古墳時代の出雲人のDNA解析

 古墳時代の出雲人のDNA解析について報道されました。まだ報道でしか確認していませんが、たいへん興味深い研究だと思います。出雲市の猪目洞窟遺跡では1948年に3~7世紀頃の古墳時代のものと考えられる人類遺骸が発見されています。このうち6人で母系遺伝となるミトコンドリアDNA(mtDNA)が解析され、「縄文系」と「渡来系」がそれぞれ3人ずつだった、とのことです。さらに、この6人のうちDNAの保存状態が良好だった「縄文系」と「渡来系」それぞれ1人ずつの核DNAが解析され、ともに東京都の古墳時代の人類や現代日本人よりも遺伝的に「縄文人」に近縁であることが明らかになったそうです。

 日本列島の本州・四国・九州(およびそれぞれのごく近隣 の島々)から構成される「本土」集団が、遺伝的には「縄文人」と弥生時代以降の「渡来系」集団との混合で、後者の影響の方がずっと大きい、ということはほぼ通説になっています。しかし、「本土」集団の形成過程は一様ではなく、時代・地域による違いが大きかったのではないか、と予想されます。西日本は東日本と比較して、弥生時代以降の「渡来系」集団の影響が早期に大きくなったのでしょうが、西日本でも地域差があり、出雲はその進行が遅れた地域だったのかもしれません。ただ、出雲とはいっても1遺跡での調査だけに、より広くDNA解析が進まないと、一般化できないと思います。

マラリア媒介蚊の殺虫剤抵抗性機構

 マラリア媒介蚊の殺虫剤抵抗性機構エピに関する研究(Ingham et al., 2020)が公表されました。ピレスロイドを染み込ませた蚊帳は、アフリカでのマラリアに関連する罹患率と死亡率の大幅な低下の原動力となってきました。しかし、蚊帳による強い選択圧は、アフリカのハマダラカ属(Anopheles)個体群においてピレスロイドに対する抵抗性の拡大と上昇を引き起しており、マラリア防除によって得られた利益が無効になる恐れが生じています。この研究は、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)の肢に豊富に存在する化学感覚タンパク質であるSAP(sensory appendage protein)の1つ(SAP2)の発現が、この蚊にピレスロイド抵抗性を付与することを示します。

 SAP2の発現は、殺虫剤抵抗性の個体群で上昇していて、こうした蚊がピレスロイドに接触することでさらに誘導されます。ガンビエハマダラカでSAP2発現を抑制すると死亡率が完全に元に戻りますが、SAP2を過剰発現させると、おそらくSAP2のピレスロイド系殺虫剤への高親和性結合により抵抗性が上昇しました。ゲノム塩基配列解読データのマイニングにより、西アフリカの3ヶ国(カメルーン・ギニア・ブルキナファソ)の蚊個体群ではSAP2座位近傍に選択的一掃がある、と明らかになり、観察されたハプロタイプ関連の一塩基多型の増加は、ブルキナファソで報告されたピレスロイドに対する蚊の抵抗性の上昇を反映しています。この研究により、これまでに報告されていなかった殺虫剤抵抗性機構が明らかになり、この機構はマラリア防除の取り組みにたいへん重要な意味を持つと考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


マラリア:SAP2がマラリア媒介蚊をピレスロイドから保護する

マラリア:マラリア媒介蚊における殺虫剤抵抗性機構

 殺虫剤抵抗性の上昇は、マラリア防除における最大の難題の1つである。今回H Ransonたちは、マラリア媒介蚊が持つ殺虫剤抵抗性の新しい機構を報告している。彼らは発現の差異の解析、RNA干渉による遺伝子抑制とトランスジェニックによる過剰発現、殺虫剤への結合試験、集団遺伝学的解析を組み合わせて、化学感覚タンパク質であるSAP2がガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)にピレスロイド抵抗性を付与することを示している。今回の知見は、マラリアを伝播させる蚊個体群の殺虫剤抵抗性に対抗する新しい方法につながる可能性がある。



参考文献:
Ingham VA. et al.(2020): A sensory appendage protein protects malaria vectors from pyrethroids. Nature, 577, 7790, 376–380.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1864-1