微量栄養素と海洋漁業

 微量栄養素と海洋漁業に関する研究(Hicks et al., 2019)が公表されました。微量栄養素の欠乏は毎年推定100万件に及ぶ若年死の主因で、一部の国では国内総生産(GDP)を最大11%も減少させているため、単に食料の生産量を増大させるのではなく、栄養の改善を重視した食料政策の必要性が指摘されています。ヒトはさまざまな食餌から栄養素を得ていますが、ヒトの健康に不可欠な、生体内で利用可能な微量栄養素を豊富に含む魚類は、見過ごされることが多くなっています。これは、多くの魚類に関する栄養成分組成の理解や、栄養収量が漁業ごとにどのように異なるのか、といったことに関する理解が不足しているためで、それが、食料と栄養の安全保障のために漁業の潜在力を効果的に利用するにあたって、必要となる政策の転換を妨げています。

 この研究は、世界43ヶ国367種の海水魚における7種類の栄養素の濃度データを用いて、環境的および生態学的な特徴からどのように海水魚種の栄養素含有量を予測できるのか、推定しました。この研究はその予測モデルを用いて、海洋漁業の栄養素濃度の全球的な空間パターンを定量化し、栄養収量をヒト集団における微量栄養素欠乏の広がりと比較しました。その結果、熱帯の温度構造で漁獲された種にはカルシウム・鉄・亜鉛が、比較的小型の種にはカルシウム・鉄・オメガ3脂肪酸が、寒冷な温度構造で漁獲された種や外洋に摂餌経路を持つ種にはオメガ3脂肪酸が、それぞれ高濃度で含まれている、と明らかになりました。

 栄養素の濃度と総漁獲量との間に関連性がなく、これは、その漁業の栄養素の質が種の組成によって決まることを明らかにしています。栄養摂取量が不充分な国の多くでは、漁獲した海水魚から利用可能な栄養素の量が、海岸から100 km以内に居住する集団での必要摂取量を上回っており、5歳未満の小児にとっては現在の水揚げ量の一部だけでも特に影響が大きい、と考えられます。これらの知見は、魚類に基づく食料戦略が、世界の食料と栄養の安全保障に大きく貢献する可能性がある、と示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


漁業:世界の漁業を利用して微量栄養素の欠乏に取り組む

漁業:海洋漁業における微量栄養素含有量のマッピング

 魚類には、ヒトの健康に不可欠な微量栄養素が豊富に含まれているが、多くの魚類に関する栄養成分組成の理解や、栄養収量が漁業ごとにどのように変わるかについての理解が不足しているために、食料と栄養の安全保障のために漁業を利用するのに必要な政策転換が妨げられている。今回C Hicksたちは、世界43か国における367種の魚類の栄養成分組成に関するデータと、階層ベイズモデルを用いて、世界の漁業の微量栄養素組成をマッピングした。その結果、熱帯の温度構造で漁獲された種にはカルシウム、鉄、亜鉛が、比較的小型の種にはカルシウム、鉄、オメガ3脂肪酸が、そして寒冷な温度構造で漁獲された種にはオメガ3脂肪酸が高濃度で含まれることが分かった。漁業の栄養収量と微量栄養素の摂取不足リスクを比較したところ、栄養摂取量が不十分な国の多くでは、漁獲した海水魚から利用可能な栄養素の量が沿海部のヒト集団での必要摂取量を上回ることが明らかになった。今回の知見は、世界的に最も栄養が欠乏している国々の一部については、漁業によってその栄養状態が大きく改善できる可能性があることを示唆している。



参考文献:
Hicks CC. et al.(2019): Harnessing global fisheries to tackle micronutrient deficiencies. Nature, 574, 7776, 95–98.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1592-6

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