南極の氷から推測される気候周期

 南極の氷から推測される気候周期に関する研究(Yan et al., 2019)が公表されました。過去80万年にわたって、氷期–間氷期サイクルの振動周期は10万年でした(10万年周期の世界)。氷床コアと海洋堆積物のデータは、10万年周期の世界では、大気中の二酸化炭素濃度・南極の気温・深海の水温・全球の氷体積が互いに強く相関していた、と示しています。約280万〜120万年前には、氷期サイクルの振幅がより小さく、持続期間はより短かった、と推測されています(4万年周期の世界)。深海の堆積物から得られる代理指標データは、4万年周期の世界では、大気中二酸化炭素濃度の変動も10万年周期の世界より小さかったことを示唆していますが、この期間の大気中の温室効果ガス濃度を示す直接的な観測結果はありません。

 本論文は、東南極のアランヒルズにあるブルーアイス地域から、層位が不連続な200万年以上前の氷を回収した、と報告しています。200万年以上前の氷床コア試料の二酸化炭素濃度とメタン濃度は呼吸により変化してきましたが、より若い試料には元のままのものもありました。この研究で回収された氷床コアにより、大気中の二酸化炭素濃度・メタン濃度・南極の気温(局地的な気温の代理指標である重水素と水素の同位体比に基づきます)の直接観測結果が、4万年周期の世界まで拡張されました。

 80万年前以前の気候特性は全て、10万年周期の世界を特徴付ける南極深部の氷床コアの観測結果の範囲内に収まっていました。しかし、4万年周期の世界の二酸化炭素濃度・メタン濃度・南極の気温の最も低い測定値は、過去80万年の氷期の値を大きく上回っていました。これらの知見は、大気中の温室効果ガス濃度と南極の気候の氷期–間氷期変動の振幅は4万年周期の世界では小さかったことと、4万年周期の世界から10万年周期の世界への移行は氷期極大期における二酸化炭素の最小濃度の低下を伴っていたことを裏づけています。人類進化の観点からも注目される研究だと思います。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


気候科学:南極の氷から得られた200万年前の大気中の気体のスナップショット

気候科学:200万年前の氷における振幅の小さい気候サイクル

 気候システムは、約100万年前に4万年周期の氷期サイクルから10万周期の氷期サイクルへ移行した。いくつかの間接的な古気候学的証拠は、この移行にはより寒冷な氷期状態が伴っていて、大気中のCO2濃度とCH4の濃度が低いことも特徴としていたと示唆している。しかし、過去80万年間の南極深部の氷床コアに存在するような、直接証拠はない。今回Y Yanたちは、東南極のアランヒルズ浅部の「ブルーアイス」を用いて、約200万年前のCO2濃度、CH4濃度、局地的な気温の記録を復元している。こうした3つの記録は全て、過去80万年間の記録の範囲に収まっていた。しかし、著者たちは、「4万年周期の世界」における氷期最盛期の状況ではCO2濃度、CH4濃度、気温が10万年周期の世界より高かったことを見いだしており、以前の間接的な結果が裏付けられた。今回の記録は不連続で、移行の機構に関する確かな知見は得られなかったが、今回の知見は、200万年前のいくつかの重要な大気状態について確実な制約条件を課している。



参考文献:
Yan Y. et al.(2019): Two-million-year-old snapshots of atmospheric gases from Antarctic ice. Nature, 574, 7780, 663–666.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1692-3

節足動物の広範にわたる減少

 節足動物の広範にわたる減少に関する研究(Seibold et al., 2019)が公表されました。節足動物種の局地絶滅や節足動物の生物量の激減に関する最近の報告は、土地利用の強化が生物多様性の低下の主要な駆動要因であることを指摘しています。しかし、土地利用強度の勾配全体にわたる節足動物の存在に関する多地点の時系列データで、因果関係を裏づけるものは存在しません。さらに、どの種類の土地利用や節足動物群が影響を受けているのか、観察されている生物量の減少や多様性の低下が互いに関係しているのかどうかは、まだ明らかにされていません。

 この研究は、ドイツの3地域の150の草原調査地および140の森林調査地で2008~2017年に得られた標準化された複数のインベントリーに基づいて、100万を超す節足動物個体(約2700種)に由来するデータを解析しました。その結果、草原および森林の全体的な多様性は経時的に低下しており、全ての地点と地域で種が喪失している、と明らかになりました。調査が毎年行われた草原では、生物量は67%、個体数は78%、種数は34%減少していました。こうした減少は全栄養段階で一貫しており、おもに希少種が影響を受けていましたが、その規模は局地的な土地利用強度とは無関係でした。

 一方で、農地の比率が高い景観の中にある調査地ほど、経時的な減少はより激しいことも明らかになりました。インベントリーの年次データが存在する30の森林調査地では、生物量に41%、種数に36%の減少が見られましたが、個体数は減少していませんでした。これは、3年間隔のデータが存在する全ての森林調査地の解析結果でも同様でした。こうした減少は希少種と個体数の多い種の両方に影響を及ぼしますが、その傾向は栄養段階によって異なっていました。

