牧野雅彦『ヴェルサイユ条約 マックス・ウェーバーとドイツの講和』

 中公新書の一冊として、中央公論新社から2009年1月に刊行されました。本書は、ドイツ視点からのヴェルサイユ条約締結へと至る交渉史ですが、副題にあるように、ウェーバーの言説と関与を取り上げることで、ヴェルサイユ条約の意義をより深く分析するとともに、外交における大きな転機となった第一次世界大戦末期から直後の世界的思潮を掘り下げています。「戦争責任」とウェーバーの「責任倫理」では「責任」に当たる原語が違うなど、基礎的知識の不足のため知らなかったことも多く、勉強になりました。

 講和条約交渉に限らず、一般的に交渉は難しいものですが、本書を読んで改めて痛感します。ドイツはアメリカ合衆国のウィルソン大統領の理想主義に期待を寄せるところがありましたが、本書を読むと、ドイツがウィルソン大統領の意図を必ずしも的確に読めていなかった、と了解されます。ただ、第一次世界大戦末期以降、世界的な民主主義の浸透とロシア革命により、一部指導層による従来の秘密外交をそのまま継続することはもはやできず、大衆の動向を強く考慮しなければいけなくなった激変期でしたから、情勢の読み間違いには仕方のないところもあり、ウィルソン大統領にしても、自分の構想の実現には挫折しました。

 ウェーバーは、第一次世界大戦の原因として第一にメシアを挙げていますが、興味深いのは、ロシアへの警戒感がひじょうに強いことです。ドイツは、フランスに負ければ領土の一部を失い、イギリスに負ければ海外貿易は麻痺するかもしれませんが、ロシアに負ければ独立を失うことになるだろうから、ロシアこそドイツに向けられた唯一の脅威であり、世界の文化に対する脅威でもある、とウェーバーは論じます。させにウェーバーは、ロシアの潜在的脅威は帝政崩壊後も存続するだろう、との見通しを提示しています。ここには、ドイツというかヨーロッパ西方知識人のロシアへの偏見もあるのでしょうが、真理の一面であることも否定できないように思います。じっさい、帝政ロシア崩壊後のソ連も、ソ連崩壊後の混乱を経たプーチン政権下のロシアにも、潜在的な膨張欲が見られます。もっとも、ロシア側に立てば、ヨーロッパこそロシアへの敵意に満ちており、防衛圏の確保はロシアの存続に必須なのだ、と反論できるでしょうし、それも真理の一面であることは否定できないでしょう。

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