プエブロボニート遺跡の土器製作における性別分業

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、アメリカ合衆国ニューメキシコ州にある有名なプエブロボニート(Pueblo Bonito)遺跡の土器製作における性別分業についての研究(Kantner et al., 2019)が報道されました。年齢や性に基づく分業は、現生人類(Homo sapiens)社会において普遍的に見られます。しかし、資料の乏しい古代社会の分業については、現代社会からの推論に依拠しているところが多分にあり、確実ではありません。これまで、アメリカ合衆国南西部の先住民集団に関する民族誌的記録などから、先コロンブス期のアメリカ大陸先住民集団の性別分業も推測されており、土器製作は伝統的に女性の役割だった、と考えられてきました。しかし、これはあくまでも後世の記録からの推測です。

 そこで本論文は、アメリカ合衆国ニューメキシコ州にある有名なプエブロボニート(Pueblo Bonito)遺跡の10~11世紀頃の土器985個を対象に、その性別分業を検証しました。本論文が土器製作者の性別判断の根拠としたのは指紋です。指紋には性的二形が見られ(指紋の隆線が男性の場合は女性よりも9%太いとされます)、80~90%の確率で性別を判定できる、とされます。プエブロボニート遺跡では、粘土を太い縄のようにして、螺旋状にぐるぐると巻いて器の形にする「波状文様土器」を製作していました。波状文様の土器は、親指と人差し指で粘土と粘土を挟んで貼り合わせていたので、粘土には製作者の指紋が残されています。これらの指紋を分析して製作者の性別を判定する、というわけです。

 プエブロボニート遺跡の土器の分析の結果明らかになったのは、12%ほどの性別不明のものを除いて、各集団により製作者の性別割合は異なるものの、男性の方が多い場合も珍しくなかった、ということです。性別の違いがほとんどなかったり、女性の方が多かったりする集団もありますが、男性の方が60%以上を占める集団もあります。これを時系列で見ると、初期には男性の割合が高かったものの、後には性差が縮小してほぼなくなる、というように変化していきます。本論文はこれを、周辺地域での土器需要の増加のためかもしれない、と推測します。当時、文化の中心地として急速に発展していたチャコ峡谷に多くの物資が流入していました。チャコ峡谷へと運ばれる土器の需要が高まり、プエブロボニート遺跡の多くの人々が土器製作に関わるようになったのではないか、というわけです。

 本論文が提示したプエブロボニート遺跡の土器製作者の性別分析は、後世の民族誌的記録などに依拠した過去の生活史の推測が危ういことを示したという意味で、たいへん意義深いと思います。プエブロボニート社会に関しては、母系世襲による権力継承の可能性が指摘されています(関連記事)。民族誌的記録などからの推測とは異なり、土器製作に男性も大きく関わっていたのは、そうした社会構造とも関連しているのかもしれません。また、プエブロボニート社会と、世界最古の都市とも言われるアナトリア半島中央部南方にある新石器時代のチャタルヒュユク(Çatalhöyük)遺跡の社会との類似性も指摘されています(関連記事)。プエブロボニート社会とチャタルヒュユク社会はともに、儀式に基づく社会組織により特徴づけられ、これが生物学的血縁関係よりも優先される、というわけです。こうした社会構造が性別分業の有無とどう関連しているのか、よく分かりませんが、今後の研究の進展が期待されます。


参考文献:
Kantner J. et al.(2019): Reconstructing sexual divisions of labor from fingerprints on Ancestral Puebloan pottery. PNAS, 116, 25, 12220–12225.
https://doi.org/10.1073/pnas.1901367116