『卑弥呼』第10話「一計」

 『ビッグコミックオリジナル』2019年2月20日号掲載分の感想です。前回は、トンカラリンの洞窟からの脱出に成功したヤノハを、祈祷部(イノリベ)の女性たちが日見子(ヒミコ)と認めて崇めるところで終了しました。今回は、祈祷部の長であるヒルメが、輿の中のヤノハに語りかける場面から始まります。ヒルメはヤノハに、日見子となったのでもはや下々の巫女に顔を見せてはならない、と言って、明日の昼まで輿の中にいるよう伝えます。ヒルメは、数名の巫女と一足先に種智院(シュチイン)へと戻り、ヤノハの世話は、祈祷女見習いたちへの講義を担当しているイクメが見ることになります。

 なぜ先に戻るのか、とヤノハに問われたヒルメは、百年ぶりに日見子が顕れたので、祝いの準備が必要だ、と答えます。ヒルメ様が発った後、誰かに襲われれば、自分はひとたまりもない、と言うヤノハに対して、誰に襲われるのだ、とヒルメはわざとらしく尋ねます。タケル王か鞠智彦(ククチヒコ)様だ、と答えるヤノハに、なぜそう思うのか、とまたしてもわざとらしく尋ねます。ヤノハはややきつい口調で、タケル王は自称日見彦(ヒミヒコ)なので、日見子の出現は看過できないはず、と答えます。ずる賢いだけあって、身の危険を誰よりも早く察するようだな、とヒルメは皮肉を言います。日見子が顕れたとの報せはまだ鞠智の里にも都(鹿屋のことでしょうか)にも届いていないから案ずるな、と冷ややかに言うヒルメに対して、すぐに届く、とヤノハは反論します。

 ヒルメが立ち去った後、輿から出たヤノハを、イクメは慌てて輿に戻そうとします。ヤノハは、自分を守るために残ったのが、戦女(イクサメ)2人と祈祷女(イノリメ)4人とイクメともう1人の計8人であることから、ヒルメは自分を殺そうとしているのだ、と推測します。ヒルメからイクメへ支持は、お暈(ヒガサ)さまが真上に来た時に発て、というものでした。敵に襲われたらお前はともに死ぬつもりなのか、それとも逃げろと言われているのか、と問われたイクメは返答に窮します。ヒルメは自分を殺そうと考えているはずだ、と改めてヤノハに問われたイクメは、トンカラリンより生還した日見子を命に代えても守る、自分は山社(ヤマト)を守る将軍ミマトの娘なので武術にも覚えがある、とヤノハに訴えます。

 ヤノハは思うところがあったのか、自分に天照さまが降りるというのは勘違いだった、自分は日見子ではない、とイクメに打ち明けます。しかしイクメは、トンカラリンからの生還者はヤノハだけだった、天照さまのお力なくしてどのように脱出できたのか、となおもヤノハを日見子と信じて疑いません。ヤノハは、日向(ヒムカ)の日の守(ヒノモリ)だった養母からお天道さまの動きを読むことと、植物・石・獣の習性を教わり、その知識を駆使して抜け出せたのだ、とイクメに打ち明けます。それでもイクメは、正直な人だとヤノハ感心します。自分を見捨てて皆と発ってくれ、自分はどこかに消える、とイクメに提案するヤノハですが、その知識も天照さまが降りた証だとイクメは言い、ますますヤノハを守ろうと決意を固めます。するとヤノハもついに覚悟を決め、イクメに策を授けます。

 その頃、志能備(シノビ)から報告を受けたウガヤは、トンカラリンから生還者が出た、と鞠智彦に伝えていました。日見子が出現したのか、と鞠智彦に問われたウガヤは、それはまだ分からない、と答えます。鞠智彦は、アカメという手練れの志能備を送り込んだのに、なぜ生還者が出たのか、疑問に思います。神降りを騙る者は、手足の骨を砕いて野に放つのが定めだが、生還者をどうするのか、とウガヤに問われた鞠智彦vは、会ってみたいので連れてこい、と命じます。どのようにトンカラリンを抜けて暗殺を防いだのか、ぜひ話を聞きたい、というわけです。

 一方、種智院では、祈りを捧げるヒルメに、日見子出現の噂が暈(クマ)の国の警備兵に届いており、討伐の兵も鞠智の里から贈られたと聞いている、と祈祷部の副長であるウサメが報告していました。ヤノハというか日見子の身を案じるウサメにたいして、ヤノハが真の日見子と思うか、とヒルメは問いかけます。ヤノハに天照さまが降りたのを見たこともなければ、お告げを聞いたこともない、というわけです。トンカラリンから無事に脱出した、と言うウサメにたいして、ヤノハは小賢しいので何か仕掛けがあるに違いない、とヒルメは言います。見殺しにするのか、とウサメに問われたヒルメは、天照さまにもう一度お伺いを立てる、と答えます。真の日見子ならば、殺されずに種智院に戻るだろう、というわけです。ヤノハが無事帰還すれば自分もヤノハを日見子と認めて仕えるが、その可能性は万が一にもないと思う、とヒルメはウサメに言います。

