佐伯智広『皇位継承の中世史 血統をめぐる政治と内乱』

 歴史文化ライブラリーの一冊として、吉川弘文館より2019年4月に刊行されました。本書は皇位継承の視点からの政治史となっています。表題に「中世史」とあるように、おもに院政期から室町時代前半までが対象となっていますが、古代にもそれなりの分量が割かれています。通史で皇位継承問題に言及されることは珍しくありませんが、古代にもそれなりの分量を割きつつ、中世史を一貫して皇位継承の観点から叙述する試みは、一般向け書籍としては新鮮かな、と思います。

 本書は、現代日本社会で理想例として考えている人が多そうな父親から息子への皇位継承は歴史的に形成されてきたものであり、古代には兄弟間の皇位継承も珍しくなかった、と指摘します。これは、天皇(大王)の明確な代行者がまだ確立しておらず、天皇に政治的判断力と権威が要求されるため、即位条件として一定以上の年齢であることが要求されていたからでした。天皇の代行者としての摂政の確立により、幼年男子の即位も可能となり、皇位の父子継承の条件が整いました。

 しかし、摂関政治期には外戚の、院政期には治天の君の意向が強い影響力を有し、皇位継承はその時々の政治状況に左右され、父子継承が確立したわけではありませんでした。承久の乱の後、鎌倉幕府は朝廷に対して圧倒的な優位を確立しましたが、後嵯峨即位時を除いて、鎌倉幕府は基本的に皇位継承問題への介入には消極的でした。本書がその例外としているのは平頼綱政権期で、ここで皇統の分裂が確立し、南北朝時代を迎えます。南北朝時代に北朝では天皇が大きく政治的実権を失い、これ以降、もはや皇統の分裂も移動もなくなり、現代日本社会で考えられているような皇位の父子継承が確立した、と本書は指摘します。もちろん、天皇が後継者となる息子を必ず儲けられるとは限りませんが、父子関係でない場合には養子関係が設定されました。こうした父子関係にない場合の皇位継承にさいして養子関係を結ぶことは平安時代からあり、皇位の父子継承への拘りはずっとあったわけですが、それが確立したのは天皇が政治的実権をほぼ失った室町時代だった、というわけです。

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