ツキノワグマの食いだめ戦略

 ツキノワグマ(Ursus thibetanus)の食いだめ戦略に関する研究(Furusaka et al., 2019)が公表されました。日本語の解説記事もあります。ヒトをはじめとする動物は、食べることで得られる摂取エネルギーと、身体を動かすことで使われる消費エネルギーのエネルギー収支を健全に保つことで身体を維持しています。エネルギー摂取量がエネルギー消費量を上回ると体重は増え、逆の場合は体重が減少するため、エネルギー収支を明らかにすることで、栄養状態を評価できます。この研究は、ツキノワグマのエネルギー収支の季節変化とクマの食生活にとって重要な季節を明らかにするため、ツキノワグマのエネルギー収支に影響を及ぼす要因として、ツキノワグマにとって秋の主食であるブナ科の果実(ドングリ)の結実豊凶に着目し、エネルギー収支とドングリの結実豊凶との関係を調べました。

 この研究は、2005年から2014年にかけて、栃木県と群馬県にまたがる足尾・日光山地で追跡調査してきた計34頭の成獣に、日々の活動状態の計測が可能な機能を内蔵したGPS受信機を装着し、1日あたりのエネルギー消費量を計算しました。この研究はまた、山中で採取した1247個の糞からツキノワグマの食べ物を特定するとともに、野生のツキノワグマが採食している映像(計113時間)から、ツキノワグマが食べるそれぞれの食べ物の量を計算し、それぞれの食べ物のエネルギー量を掛け合わせることで、1日あたりのエネルギー摂取量を計算しました。この研究はそのうえで、エネルギー摂取量からエネルギー消費量を差し引くことで、1日あたりのエネルギー収支を算出し、季節間のエネルギー収支や、ドングリの豊作年と凶作年のエネルギー収支を比較しました。

 その結果、いずれの個体においても、春から夏にかけてのエネルギー収支はマイナスであったものの、秋には大きくプラスになる、と明らかになりました。また、ドングリの凶作年では、雌はエネルギー摂取量が減少することで、秋のエネルギー収支が低下することも明らかになりました。ツキノワグマは春から夏にかけてアリやキイチゴの果実などを食べます。これらはサイズも小さく、森の中に散らばって存在するため、ツキノワグマは効率的にエネルギーを摂取できません。一方、秋のツキノワグマは、木に登り、木の上にまとまって結実するドングリを食べるため、効率的にエネルギーを摂取できます。しかし、ドングリの凶作年では、雄に比べて行動圏が小さい雌は充分な量の食べ物を得られないため、エネルギー収支が低下した、と考えられます。

 この研究は、ツキノワグマのエネルギー収支が季節間で大きく変化し、秋のドングリで1年間に摂取するエネルギーの約80%を摂取、つまり食いだめを行なっている、と明らかにしました。これは、以前には不明であった野生のツキノワグマの栄養状態に関する様々な情報を得られることにつながります。また、秋のツキノワグマの人里への出没にドングリの凶作が影響していることは知られていましたが、他の季節の人里への出没にも前年のドングリの凶作が関係しているかもしれず、ツキノワグマの科学的な保護管理に大きく貢献する、と期待されます。


参考文献:
Furusaka S. et al.(2019): Estimating the seasonal energy balance in Asian black bears and associated factors. Ecosphere, 10, 10, e02891.
https://doi.org/10.1002/ecs2.2891

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