 これらの知見は、節足動物の生物量・個体数・種数が全ての栄養段階にわたって広範に減少していることを示しています。また、森林の節足動物の減少は、それらの喪失が開けた生息地に限られるものではないことを実証しています。これらの結果は、節足動物の減少の主要な駆動要因がより大きな空間スケールで作用し、(少なくとも草原では)景観レベルで農業と関連していることを示しており、これは、土地利用による悪影響を緩和するには、政策を景観スケールで取り組む必要がある、と示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


保全:草原および森林の節足動物の減少は景観レベルの駆動要因と関連している

保全:節足動物の個体数、生物量、多様性の広範にわたる減少

 数多くの研究で節足動物の個体数や多様性が最近減少していることが報告されているが、そうした研究は分類群や調査地点が限定的なため、得られた知見をどの範囲まで当てはめることができるのかは不明である。今回S Seiboldたちは、約2700種からなる100万を超す節足動物個体に由来するデータを用いて、ドイツの3地域での2008~2017年における節足動物の多様性、生物量、個体数の変化を調べた。これらのデータは、150の草原調査地と140の森林調査地から得られた標準化された複数のインベントリーに基づいている。解析の結果、節足動物の種数はこの期間、全ての調査地で減少していたことが明らかになった。生物量と種数は草原と森林の両方で大幅に減少していたが、個体数は草原でのみ著しい減少が見られた。草原では、こうした減少の規模は周辺地域の耕作可能地の割合に対応しており、これは、少なくとも草原では節足動物の喪失を食い止めるには景観レベルの政策が必要であることを示唆している。



参考文献:
Seibold S. et al.(2019): Arthropod decline in grasslands and forests is associated with landscape-level drivers. Nature, 574, 7780, 671–674.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1684-3

緑色植物の進化

 緑色植物の進化に関する研究(One Thousand Plant Transcriptomes Initiative., 2019)が公表されました。陸上植物と緑藻類を含む緑色植物門はきわめて多様な約45万~50万種の植物から構成され、陸上生態系および水界生態系で重要な役割を担っています。この研究は、「1000植物トランスクリプトームイニシアチブ(One Thousand Plant Transcriptomes Initiative)」の一環として、緑色植物門・灰色植物門・紅色植物門(紅藻類)を含むアーケプラスチダ(古色素体類)という広義の植物の多様な1124種について、栄養組織のトランスクリプトーム(1細胞中の全mRNAの集合)の塩基配列を解読しました。その結果、緑色植物の進化を調べるための、系統ゲノミクスの強力な枠組みが得られた。

 推測される種間関係の大半は、複数の種系統樹解析およびスーパーマトリックス解析にわたって充分に裏づけられましたが、色素体遺伝子や核遺伝子の系統樹においていくつかの重要な節(ノード)で見られる不一致は、倍数性・急速な種分化期・絶滅などといった植物ゲノム進化の複雑さを浮き彫りにしています。得られた緑色植物の進化史には、祖先的多様性の不完全な選別・倍数化・遺伝子ファミリーの著しい拡大といった事象が散見されます。とくに、遺伝子ファミリーの大幅な拡大は緑色植物、陸上植物と維管束植物の起源に先行して起きたのに対して、全ゲノム重複は顕花植物およびシダ類の進化を通して繰り返し起きていた、と推測されました。高品質の植物ゲノム塩基配列が次々と利用可能になっていることと機能ゲノミクスの進歩により、緑色植物の進化系統樹全体にわたるゲノム進化の研究が可能になりつつある、と本論文は指摘します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:1000種の植物のトランスクリプトームと緑色植物の系統ゲノミクス

Cover Story:多様性の根源:トランスクリプトーム解析によって浮き彫りになった緑色植物の進化

 表紙は、ダーウィンが『種の起源』の結びで、種間の複雑な相互作用を表す例えとした用いた「雑踏した堤」の一例である。ここに写っているのは、シダ類のアメリカシラネワラビ(Dryopteris intermedia)、コケ類のウマスギゴケ(Polytrichum commune)、シノブゴケ類の一種Thuidium delicatumの3種で、緑色植物の著しい多様性を構成する50万種近い植物のほんの一部である。今回「1000植物トランスクリプトームイニシアチブ(One Thousand Plant Transcriptomes Initiative)」のJ Leebens-MackとG Wongたちは、緑色植物門(緑藻類や陸上植物を含む)、灰色植物門、紅色植物門(紅藻類)からなる植物の多様性を網羅する、1124種の栄養組織のトランスクリプトームについて報告している。著者たちは、系統ゲノミクスの枠組みを構築し、これを用いて種間関係を推測し、緑色植物の歴史における多様化事象のタイミングの図示を行った。その結果、遺伝子ファミリーの大幅な拡大は緑色植物、陸上植物、維管束植物の起源に先立って起きていた一方で、全ゲノム重複は顕花植物とシダ類の進化を通して繰り返し起きていたと思われることが分かった。



参考文献:
One Thousand Plant Transcriptomes Initiative.(2019): One thousand plant transcriptomes and the phylogenomics of green plants. Nature, 574, 7780, 679–685.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1693-2

