銀行員文化と不誠実さ

 銀行員文化と不誠実さに関する研究(Rahwan et al., 2019)が公表されました。現在、社会科学はいわゆる「再現性の危機」に曝されています。研究室やクラウドソースのワーカープラットフォームのような利用しやすい集団からきわめて影響力のある知見が得られても、それらは必ずしも再現可能ではありません。利用しづらい集団から得られた知見の再現にはあまり注意が向けられておらず、注目度の高い最近の再現の取り組みでは、はっきりとそうした集団が排除されています。

 先駆的な実験研究から、銀行員文化を垣間見る稀な機会が得られており、銀行員は、他の職業とは違って、自分の仕事について考えるときに不誠実さが増す、と示されました。銀行業界の重要性を考えれば、研究者や政策立案者が銀行文化の正確な診断としてこうした知見を信頼する前に、それらの一般化可能性を探査することは正当です。この研究は、3大陸の異なる5集団に属する銀行員および非銀行員を対象に、同一の報奨金付き課題を行ないました(参加者数計1282人)。

 中東およびアジア太平洋地域での銀行員研究(それぞれ148人と620人)では、ある程度の不誠実さが観察されましたが、元になった研究とは対照的に、仕事について考えるよう促した銀行員の場合は、それを促さなかった銀行員と比較して、不誠実さに有意な高まりは見られませんでした。また、非銀行員に自分の仕事について考えるよう促しても、誠実さに有意な影響が生じないことも明らかになりました。

 この研究は、銀行員に関する知見の違いを説明するために、サンプリングおよび方法論の相違を検討したところ、重要な2つのポイントを特定しました。第一に、銀行員の行動に関する一般集団の期待が地域ごとに異なっており、元になった研究が行われた地域の銀行文化は世界的に不変なものではない、という可能性が示唆されました。第二に、金融機関27社に声を掛けたところ、それらの多くが不都合な知見に関する懸念を表明したことから、健全な文化を有する銀行のみが今回の研究に参加した、と予想されます。

 この第二の点は、あらゆる同様の実地研究の一般化可能性を損ねると考えられる、潜在的な選択バイアスを示しています。さらに広い意味では、この研究は、組織の障壁や地理的な障壁が原因で利用困難な集団において広く報道された扱いに注意を要する実地研究を、きわめて忠実に再現しようとするさいの複雑性を明確に示しています。この研究は政策立案者にとって、元となった研究の知見を他の集団で一般化するさいには注意を払う必要がある、と示唆しています。


参考文献:
Rahwan Z, Yoeli E, and Fasolo B.(2019): Heterogeneity in banker culture and its influence on dishonesty. Nature, 575, 7782, 345–349.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1741-y