ルソン島の後期更新世の新種ホモ属(追記有)

 ルソン島の後期更新世の新種ホモ属に関する研究(Détroit et al., 2019)が報道(Tocheri., 2019)されました。ルソン島北部のカラオ洞窟(Callao Cave)では2007年に人類の第3中足骨が発見されており、現生人類(Homo sapiens)のものとも言われていましたがはっきりとせず、更なる検証が必要だろう、との指摘もありました(関連記事)。本論文は、その後カラオ洞窟で新たに発見された、少なくとも3人(成人2個体と子供1個体)分となる20点の人類遺骸の分析・比較結果を報告しました。比較対象となったのは、現生人類やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)やアフリカ・ヨーロッパ・アジアの初期ホモ属やアウストラロピテクス属やパラントロプス属です。

 本論文は、それらの分析・比較の結果、カラオ洞窟で発見された、既知の人類遺骸と合わせて13点(7本の歯・2個の手の骨・3個の足の骨と1個の大腿骨)を、ホモ属の新種に分類してルゾネンシス(Homo luzonensis)と命名しています。そのうち1個体の上顎には2本の小臼歯と3本の大臼歯が含まれます。ルゾネンシスの年代は、ウラン系列法により、67000~50000年以上前と推定されています。ルゾネンシスのDNA解析には成功していないそうで、残念ながら、年代と環境から成功の可能性はかなり低いと予想されます。

 ルゾネンシスの形態は独特で、それが新種認定の根拠とされました。ルゾネンシスの大臼歯はかなり小さく、歯冠の比較からも、アジアのエレクトス(Homo erectus)や南シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)でのみ確認されている種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)とは異なります。ただ、ルゾネンシスの第一大臼歯には、インドネシアのいくつかのエレクトス化石との類似性が見られるそうです。また、ルゾネンシスの大臼歯の外部形態は現生人類と類似していますが、歯冠・EDJ(象牙質とエナメル質の接合部)・歯根には祖先的特徴が見られ、アウストラロピテクス属とパラントロプス属を含む早期人類と類似しています。ルゾネンシスのEDJは、ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)以外の人類とは異なる形態を有しています。ルゾネンシスの小臼歯は他の人類と比較して大きいというか、大臼歯と小臼歯のサイズの比率が他の人類と大きく異なり、例外はパラントロプス属くらいです。

 アウストラロピテクス属の手と足の形態は、一般的に(現代人を除く)大型類人猿と現代人との中間と認識されていますが、それは、直立二足歩行と木登りの程度への適応度がどの程度の比率になっているのか、という問題です。ルゾネンシスとアウストラロピテクス属のアファレンシス(Australopithecus afarensis)やアフリカヌス(Australopithecus africanus)は、手と足の形態が類似しています。ルゾネンシスの指と爪先の骨は湾曲しており、多くの初期人類種と同様に、木登りが重要な行動の一部だったことを示唆します。つまり、ルゾネンシスの木登りの能力は(エレクトスおよびその子孫系統の)ホモ属よりも高かったのではないか、というわけです。しかし本論文は、ルゾネンシスの遺骸が断片的であることから、その歩行形態や手の操作能力の推測には限界がある、と指摘しています。全体的に、ルゾネンシスの歯・手・足の形態の組み合わせはたいへん独特で、研究者たちにとっても予想外でした。そのため、ルゾネンシスを人類進化系統樹においてどこに置づけるのか、判断が難しくなっています。

 上述の年代から、ルゾネンシスは5万年以上前にルソン島に存在していました。カラオ洞窟の近くのガヤン盆地(Cagayan Valley)では70万年前頃の人類の痕跡が発見されており(関連記事)、ルゾネンシスはルソン島に70万年以上前から存在していたかもしれません。そうだとすると、同じくアジア南東部となるインドネシア領フローレス島のホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)とルゾネンシスは、中期更新世前期から後期更新世まで、アジア南東部の島嶼部に存在したことになります。もっとも、フロレシエンシスは前期更新世からフローレス島に存在した可能性が高そうですが(関連記事)。

 ルソン島もフローレス島も、更新世寒冷期の海水準が最低位の時さえ、大陸から到達するにはかなりの距離の渡海が必要です。ルゾネンシスもフロレシエンシスもどのように渡海したのか、現時点では確証がありません。ルゾネンシスとフロレシエンシスはともに、ホモ属では稀か存在しないものの、アウストラロピテクス属と類似した特徴も有しています。フローレス島と同じく、ルソン島も脊椎動物の固有性が高く、ルゾネンシスとフロレシエンシスのアウストラロピテクス属的な特徴は、島嶼化による収斂進化かもしれませんが、さらなる発見ともっと明確な証拠が必要と本論文は指摘しています。本論文は、更新世の非アフリカ系地域、とくにアジア南東部の島々における、ホモ属の進化・拡散・多様性の複雑さを強調しています。

