ネアンデルタール人が制作した猛禽類の爪の装飾品

 ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の所産と考えられる猛禽類の爪の装飾品を報告した研究(Rodríguez-Hidalgo et al., 2019)が報道されました。ビーズやペンダントのような考古学的装飾品は、伝統的に象徴的行動の直接的証拠として認識されてきました。これは、「行動的現代性」の出現と関連しています。現生人類(Homo sapiens)のものと思われる装飾品は、8万年以上前のものがアフリカやレヴァントで発見されています。一方、ネアンデルタールに関しても、現生人類よりも早いかもしれないイベリア半島南東部における装飾品の事例が報告されています(関連記事)。

 この他にも、ウルツィアン(Uluzzian)やシャテルペロニアン(Châtelperronian)といった中部旧石器時代~上部旧石器時代にかけての「移行期」インダストリーで装飾品が発見されていますが、ウルツィアン(関連記事)にしてもシャテルペロニアン(関連記事)にしても、その担い手をめぐって議論が続いており、ネアンデルタール人の所産と確定したとは言えないでしょう。しかし本論文は、さまざまな証拠からシャテルペロニアンをネアンデルタール人の所産と判断しています。私も、少なくとも一部のシャテルペロニアンの担い手がネアンデルタール人である可能性はきわめて高い、と考えています(関連記事)。本論文は、中部旧石器時代~「移行期」インダストリーの頃となる、上部旧石器時代以前の人為的痕跡がある既知の猛禽類遺骸を整理するとともに、イベリア半島南東部の新たな猛禽類の指骨を、解剖学や民族誌的記録の観点から分析し、ネアンデルタール人製作の装飾品があったのか、改めて検証しています。

 スペインのカタルーニャ州のカラフェユ(Calafell)のコヴァフォラダダ(Cova Foradada)洞窟では、考古学的に10層が確認されており、後期更新世~中期完新世となる8層でヒトの痕跡が発見されています。第1層と第2層は完新世、第3n層はグラヴェティアン(Gravettian)、第3g層と第3c層は早期オーリナシアン(Early Aurignacian)、第4層・第4-1層・第4-2層はシャテルペロニアンです。第4層の下の第5層では考古学的痕跡はほとんど確認されていません。第3n層・第3c層・第4層のパターンから、コヴァフォラダダは時として人類に使用された洞窟と推測されています。第4層ではシャテルペロニアン石器群が確認されており、これはシャテルペロニアン分布範囲としては最南端となります。第4層の動物遺骸1289点のうち1076点の種が識別されており、そのうちウサギが63.8%、小型の鳥が16.5%、イベリアオオヤマネコが9.4%で、また12点(1.1%)は中型~大型の猛禽類です。これら動物遺骸の表面分析は、人為的痕跡が稀であることを示しており、焼けた骨が31点(2.4%)、解体痕のあるウサギの骨が20点(1.6%)です。第4層の状況は人類集団による散発的利用を示唆し、おそらくは人類が休憩して道具を修理する場所だったと推測されます。第4-1層ではイベリアカタシロワシの解体痕のある指骨が発見されています。第4層は較正年代で39000年以上前です。

 第4-1層の猛禽類の左足指骨は、その形態からイベリアカタシロワシ(Aquila adalberti)のものと考えられますが、これをカタシロワシ(Aquila heliaca)の亜種とする見解もあり、その起源については議論が続いています。両者の推定分岐年代についても、100万年以上前という見解と末期更新世もしくは完新世との見解があり、さらには両者の遺伝子流動の可能性も提示され、議論が続いています。もし第4-1層の猛禽類がイベリアカタシロワシもしくはその祖先系統ならば、最古の事例となりますが、本論文はこの問題について断定できない、と慎重な姿勢を示します。以下、とりあえず「カタシロワシ」としておきます。カタシロワシの指骨には12個の解体痕があり、そのうち11点は平行して均一的であることから、人為的と考えられます。

