渡邉義浩『はじめての三国志 時代の変革者・曹操から読みとく』

 ちくまプリマー新書の一冊として、筑摩書房から2019年11月に刊行されました。著者は現在、早稲田佐賀中学・高校の理事長とのことで、本書は『三国志』に興味を抱いた中高生向けに書かれたそうです。確かに、全体的に平易な文章になっており、分かりやすく解説しよう、という意図は伝わってきます。ただ、「はじめての三国志」と題している割には、官渡の戦いなどの地図を掲載しても、三国の勢力範囲図は掲載されておらず、この点はやや不親切なように思います。

 また、「三国志」と題しているのに、曹操死後の情勢についてほとんど言及がないのはさすがに疑問です。確かに、副題は「時代の変革者・曹操から読みとく」とありますが、「はじめての三国志」と題しているのですから、1章とは言わずともせめて1節を割いて、曹操死後から西晋による統一の頃までは情勢の推移を簡略に解説してもらいたかったものです。たとえば、本書が『三国志の英雄曹操』と題していたら、実質的に曹操の伝記であっても仕方ないかな、とは思いますが。

 本書は曹操を、後漢の儒教体制に挑んだ変革者として描きます。儒教に基づく「寛治」の結果として乱れた世を前に、曹操は法に基づく「猛政」により乱世を収拾していった、というのが本書の見通しです。曹操には文学の才もありましたが、それは儒教の相対化も担っていた、と本書は指摘します。一方で、曹操の文学は儒教も踏まえたもので、単純に儒教体制を破壊していっただけではありませんでした。曹操は、儒教を至上価値とする当時の知識(名士)層の支持を得つつ、儒教を相対化していく必要があり、その政権運営には困難なところがあったようです。

 本書は、曹操が名士の代表的存在である功臣の荀彧を死に追いやる一方で、名士層の取り込みも図っていった様子を叙述します。また本書は、曹操が後継者指名で迷い、けっきょくは名士層の多くが支持した曹丕を後継者と決定するものの、それが名士層の儒教的価値観の巻き返しにつながり、曹魏の君主権力は、曹操の頃よりも漢から禅譲を受けた曹丕以降の方が後退していた、と指摘します。実質的には曹操の伝記となっており、その革新性を高く評価する本書ですが、その他の人物では魯粛の構想の革新性が高く評価されています。確か、以前読んだ一般向け通史でもそうした評価でしたので、これは現在の有力な見解なのでしょうか。

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