レヴァントオーリナシアンの担い手

 今月(2019年9月)19日~21日にかけてベルギーのリエージュで開催予定の人間進化研究ヨーロッパ協会第9回総会で、レヴァントオーリナシアン(Levantine Aurignacian)の担い手についての研究(Hajdinjak et al., 2019)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P171)。レヴァントとヨーロッパのオーリナシアン(Aurignacian)の強い類似性は以前から指摘されており、その年代関係から、レヴァントオーリナシアンはヨーロッパからレヴァントへと移動してきた集団によりもたらされた、と考えられていました。しかし、この時期のレヴァントの人類遺骸はたいへん少なく、この問題の解明を妨げてきました。

 本論文は、現生人類に区分されている55000年前頃の部分的な頭蓋冠が発見されたこと(関連記事)で有名な、イスラエルの西ガリラヤ(Western Galilee)地域のマノット洞窟(Manot Cave)で発見されたホモ属の乳歯3本と永久歯3本を報告しています。マノット洞窟の文化的区分は、上部旧石器時代前様(Early Upper Paleolithic)が46000~33000年前頃となり、46000~33000年前頃の前期アハマリアン(Early Ahmarian)と、39000~340000年前頃のレヴァントオーリナシアンに区分されます。

 本論文はこのマノット洞窟のホモ属の歯6本を、前期および中期更新世のホモ属やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や現生人類(Homo sapiens)といったホモ属と比較しました。咬合面については、2本の歯はひじょうに摩耗していたため、評価できませんでしたが、これらマノット洞窟の歯は質的にも定量的にも詳しく分析されました。その結果、マノット洞窟の歯は現生人類とネアンデルタール人の特徴をさまざまに示す、と明らかになりました。たとえば、上顎第一小臼歯はひじょうに現生人類的ですが、乳歯の上顎第二大臼歯と永久歯の上顎第二大臼歯が現生人類に分類されるのか、不明です。さらに、乳歯の下顎第二大臼歯はネアンデルタール人に分類されるかもしれない、と本論文は指摘します。

 本論文はこれらの結果に基づき、レヴァントオーリナシアンの担い手が現生人類もしくはネアンデルタール人と現生人類との交雑集団である可能性を提示しています。さらに本論文は、ネアンデルタール人と現生人類との交雑集団だった場合、それが在来集団だった可能性も、外来集団だった可能性も指摘します。非アフリカ系現代人全員の共通祖先集団とネアンデルタール人との交雑はおそらくレヴァントで起き、年代は54000~49000年前頃と推定されているので(関連記事)、レヴァントオーリナシアンの担い手の中に、一部の形態でネアンデルタール人的特徴の強い個体がいても不思議ではないかもしれません。この問題の解明にはDNA解析がたいへん有効なのですが、レヴァントの4万年以上前の動物遺骸となると、残念ながらDNA解析は難しそうです。そのため、この問題の解明には、より多くのホモ属遺骸の発見が必要となるでしょう。


参考文献:
Sarig R. et al.(2019): Population composition and possible origin of the Levantine Aurignacian culture: the dental evidence. The 9th Annual ESHE Meeting.

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