 その夜、ヤノハの世話を任された者たちが輿を担ぎ種智院へと向かっている途中で、鞠智彦の命を受けた兵士たちが現れます。日見子の護衛に来た、と巫女に言う指揮官らしき男性ですが、じっさいは日見子というかヤノハを拉致するために来たわけです。輿の中を見ようとする指揮官らしき男性に巫女たちは抵抗しますが、鞠智彦の命に背くのか、と言われて仕方なく中を見せます。しかし、そこには供え物があるだけで、ヤノハはいませんでした。兵士たちは、謀られた、と悟ります。

 その頃、ヤノハはウサメとともに草原で月を眺めていました。ヤノハに夢を問われたウサメは、皆と同じくこの国が平和になることだ、と答えます。ウサメに夢を問われたヤノハは、ただ生き延び、美味いものを食べて眠りたい時に眠り、誰にも邪魔されず自由に生きることだ、そのためだけに種智院に身を寄せた、と答えます。ヤノハが、自分の夢のためにはウサメたちの夢である倭国大乱に終止符を打つことが必要だと悟り、自分に倭国の歴史・地理・海の彼方の大陸のことなどを教えてほしい、とウサメに頼むところで、今回は終了です。


 今回は、ヤノハが卑弥呼となる道筋がはっきりと描かれました。ヤノハは自分が日見子(卑弥呼)の器ではない、と自覚していますが、生きることに必死で手段を選ばなかった結果、自分が現在置かれた状況では、日見子としてふるまい続けるのが最善の道だと覚悟を決めたのでしょう。しかし、暈の国の上層部には敵が多く、前途多難です。まず、ヒルメはヤノハへの敵意・殺意を隠そうとすらしていません。タケル王も鞠智彦も日見子というかヤノハを殺そうとするだろうから、それに任せておけばヤノハは殺されるだろう、とヒルメは楽観しているのでしょう。ヒルメはかつてウサメに、日見子が出現した場合、タケル王と鞠智彦が日見子を殺そうとするだろうが、味方は隠れたところに大勢いるので案ずるな、と諭したことがあります(第3話)。つまり、タケル王と鞠智彦が日見子を殺そうとしても、それを防げる、とヒルメは確信しているようなのですが、今回はその対策をとらず傍観するので、日見子たるヤノハは殺されるだろう、というわけです。

 一方、鞠智彦の側は、ヒルメの意図とは異なる行動をとろうとしているようです。鞠智彦は、暗殺者の志能備を退けてトンカラリンから脱出したヤノハに興味を抱き、直接話を聞こうとしています。鞠智彦は、話を聞いた後でヤノハを殺すつもりなのかもしれませんが、説得できるようなら、志能備として自分に仕えさせようと考えているのかもしれません。ともかく鞠智彦は、ヤノハが日見子だとまったく考えていないようで、タケル王が真の日見彦ではないと知っていることからも、そもそも日見子や日見彦の出現自体を信じていないのかもしれません。鞠智彦は冷静な武人といった感じで、大物感があります。一方、タケル王は小物感が否めませんし、顔もややモブっぽいので、ヤノハに立ちはだかる人物としては、鞠智彦の方が重要になりそうだ、と予想しています。

 ヒルメはヤノハが日見子だとまったく考えていませんし、鞠智彦も、ヤノハの生き抜く力を評価しているだけで、タケル王との関係からも、ヤノハを日見子と認めるつもりはまったくないようです。ヤノハが日見子となる道筋がはっきりと描かれましたが、このまますんなりと日見子と認められ、倭国大乱を平定するような話になるとはとても思えません。何よりも、暈の国は後の熊襲で、『三国志』の狗奴国だと思われますから、卑弥呼(日見子)とは対立することになります。ヤノハが日見子と広く認められるとしても、暈の国を脱出した後になりそうです。暈の国上層部はヤノハに敵対的ですが、ウサメはヤノハを日見子と認めて支えていくつもりのようですし、祈祷女やその見習いたちの多くも、素朴にヤノハを日見子と認めそうです。ウサメはややモブっぽい顔なので、退場は早そうですが、今後、ヤノハの弟(ヤノハは弟が死んだと考えていますが)などヤノハを支える人物が次々と登場しそうなので、楽しみです。また、ヤノハがモモソを殺したと知っているヌカデも再登場が予想されるので、日見子と認められたヤノハとどう関わっていくのか、注目されます。

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