大相撲初場所千秋楽

 今場所は大荒れとなりました。まず、両横綱のうち白鵬関は1勝2敗となり4日目から、鶴竜関は1勝3敗となり5日目から途中休場となりました。両大関のうち、角番の豪栄道関は5勝10敗と負け越して大関から陥落し、先場所大関から陥落した高安関は6勝9敗と負け越して、大関には復帰できませんでした。元大関の栃ノ心関も5勝10敗と不振で、まだとても状態が戻っていないようです。上位陣の不振は深刻で、これまでなら上位陣のだらしなさが批判されるところですが、むしろ、34歳の白鵬関と鶴竜関および33歳の豪栄道関を昨年(2019年)末までに引退もしくは大関陥落に追い込めなかった若手がだらしない、と言うべきでしょう。ただ、少子高齢化が進展する中、大相撲のような古臭くて理不尽な慣習が多く残り故障しやすい世界に、身体能力の高い有望な少年がどれだけ入門してくるかと考えると、もちろん白鵬関が相撲史で後々まで語り継がれるだろう偉大な力士だという特殊事情はあるにしても、単に稽古不足などといって若手を精神論で批判しても意味がない、とは思います。

 白鵬関と鶴竜関の休場に関しては、稀勢の里関(荒磯親方)の先例の悪影響と言うべきでしょう。力士、とくに関取ともなると、どこか状態が悪いのは普通で、休場理由を探すのは容易ですから、むしろほとんどの関取は無理をして出場している、とも言えるでしょう。正直なところ、白鵬関も鶴竜関も無理をすれば出場でき、白鵬関は何とか勝ち越すくらいはできたと思いますが、優勝が難しそうとなったので、あっさりと休場したのだと思います。

 稀勢の里関は2019年初場所に引退しましたが、横綱昇進後初めて迎えた2017年春場所で優勝して以降、2018年九州場所までの10場所で勝ち越したのは2018年秋場所だけで(10勝)、途中休場が5場所、全休が4場所と横綱としては惨憺たる成績でした。こんな惨状でも横綱審議委員会からは引退勧告がなく、悪例を残しただけとなりました。白鵬関と鶴竜関の両横綱にも、少々休場しても構わないだろう、と開き直っているところが窺えます。じっさい、相撲協会は稀勢の里関にこれだけ甘い態度を示した以上、白鵬関と鶴竜関に関してはある程度の休場を認めねばならない、と思います。少なくとも、今場所の白鵬関と鶴竜関の休場に関して、横綱審議委員会が厳しく勧告するようなことはあってはならない、と思います。

 両横綱が休場し、来場所は大関が1人となり、40年近く存在しなかった横綱大関が復活することになりそうで、危機的状況とも言えます。ただ、炎鵬関など個性的な力士もおり、相撲人気自体はとくに低下していないようです。とはいえ、横綱大関陣の不振はやはり大問題なので、若手の台頭に期待するしかありません。炎鵬関は西前頭5枚目で8勝7敗と勝ち越し、二桁の黒星も充分あり得る、と予想していたので、これは意外でした。現在の相撲人気に大きく貢献している炎鵬関が重傷を負わないよう、願うばかりです。

 序盤の時点で大波乱も予感させた優勝争いは、じっさい、幕尻(西前頭17枚目)の徳勝龍関と西前頭4枚目の正代関が1敗で引っ張り、14日目に直接対決するという、予想外の展開となりました。正代関の方は、まだ28歳ですし、最高位は関脇なので、上位陣が不調の今場所で大きく勝ち越しても不思議ではないかもしれません。しかし、三役で勝ち越したことはなく、もう3年近くずっと平幕なので、私もすっかり「過去の期待力士」と認識しており、この活躍には驚きました。

 それ以上に驚いたのは徳勝龍関の快進撃で、いかに幕尻で対戦相手に恵まれているとはいえ、すでに33歳で過去2年はほぼ十両にいただけに、今場所前にこの活躍を予想できた人は皆無だろう、とさえ思います。旭天鵬関が37歳で優勝した時にも驚きましたが、その時点で10年以上ほぼ幕内におり、最高位が関脇で小結での二桁勝利もあり、優勝の2場所前には西前頭6枚目で勝ち越している実力者だけに、最高位が西前頭4枚目の徳勝龍関と比較すると、納得できるところはあります。徳勝龍関と正代関の直接対決は、徳勝龍関が今場所面白いように決まっている突き落としで勝ち、単独首位で千秋楽を迎えました。

 千秋楽は、まず正代関が御嶽海関と対戦し、押し出して勝って2敗を守り、優勝決定戦への望みをつなぎました。御嶽海関の状態が悪いとはいえ、重圧のかかる一番で素晴らしい内容でした。徳勝龍関は幕尻ながら結びの一番で貴景勝関と対戦し、得意の左四つに組み止め、上手を引いて寄り切って勝ち、14勝1敗で初優勝を決めました。正直なところ、貴景勝関が実力差を見せつけて圧勝し、優勝決定戦では地力の差から正代関が有利と予想していただけに、徳勝龍関が真っ向勝負で貴景勝関に勝ったのには驚きました。幕尻での優勝ではありますが、千秋楽まで優勝を争った正代関に直接対決で勝ち、千秋楽で大関を真っ向勝負で破っていますから、価値があると思います。

 上位陣が崩壊状況にあるなか、大関の貴景勝関は終盤までただ一人優勝争いに絡みましたが、14日目に朝乃山関に敗れて優勝争いから脱落しました。現時点では、貴景勝関が次の横綱に最も近いでしょうが、突き押し相撲だけに、横綱に昇進できるのか、昇進できたとして、横綱に相応しい安定した成績を残せるのか、懸念は残ります。貴景勝関は研究熱心でまだ若いので、今後の成長に期待したいところではありますが。

 朝乃山関は、勝ち越したものの、10勝5敗に終わりました。今場所13勝以上での優勝なら大関昇進もあったかもしれませんし、来場所後の大関昇進を目指すなら、11勝以上はしておきたかったところです。多くの人が次の大関の最有力候補と認め、横綱昇進まで期待する人も少なくないと思われる朝乃山関ですが、まだ大関に昇進するには物足りないところがあるのは否定できません。状態が悪かったとはいえ、御嶽海関が7勝8敗と負け越すなど、他の大関候補が伸び悩んでいるので、朝乃山関の今後の成長に期待したいところではありますが。

 十両では、照ノ富士関が全勝を逃したとはいえ、13勝2敗で優勝したのは見事でした。ただ、復活とはいっても、まだ全盛期の力に遠く及ばないことは明らかで、今後も、全盛期の力を取り戻せるとは思えません。本来ならば、照ノ富士関は今頃横綱として君臨し、白鵬関と鶴竜関の少なくとも一方は引退に追い込んでいなければならなかったのですが、何とも残念です。十両に陥落した逸ノ城関は、6勝9敗と負け越してしまいました。まだ状態が戻っていないのでしょうが、本来なら今頃は照ノ富士関とともに横綱として君臨していたはずの逸材だけに、優勝争いに加われないばかりか負け越してしまうとは、本当に残念です。

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