 上記報道でトッチェリ(Matthew W. Tocheri)氏はさらに、ルゾネンシスがアフリカからの初期人類の拡散に関する有力説を書き換える可能性にも言及しています。じゅうらいの有力説では、人類は脳が大型化し、現代人のように直立二足歩行に特化したエレクトス以降にアフリカからユーラシアへと拡散した、と考えられています。つまり、ホモ属でも最初期のハビリス(Homo habilis)のような祖先的特徴の強い種はアフリカに留まった、というわけです。トッチェリ氏は、ルゾネンシスもフロレシエンシスも、アジア南東部のエレクトスの子孫である可能性が高いだろう、とも認めています。しかし、上述したように、ルゾネンシスとフロレシエンシスには、ホモ属においては稀でアウストラロピテクス属と類似した特徴も見られます。これを島嶼化による収斂進化と考えるにはあまりにも偶然の一致が多いように見える、とトッチェリ氏は指摘します。

 じっさい、ジョージア(グルジア)のドマニシ(Dmanisi)では180万年前頃のホモ属が発見されていますが、脳容量が小さく、形態にはアウストラロピテクス属的なところがあります(関連記事)。また、中国では212万年前頃の石器が発見されています(関連記事)。そのためトッチェリ氏は、最初にアフリカからユーラシアへと拡散した人類がエレクトスではなかった可能性を指摘しています。つまり、ハビリスのようなアウストラロピテクス属とホモ属の特徴の混在した人類系統がアフリカからユーラシアへと拡散し、アジア南東部や東部に到達して、ルゾネンシスやフロレシエンシスへと進化した可能性がある、というわけです。私は、ルゾネンシスもフロレシエンシスもスンダランドのエレクトスから進化し、アウストラロピテクス属的な特徴は祖先からの継承ではなく、島嶼化によるものではないか、との見解に傾いていますが、自信はありません。ともかく、更新世におけるアジア南東部や東部の人類進化史は、じゅうらいの想定よりもかなり複雑だったようで、今後の研究の進展がたいへん楽しみです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【考古学】フィリピンで見つかったヒト属の新種の化石

 フィリピンのカラオ洞窟で見つかった古代のヒト族の化石(数点の手と足の骨、大腿骨の一部、数点の歯)について報告する論文が、今週掲載される。これらの化石は、今から5万年前の更新世後期にルソン島で生活していたヒト属の新種を示す十分な証拠となる。

 70万年前に動物の屠殺が行われていたことを示す証拠と、67000年前のものとされる足の骨の化石1点の発見により、ルソン島にヒト族が存在していたことがすでに示されている。今回、Florent Detroit、Armand Mijaresたちの研究グループは、これらの化石が出土したカラオ洞窟の同じ地層で、さらに12点のヒト族の骨と歯の化石を発見し、それらが少なくとも3個体に由来することを明らかにした。この新たに発見された化石標本には、東南アジア島嶼部で生活していたヒト族フローレス原人(Homo floresiensis)などのヒト属種とは著しく異なる特徴(例えば、独特な小臼歯など)があった。今回の研究で明らかになった新種は、著者たちによってホモ・ルゾネンシス(Homo luzonensis)と命名された。

 この地域におけるこれまで知られていなかった新種の存在は、東南アジア島嶼部がヒト属の進化において重要なことを強調している。


古人類学:後期更新世のフィリピンに生息していたヒト属の新種

Cover Story:アジアのヒト属:フィリピンで発見された新たなヒト族

 表紙は、新たに発見され「ホモ・ルゾネンシス(Homo luzonensis)」と名付けられたヒト族種の2本の大臼歯である。今回F Détroit、 A Mijares、 P Piperたちは、5万年以上前にフィリピンのルソン島に住んでいたこのヒト属(Homo)の、少なくとも3個体に属する歯、足と手の骨、大腿骨の一部からなる12点の標本をカラオ洞窟で発掘した。これらの骨は、2007年にこの洞窟で発見され年代が6万7000年前と推定された1点の足の骨に加わるもので、これらの新たな標本によって新種の正式な記載が可能になった。インドネシアのフローレス島で発見された小型のヒト族フローレス原人(Homo floresiensis)と並んで、今回のホモ・ルゾネンシスの発見は、ヒト属の進化における東南アジアの島嶼個体群の重要性を浮き彫りにしている。これら2種には違いがあるものの、両者の状況は類似していた可能性があり、共に、それ以前のヒト族が離島に隔離されて独自の進化の道筋をたどった残存個体群であると考えられる。



参考文献:
Détroit F. et al.(2019): A new species of Homo from the Late Pleistocene of the Philippines. Nature, 568, 7751, 181–186.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1067-9

Tocheri MW. et al.(2019): Previously unknown human species found in Asia raises questions about early hominin dispersals from Africa. Nature, 568, 7751, 176–178.
https://doi.org/10.1038/d41586-019-01019-7


追記(2019年4月13日)
 ナショナルジオグラフィックでも報道されました。



追記(2019年4月22日)
 講談社のサイトに解説記事が掲載されました。

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