喫煙行動の関連遺伝子座

 喫煙行動の関連遺伝子座についての研究(Matoba et al., 2019)が公表されました。喫煙は、ヒトのさまざまな疾患のリスク因子です。この研究は、日本人集団における喫煙行動に関連する遺伝的因子を調べるために、165436人を対象として、喫煙に関連した4形質について全ゲノム関連解析を行ないました。その結果、1日あたりの喫煙本数に関連する3つの遺伝子座(EPHX2–CLU、RET、CUX2–ALDH2)、喫煙の開始に関連する3つの遺伝子座(DLC1、CXCL12–TMEM72-AS1、GALR1–SALL3)、喫煙開始年齢に関連する1つの遺伝子座(LINC01793–MIR4432HG)を含む計7つの新たな遺伝子座が同定されました。

 このうち3つの遺伝子座(LINC01793–MIR4432HG、CXCL12–TMEM72-AS1、GALR1–SALL3)は、追加の性別層別化全ゲノム関連解析によって明らかとなりました。この追加の解析からは、男女で影響に差がある、と判明しました。異性間連鎖不均衡スコア回帰分析の結果からも、喫煙開始の遺伝的因子に男女間で有意差がある、と分かりました。形質間連鎖不均衡スコア回帰分析および形質関連組織解析から、1日あたりの喫煙本数には、他の3つの喫煙行動とは異なる特異的な遺伝的背景があることも明らかになりました。またこの研究は、喫煙行動と遺伝的背景が共通する11の疾患についても報告しています。

 この研究は、これらの知見は追試試料を欠くため慎重に考慮すべきであるものの、喫煙行動の遺伝的構造を明らかにするもので、アジア東部の人類集団を対象としたさらなる研究により、この研究の結果が確認されねばならない、と指摘しています。私は子供の頃から煙草が心底嫌いで、一度も煙草を吸ったことがなく、吸いたいと思ったこともまったくないのですが(たいへん不愉快なことに、受動喫煙の経験は多数あります)、これは環境要因だけではなく遺伝的要因もあるのでしょうか。なお、現代人(Homo sapiens)において、ニコチン依存症の危険性を高める、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)由来と推測される遺伝子も確認されています(関連記事)。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


日本人165,436人を対象とした喫煙行動のGWASから7つの新たな遺伝子座と共通の遺伝的構造が明らかとなった

 喫煙は、ヒトのさまざまな疾患のリスク因子である。日本人集団における喫煙行動に関連する遺伝的因子を調べるために、165,436人を対象として、喫煙に関連した4つの形質について全ゲノム関連解析を行った。その結果、1日あたりの喫煙本数に関連する3つの遺伝子座(EPHX2–CLU、RET、CUX2–ALDH2)、喫煙の開始に関連する3つの遺伝子座(DLC1、CXCL12–TMEM72-AS1、GALR1–SALL3)、喫煙開始年齢に関連する1つの遺伝子座(LINC01793–MIR4432HG)を含む計7つの新たな遺伝子座が同定された。このうち3つの遺伝子座(LINC01793–MIR4432HG、CXCL12–TMEM72-AS1、GALR1–SALL3)は、追加の性別層別化全ゲノム関連解析によって明らかとなったものである。この追加の解析からは、男女で影響に差があることが判明した。異性間連鎖不均衡スコア回帰分析の結果からも、喫煙開始の遺伝的因子に男女間で有意差があることがわかった。形質間連鎖不均衡スコア回帰分析および形質関連組織解析から、1日あたりの喫煙本数には、他の3つの喫煙行動とは異なる特異的な遺伝的背景があることが明らかとなった。また、喫煙行動と遺伝的背景が共通する11の疾患についても報告する。今回の研究は追試試料を欠くため慎重に考慮すべきであるが、得られた知見は、喫煙行動の遺伝的構造を明らかにするものである。東アジア人集団を対象としたさらなる研究によって、我々の結果が確認されることが必要である。 日本人集団の喫煙行動の遺伝的因子が調べられ、喫煙行動に関連する7つの遺伝子座と、喫煙行動と遺伝的背景を共有する11の疾患が同定された。



参考文献:
Matoba N. et al.(2019): GWAS of smoking behaviour in 165,436 Japanese people reveals seven new loci and shared genetic architecture. Nature Human Behaviour, 3, 5, 471–477.
https://doi.org/10.1038/s41562-019-0557-y

アーモンドの栽培化を可能にした変異

 アーモンド(Prunus amygdalus)の栽培化を可能にした変異に関する研究(Sánchez-Pérez et al., 2019)が公表されました。日本語の解説記事もあります。まだ議論もあるものの、アーモンドの木の最初の栽培化は近東で完新世前半に始まったと考えられており、エジプトとギリシアにおけるナッツの初期の考古学的証拠により支持されています。しかし、野生アーモンドの種には苦くて毒性のある青酸配糖体アミグダリンが蓄積されます。これまでの研究から、アーモンドの最初の栽培化は、食べられない野生型に由来する食用の甘い種の遺伝子型を選抜することで可能になった、と示唆されています。しかし、最初の栽培化以来、アーモンドは地球上で最も広まったナッツ類となっているものの、アーモンドの分布と経済的重要性にも関わらず、そのゲノムの詳細な理解はバラ科の植物など他種よりも遅れており、甘い食用のナッツを作り出せる遺伝子の性質も分かっていませんでした。

 本論文は、アーモンドの完全な参照ゲノムを報告し、アセンブルした配列を用いて、毒性のある苦いアーモンドと甘いアーモンドの遺伝的差異を解明しました。これにより、甘い種の遺伝子型に関連する転写因子のクラスターが発見されました。このうちbHLH2が毒性化合物アミグダリンの産生の生合成経路の制御に関与している、と明らかになりました。この結果から、bHLH2の変異によりアミグダリンの産生が抑制され、その結果甘いアーモンドの遺伝子型が生み出され、栽培化中に積極的に選抜された、と示されました。私は植物の進化史や栽培化の歴史には本当に疎いのですが、人類進化史とも深く関わっているので、今後少しずつ知見を得ていこう、と考えています。


参考文献:
Sánchez-Pérez R. et al.(2019): Mutation of a bHLH transcription factor allowed almond domestication. Science, 363, 6445, 1095–1098.
https://doi.org/10.1126/science.aav8197