アシューリアン期レヴァントにおける用途に適した石器の製作

 下部旧石器時代のレヴァントにおける用途に適した石器の製作に関する研究(Venditti et al., 2019)が報道されました。レヴァントでは、下部旧石器時代の文化であるアシューリアン(Acheulian)は140万~40万年前頃まで続きました。アシューリアンは、両面加工石器もしくは握斧や鉈様石器のような大型の切断用石器の製作および使用と関連づけられています。アシューリアンにおける大型切断用石器の100万年の持続は、創造性の欠如に起因する停滞との見解も提示されています。しかし、アシューリアン遺跡でも2~3cm以下の剥片石器が発見されていることから、下部旧石器時代の伝統と多様性が再考されつつあります。

 本論文は、イスラエルのレヴァディム(Revadim)遺跡のアシューリアン石器群について報告しています。レヴァディム遺跡では、大型剥片や大型切断用石器とともに小型剥片も発見されています。これらの石器群は、火の使用や大型動物の狩猟とともに、古代型(非現生人類)ホモ属の認知的に複雑な行動の一部です。レヴァディム遺跡の石器群は、レヴァディム遺跡では、動物の解体において大型石器が用いられていた直接的証拠も提示されています(関連記事)。レヴァディムは50万~30万年前頃の開地遺跡です。ほとんどの小型剥片は、区域C14の第3層で発見されました。本論文は、これらの石器群の使用痕と残留物を分析しました。

 分析の結果明らかになったのは、レヴァディム遺跡の人類集団は意図的に小型剥片を製作し、目的に応じて使用していた、ということです。小型剥片は握斧のような大型石器の製作に伴う廃棄物ではなく、廃棄された大型石器を再生利用するやり方でも製作されていた、というわけです。小型剥片には、脂肪・骨組織・コラーゲン繊維が顕著に確認されます。本論文は、小型剥片は獲物解体の一連の段階において、特定の段階で使用された、と推測しています。たとえば、すでに大型石器により皮が剥ぎ取られ、ある程度解体された後に、より精確な作業が要求される段階において、効率的に肉や骨髄を得る目的で、肉や腱や靭帯を切るために小型剥片が用いられたのではないか、というわけです。

 本論文は、アシューリアンの小型剥片は多目的で柔軟に使える万能道具ではない、と指摘します。たとえば、骨の切断や皮の剥ぎ取りなどは小型剥片では不可能なので、大型石器が用いられただろう、というわけです。また本論文は、小型動物の屠殺でも、全過程で小型剥片が使用されたわけではないだろう、と推測しています。50万年前頃のレヴァントの人類集団は、屠殺の各段階で要求される作業を効率的に行なうために、多様な道具一式で獲物を解体していくような、認知的柔軟性を有していた、と本論文は指摘します。

 考古学的記録からは、狩猟に基づく肉食が、人類の生物学的および文化的進化における最大の原動力の一つだった、という確かな証拠が提示されます。本論文は、50万~30万年前頃のレヴァディム遺跡の事例が、50万年前頃までに人類史において起きた顕著な変化を示している、と指摘します。ホモ属においては60万年前頃の脳容量の増大が指摘されており(関連記事)、この変化と関連している可能性が高そうです。おそらく脳容量の増大は、環境変化(動物・植物相の変化)や技術や社会関係も含む文化変化と密接に関連しているのでしょう。具体的にはどのように関連しているのか、現在の私の見識では上手く説明できませんが、今後、ある程度は説明できるように色々と調べていきたいものです。


参考文献:
Venditti F. et al.(2019): Animal residues found on tiny Lower Paleolithic tools reveal their use in butchery. Scientific Reports, 9, 13031.
https://doi.org/10.1038/s41598-019-49650-8

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