君塚直隆『ヨーロッパ近代史』

 ちくま新書の一冊として、筑摩書房より2019年1月に刊行されました。本書が対象とする時代は、ルネッサンスから第一次世界大戦の終結とレーニンの死去までとなります。本書は、宗教と科学というか「理性」との相克を軸に、この期間のヨーロッパの近代化を描写していきます。本書の構想の前提として、中世ヨーロッパは「神の時代」であり、キリスト教により統一された世界だった、との認識があります。ただ、本書が対象としている地域は基本的にヨーロッパ西方世界(最終章のみロシアが主役と言えますが)なので、キリスト教とはいっても実質的にはほぼ西方教会です。近代化におけるヨーロッパ西方の果たした役割を考えると、妥当なところでしょうか。また、宗教と科学の視点からのヨーロッパ近代史なので、経済史的側面はかなり弱くなっています。本書でもこうした点は指摘されており、さまざまな関連書籍で補っていくべきなのでしょう。

 本書は時代順の概説となっており、8章構成です。本書の特徴は、各章がその時代を象徴する人物の動向中心の叙述となっていることです。具体的には、ダ・ヴィンチに始まり、ルター→ガリレオ→ロック→ヴォルテール→ゲーテ→ダーウィン→レーニンとなります。これは、新書ということでなかなか工夫された構成だと思いますし。じっさい、読み物として面白くなっており、新書として成功と言えるのではないでしょうか。ゲーテは文学面での新しさ(フランス語ではなく「母語」たるドイツ語での作品執筆)とは対照的に政治面では保守的だった、との評価はやや紋切り型かな、とも思うのですが、ゲーテはもちろんこの時代にも詳しいわけではないので、判断は保留しておきます。

 本書は、「神の時代」だった中世から「人間」の「再評価」のルネッサンスを経て、「個人」が登場するところに、近代の始まりを見出しています。しかし本書は、第一次世界大戦を契機として、「大衆」の時代が到来し、「個人」が衰微する状態に戻ってしまった、との見通しを提示しています。「大衆」全員が、「責任ある態度」をとれる「個人」になったわけではない、と本書は指摘します。本書はこれを匿名性と無責任性に結びつけ、選挙における棄権やインターネットでのさまざまな問題との関連を指摘しています。やや類型的にも思えますが、これは現代社会の大きな問題ではあると思います。

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