうが、だからといって構造的な差別に加担していないとは直ちに断定できないところが、現代的な難しさではあると思います。

 ただ私は、地域集団や民族集団間や性別に実質的な遺伝学的差異はない、というような「リベラル的な」見解には反対で、それを「政治的正しさ」から無視し続ければ、やがて大きな問題を招来するのではないか、と懸念しています(関連記事)。このように考えてしまうところが、私の「ネトウヨ」たる所以なのでしょう。まあ現時点では、私の知名度は限りなく皆無に近いので、「ネトウヨ」と罵倒されたことはありません。Twitterのアカウント凍結の可能性はありますが、情報収集の点で不便になるかもしれないとはいえ、対処策もあるので、本当に困ることもないでしょう。

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