渡邉義浩『漢帝国 400年の興亡』

 中公新書の一冊として、中央公論新社から2019年5月に刊行されました。本書は秦王朝崩壊期から『三国志』の時代までを対象とし、漢王朝の前提となる秦の制度と、漢王朝滅亡後の漢の「古典化」にも言及しています。本書は、「漢」がいかに「中国の古典」となったのか、儒教を中心に解説しています。古典的というか通俗的見解では、前漢武帝期に儒教が国教化された、となっています。しかし日本でも、20世紀後半には一般向け書籍でそうした見解が批判的に取り上げられるようになり、私のような非専門家層にも、かなり知られるようになったのではないか、と思います。

 本書も、前漢武帝期に儒教が「国教化」されたわけではなく、前漢景帝期に始まり、後漢章帝期の白虎観会議(紀元後79年)で完成した、との見解を提示しています。本書はこの過程を、多様な儒教解釈の変遷から検証しています。正直なところ、儒教史に疎い私にとって、一読しただけで的確に全体像を把握するのは無理だったので、今後再読するつもりです。前漢成立後、儒教は時の権力者に取り入るため、多様な解釈を提示します。この権力者の中には、皇帝だけではなく、霍光や王莽のような権臣もいます。霍光はあくまでも臣下の地位に留まり続けましたが、王莽は儒家の新解釈も利用して皇帝に即位します(新王朝)。本書では、儒教が柔軟な解釈で時の権力者に取り入っていった様子が鮮やかに叙述されており、儒教が「国教」となり、「中国の古典」の中核となったことも納得できます。

 本書の主題は漢王朝がいかに「中国の古典」になったのか、ということであり、儒教解釈の変遷が詳しく解説されているので、表題から受ける印象とは異なり、前後合わせて400年ほどの漢王朝の一般向けの標準的な通史という性格は弱くなっているように思います。しかし、本書冒頭の秦王朝崩壊期における劉邦と項羽の覇権争いの解説はかなりのところ古典的というか通俗的な物語的な叙述になっており、読み終わってから振り返ると、本書の中では浮いてしまっているようにも思います。まあ、この時代に関しては子供の頃に得た知識からあまり上積みのない私にとって、なじみ深い叙述ではありましたが。本書を読み始めた時は、一般向けを強く意識した物語的な漢王朝史になるのかな、と予想しただけに、その後の儒教解釈の変遷の(一般向けとしては)詳しい解説が始まると、やや戸惑いました。秦王朝崩壊期に関する一般向け書籍は何冊か所有しているので、21世紀以降のものを再読して、近年の研究成果に基づいた解説を再度把握しておこう、と考えています。

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