 ネアンデルタール人が鳥類を捕獲し、時として食べていたことは、ヨーロッパで確認されています(関連記事)。鳥類の足は食用に適しませんが、その可能性は排除できず、足の爪の解体痕は食べられない部位を取り除いただけとも考えられます。しかし本論文は、他の鳥類の事例では、足の爪に解体痕が見られることはほとんどないため、これは食用のためではなく、象徴的目的の結果ではないか、と解釈しています。クロアチアでも、13万年前頃の猛禽類の爪で解体痕が確認されており、装飾用と解釈されています(関連記事)。本論文は、ヨーロッパ南部のネアンデルタール人が、短くとも8万年にわたって猛禽類の爪を象徴的に利用する文化習慣があった、と推測しています。本論文はコヴァフォラダダ遺跡の解体痕のある猛禽類の爪を、ネアンデルタール人の象徴的行動の新たな事例と評価しています。

 さらに、こうした装飾品用に加工された猛禽類の爪は、現生人類のみとなったヨーロッパの上部旧石器時代ではさほど多くないのですが、それでもおもにマグダレニアン(Magdalenian)期で発見されています。また、更新世のアフリカでは猛禽類の爪の利用が確認されていないため、猛禽類の爪の象徴的使用は、ネアンデルタール人から現生人類への文化伝播だったかもしれない、と本論文の著者の一人であるモラレス(Juan Ignacio Morales)氏は指摘しています。

 20万年以上前となるアフリカ外の現生人類的遺骸も報告されていることから(関連記事)、あるいは古くからヨーロッパのネアンデルタール人が現生人類の影響を受けていた可能性も考えられますが、発掘の進んでいるヨーロッパでこうした例外を除いて中部旧石器時代の現生人類遺骸が発見されていないことから、中部旧石器時代のヨーロッパのネアンデルタール人が現生人類から受けた影響はきわめて小さかったのではないか、と思います。その意味で、「行動の現代性」の代表例たる象徴的行動の少なくとも一部は、ネアンデルタール人独自の発展だった可能性が高い、と私は考えています。ただ、中部旧石器時代はともかく、シャテルペロニアン期となると、現生人類の直接的影響も想定しなければならないかもしれません。もっとも、上述のように、シャテルペロニアンの担い手がネアンデルタール人なのか、それとも現生人類なのか、という問題もあるわけですが。


参考文献:
Rodríguez-Hidalgo A. et al.(2019): The Châtelperronian Neanderthals of Cova Foradada (Calafell, Spain) used imperial eagle phalanges for symbolic purposes. Science Advances, 5, 11, eaax1984.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aax1984

大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』第41回「おれについてこい」

 1964年夏季オリンピック大会の東京開催が決定し、組織委員会が発足して田畑政治は事務総長となります。そこに大物政治家の川島正次郎が顧問として関わってきます。田畑と川島の間には都知事選での因縁があり、川島は田畑を嫌っていますが、田畑はそのことに気づいていません。川島は東京都知事の東龍太郎に田畑への嫌悪感を伝えますが、東は田畑が多くの人に慕われている、と反論します。じっさい、映画監督の黒澤明も建築家の丹下健三も田畑に誘われて協力を申し出ます。しかし、川島は田畑への嫌悪感を隠さず、衝突します。

 低視聴率が面白おかしく取り上げられ続けている本作ですが、今回は、出演者の醜聞もあって普段よりもさらに注目を集めたかもしれません。前半でも主要人物の醜聞が悪い意味で話題になってしまい、本当に残念です。その注目の大松博文監督ですが、登場時間はなかなか長く、目立っていました。今回、冒頭でお断りが出されましたが、これだけ登場時間が長く目立つのならば、「配慮」せずに当初の演出のまま放送すればよかったのではないか、と思います。まあ、もう撮影も終了し、前半の時のように代役を起用する時間的余裕もなかったので、製作者側としては苦渋の決断だったのかもしれませんが。