シロイルカとイッカクの雑種

 シロイルカ(Delphinapterus leucas)とイッカク(Monodon monoceros)の雑種に関する研究(Skovrind et al., 2019)が公表されました。両者は500万年前頃に分岐し、165万~125万年前頃に両者の間で遺伝子流動があった、と推定されています。この研究は、1990年に西グリーンランドで発見され、デンマーク自然史博物館に保管されている頭蓋骨の歯から抽出したDNAを解析し、この頭蓋骨のDNAと、頭蓋骨が発見された西グリーンランドの同じ地域に生息するシロイルカ8頭およびイッカク8頭から得たDNAと比較されました。その結果、この頭蓋骨標本は遺伝的に、54%がシロイルカで、46%がイッカクである、と示唆されました。この研究は、個体の性別を決定する一般的な方法であるX染色体と常染色体の比を用いて、この雑種が雄であると推定しました。また、この個体のミトコンドリアDNA解析から、その母親がイッカクと示唆されました。つまり、父親がシロイルカというわけです。

 この研究はまた、頭蓋骨から抽出した骨コラーゲンに含まれる炭素と窒素の同位体を分析し、イッカク18頭およびシロイルカ18頭の頭蓋骨の参照パネルの骨コラーゲンと比較しました。その結果、頭蓋骨から抽出された試料に含まれる炭素同位体の濃度は他の頭蓋骨よりも高く、この雑種の食餌は親種のいずれとも異なっていた、と示唆されました。この研究は、こうした知見に基づき、この雑種がイッカクやシロイルカよりも海底に近い場所(深海底域)で採餌していた、と推測しています。500万年前頃に分岐し、165万~125万年前頃は遺伝子流動の痕跡の確認されていない種間でも交雑が起き得るわけですから、アザラシの事例(関連記事)などからも、哺乳類において交雑は珍しくないと考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【進化】シロイルカとイッカクの間で雑種形成があったことを示す博物館所蔵の頭蓋骨

 1990年に西グリーンランドで発見された頭蓋骨から得られた遺伝子を解析した結果、これが雌のイッカクと雄のシロイルカの第一世代の雄の子孫のものであることが明らかになったと報告する論文が、今週掲載される。この知見は、イッカクとシロイルカの間で雑種形成があった可能性を示す唯一の証拠となる。

 今回、Mikkel Skovrind、Eline Lorenzenたちの研究グループは、デンマーク自然史博物館に保管されている頭蓋骨の歯から抽出したゲノムDNAの解析を行った。今回の研究では、この頭蓋骨のDNAと、頭蓋骨が発見された西グリーンランドの同じ地域に生息するシロイルカ8頭とイッカク8頭から得たゲノムのDNAとが比較された。この解析から、この頭蓋骨標本は54%がシロイルカで、46%がイッカクであることが示唆された。著者たちは、個体の性別を決定する一般的な方法であるX染色体数と常染色体数の比を用いて、この雑種が雄であると推定した。また、個体のミトコンドリアゲノム(全DNAのごく一部で、雌の生殖系列を介してのみ遺伝する)の解析から、この雑種の母親がイッカクであることが示唆された。

 著者たちはまた、博物館所蔵の頭蓋骨から抽出した骨コラーゲンに含まれる化学元素(炭素と窒素)の同位体を分析し、これをイッカク18頭およびシロイルカ18頭の頭蓋骨の参照パネルの骨コラーゲンと比較した。その結果、頭蓋骨から抽出された試料に含まれる炭素同位体の濃度は他の頭蓋骨よりも高く、この雑種の食餌が親種のいずれとも異なっていたことが示唆された。著者たちは、この知見に基づいて、この雑種がイッカクやシロイルカよりも海底に近い場所(深海底域)で採餌していたと推測している。



参考文献:
Skovrind M et al.(2019): Hybridization between two high Arctic cetaceans confirmed by genomic analysis. Scientific Reports, 9, 7729.
https://doi.org/10.1038/s41598-019-44038-0

性選択の始まりの説明

 性選択の始まりの説明に関する研究(Muralidhar., 2019)が公表されました。性選択の原動力に関する有力な仮説の一つは、フィッシャーの「ランナウェイ過程」で、雄の形質にはその形質に対する雌の選り好みが関係している、と考えられます。雄の形質と雌の好みは、両方が固定されるまで共に進化します。このとき重要なのは、クジャクの長い上尾筒であれ、カエルの甘美な鳴き声であれ、形質の種類は雌に好まれる限り何でも構わないことです。しかしこの仮説には、「ハンディキャップ原理」や「優良遺伝子仮説」といった他の仮説と同様に、雄の形質やその形質に対する雌の選り好みが、いずれも全くのゼロからは始まり得ないという問題があります。では、雄のディスプレイ形質とそれに対する雌の選り好みは、どのように始まったのか、という問題にたいして、一種のごまかしのようですが、そうした形質と選り好みの進化では、それらは何らかの確率論的過程によって集団の一定の割合にまで徐々に数を増やす必要がある、と説明されています。これは、遺伝的浮動あるいは中立進化により起こると考えられています。