マウスの高塩分摂取と認知機能低下

 マウスの高塩分摂取と認知機能低下に関する研究(Faraco et al., 2019)が公表されました。食習慣や血管リスク因子は、アルツハイマー病と血管性の要因による認知障害の両方を促進します。さらに、過剰リン酸化タウの蓄積(タウは微小管結合タンパク質で、アルツハイマー病の病理学的特徴でもあります)も、血管性認知障害と関連しています。マウスでは、高塩分の食餌が脳の内皮細胞で一酸化窒素欠乏や脳低灌流に関連する認知機能障害を引き起こす、と明らかになっています。この関連性の基盤となる正確な機序は解明されていませんが、血管機能不全とニューロンにおけるタウタンパク質の凝集は、認知機能障害の発生に関わっていると考えられています。この研究は、マウスにおいて、食餌中の塩がタウの過剰リン酸化に続いて認知機能障害を誘導し、これらの効果は内皮の一酸化窒素産生の回復により抑えられることを報告しています。

 通常の食餌の塩分の8~16倍という高塩分の食餌を与えたマウスは、新しい対象物をうまく認識できず、迷路試験の成績もよくありませんでした。この研究は、高塩分摂取により一酸化窒素の合成が低下し、その結果としてタウのリン酸化にかかわる酵素(CDK5)が活性化される、と明らかにしました。一酸化窒素の合成を元に戻すと、マウスの認知機能障害は回復しました。なお、この研究は注意すべき点として、マウスに与えた高塩分の食餌は、ヒトについて報告されている塩分摂取量の最高値を超えて、ヒトの推奨摂取量である1日4~5グラムの3~5倍に達していたことを挙げています。しかし、これらの知見は、食習慣と認知機能の健康を結び付ける未知の経路を明らかにしており、この経路の存在は、高塩分食を避けることで認知機能を維持できる可能性のあることを示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【健康】マウスの高塩分摂取が認知機能低下に結び付いている

 マウスの塩分摂取と認知機能との間に因果関係が認められたことを報告する論文が、今週、掲載される。今回の研究では、マウスに極端な高塩分食を与えると、変異型タウ(アルツハイマー病などの認知症の原因となる病態に関連するタンパク質)が蓄積することが明らかになった。ただし、この結果をヒトに応用できるかどうかは、今後の研究で調べる必要がある。

 塩分の過剰摂取は、認知機能障害と関連付けられており、認知症のリスク因子である。この関連性の基盤となる正確な機序は解明されていないが、血管機能不全とニューロンにおけるタウタンパク質の凝集は、認知機能障害の発生に関わっていると考えられている。今回、Costantino Iadecolaたちの研究グループは、タウの凝集が認知機能障害の発生に関わっていることを示す証拠を発見し、リン酸化タウの濃度を最終的に上昇させるシグナル伝達カスケードを突き止めた。

 通常の食餌の塩分の8~16倍という高塩分の食餌を与えたマウスは、新しい対象物をうまく認識できず、迷路試験の成績もよくなかった。Iadecolaたちは、高塩分摂取によって一酸化窒素の合成が低下し、その結果としてタウのリン酸化にかかわる酵素(CDK5)が活性化されることを明らかにした。一酸化窒素の合成を元に戻すと、マウスの認知機能障害は回復した。なお、Iadecolaたちは注意すべき点として、今回の研究でマウスに与えた高塩分の食餌は、ヒトについて報告されている塩分摂取量の最高値を超えて、ヒトの推奨摂取量である1日4~5グラムの3~5倍に達していたことを挙げている。しかし、今回の研究結果は、食習慣と認知機能の健康を結び付ける未知の経路を明らかにしており、この経路の存在は、高塩分食を避けることで認知機能を維持できる可能性のあることを示している。


神経科学:食餌中の塩がタウのリン酸化を介して認知障害を促進する

神経科学:食餌中の塩が認知機能に影響を及ぼす仕組み

 今回、一連の動物実験により、塩の摂取と認知機能障害を結び付ける生物学的機構が調べられた。この過程には、脳低灌流による機構とタウ関連機構が関係することが示唆されているが、著者たちは、認知障害が脳低灌流ではなくタウ関連機構を介して起こることを示している。この経路は、リンパ球の免疫応答、インターロイキンの産生、一酸化窒素合成の減少、それに続く(ニトロシル化の減少による)カルパインの活性化、カルパインによるp35のp25への切断、サイクリン依存性キナーゼ5(CDK5)の活性化、CDK5によるタウのリン酸化を介して進行する。タウのヌルマウスあるいは抗タウ抗体を投与したマウスでは、脳低灌流や神経血管機能障害が持続するにもかかわらず、高塩分の食餌を摂取させても認知機能が維持された。これらの結果がヒトに拡張できるのであれば、過剰な塩の摂取を避けて血管の健康を維持することは、高齢期の認知機能低下の原因となる病態の防止に役立つ可能性がある。



参考文献:
Faraco G. et al.(2019): Dietary salt promotes cognitive impairment through tau phosphorylation. Nature, 574, 7780, 686–690.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1688-z