ホモ属の出現過程

 現在では、ホモ属が280万年前頃に出現した、との見解が次第に浸透しつつあるように思います。その根拠は、エチオピアのアファール州のレディゲラル(Ledi-Geraru)調査区域で発見された、5個の歯の残っている左側の下顎(LD 350-1)です(関連記事)。この下顎化石には、華奢な大臼歯・対称的な小臼歯・均等な顎のように、ホモ属に見られる派生的な特徴と、傾斜した顎先のようなアファレンシス(Australopithecus afarensis)などのアウストラロピテクス属に見られる祖先的特徴とが混在していました。この下顎化石は既知のホモ属化石の最古のものよりも40万年ほど古く、最も新しいアファレンシス化石の約20万年後のものということになり、アウストラロピテクス属とホモ属との間隙を埋めるのではないか、ということで大いに注目されています。

 ただ、LD 350-1をホモ属と分類する傾向には問題があると思います。全体の形態は不明ですし、280万~150万年前頃のアフリカには、ホモ属的特徴とアウストラロピテクス属的特徴の混在する人類化石が複数発見されているからです。その中には、南アフリカ共和国で発見された、ホモ属的特徴とアウストラロピテクス属的特徴の混在する195~178万年前頃の人類化石群は、アウストラロピテクス・セディバ(Australopithecus sediba)も含まれます。LD 350-1がアウストラロピテクス属からホモ属への進化の過程を表す標本である可能性は高そうですが、ホモ属と分類することには慎重であるべきでしょう。

 首から下がほとんど現代人と変わらないような「真の」ホモ属が出現したのは200万~180万年前頃のアフリカだと思われますが、それ以前、さらにはそれ以降も、ホモ属的な特徴とアウストラロピテクス属的な特徴の混在する人類遺骸が発見されており、これらの人類遺骸はアウストラロピテクス属ともホモ属とも分類されています。セディバはアウストラロピテクス属に分類された方ですが、分類に関して議論が続いているものの(関連記事)、アウストラロピテクス属的特徴も有するホモ属として、ハビリス(Homo habilis)という種区分が設定されています。ハビリスは240万年前頃から存在していたとされていますが、エレクトス(Homo erectus)が出現してからずっと後の144万年前頃までケニアで存在していた可能性も指摘されています(関連記事)。233万年前頃のハビリスと分類されている人類遺骸からは、ホモ属が当初より多様化していった可能性も指摘されています(関連記事)。

 300万~200万年前頃の人類遺骸は少ないので、ホモ属の初期の進化状況は曖昧ですが、ホモ属的な派生的特徴が300万~200万年前頃のアフリカ各地で異なる年代・場所・集団に出現し、比較的孤立していた複数集団間の交雑も含まれる複雑な移住・交流によりホモ属が形成されていった、とも想定できるように思います。近年、人類の出アフリカが200万年以上前までさかのぼることを示す証拠の報告が相次いでおり(関連記事)、現時点では248万年前頃までさかのぼります(関連記事)。ジョージア(グルジア)にあるドマニシ(Dmanisi)遺跡の事例(関連記事)から推測すると、おそらく、アウストラロピテクス属的特徴とホモ属的な特徴の混在する人類集団が、まずアフリカからユーラシアに拡散し、アジア東部にまで到達したのでしょう。ただ、そうしてユーラシア東部まで拡散した初期人類は、現代人の祖先ではなさそうですが。