 この研究は、こうした行き詰まりを打開する新たな仮説を提案します。異なる性染色体、とくに雌を介してのみ伝わる遺伝的要素(鳥類やチョウ類のW染色体など)を持つ種では、雌には利益となるものの、雄にはコストとなる形質に対して選り好みを示すことがあります。雌のこうした選り好み(この好みは娘に伝えられます)はコストを伴わないため、その広がりはほとんど制約を受けませんが、雄はこれに振り回されてコストを負担しなければならなくなります。XY型(ショウジョウバエや哺乳類など)の場合や性染色体に偽常染色体領域がある場合は複雑になりますが、それでも最初に必要なのは、種が別個の性染色体を持つことだけと指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:利己的な性染色体の配偶相手の選り好み

進化学:性選択への新しい道筋

 性選択の原動力に関する有力な仮説の1つは、フィッシャーの「ランナウェイ過程」で、雄の形質にはその形質に対する雌の選り好みが関係していると考える。雄の形質と雌の好みは、両方が固定されるまで共に進化する。このとき重要なのは、クジャクの長い上尾筒であれ、カエルの甘美な鳴き声であれ、形質の種類は雌に好まれる限り何でも構わないことである。しかしこの仮説には、「ハンディキャップ原理」や「優良遺伝子仮説」といった他の仮説と同様に、雄の形質やその形質に対する雌の選り好みが、いずれも全くのゼロからは始まり得ないという問題がある。では、雄のディスプレイ形質とそれに対する雌の選り好みは、どのように始まったのか。その答えは、一種のごまかしのようだが、そうした形質と選り好みの進化では、それらは何らかの確率論的過程によって集団の一定の割合にまで徐々に数を増やす必要がある、というものである。これは、遺伝的浮動あるいは中立進化によって起こると考えられている。今回P Muralidharは、こうした行き詰まりを打開する新たな仮説を提案している。異なる性染色体、特に雌を介してのみ伝わる遺伝的要素(鳥類やチョウ類のW染色体など)を持つ種では、雌には利益となるが雄にはコストとなる形質に対して選り好みを示すことがある。雌のこうした選り好み(この好みは娘に伝えられる)はコストを伴わないため、その広がりはほとんど制約を受けないが、雄はこれに振り回されてコストを負担せざるを得なくなる。XY型(ショウジョウバエや哺乳類など)の場合や性染色体に偽常染色体領域がある場合は話は複雑になるが、それでも最初に必要なのは、種が別個の性染色体を持つことだけである。



参考文献:
Muralidhar P.(2019): Mating preferences of selfish sex chromosomes. Nature, 570, 7761, 376–379.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1271-7

ミトコンドリアの選択を引き起こす断片化

 ミトコンドリアの選択を引き起こす断片化に関する研究(Lieber et al., 2019)が公表されました。ミトコンドリアゲノムは母系遺伝しますが、ミトコンドリアゲノムには変異が生じやすく、ミトコンドリアで働く選択機構は、こうした変異で起こり得る有害な影響を打ち消しています。この研究は、in situハイブリダイゼーション法(組織切片・細胞・染色体に存在する特定の核酸シークエンスの局在を検出する方法)を用いて、ショウジョウバエ(Drosophila)の生殖系列において個々のミトコンドリア対立遺伝子を可視化する系を樹立しました。ミトコンドリアの融合が減少すると、対立遺伝子が複数のミトコンドリアへと分散されることになり、ゲノムの混合が妨げられる、と明らかになりました。これはまた、有害な変異を持つATP産生能の低いミトコンドリアが、オートファジー経路によって分解されるための標識となります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


細胞生物学:生殖系列ではミトコンドリアの断片化によって有害なmtDNAの選択的除去が駆動される

細胞生物学:断片化がミトコンドリアの選択を引き起こす

 ミトコンドリアゲノムは母系遺伝するが、ミトコンドリアゲノムには変異が生じやすいことを考えると、ミトコンドリアで働く選択機構は、こうした変異で起こり得る有害な影響を打ち消している。R Lehmannたちは今回、in situハイブリダイゼーション法を用いて、ショウジョウバエ(Drosophila)の生殖系列において個々のミトコンドリア対立遺伝子を可視化する系を樹立した。ミトコンドリアの融合が減少すると、対立遺伝子が複数のミトコンドリアへと分散されることになり、ゲノムの混合が妨げられることが分かった。これはまた、有害な変異を持つATP産生能の低いミトコンドリアがオートファジー経路によって分解されるための標識となる。



参考文献:
Lieber T. et al.(2019): Mitochondrial fragmentation drives selective removal of deleterious mtDNA in the germline. Nature, 570, 7761, 380–384.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1213-4