性別が哺乳類の遺伝子発現に及ぼす影響

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、性別が哺乳類の遺伝子発現に及ぼす影響に関する研究(Naqvi et al., 2019)が公表されました。日本語の解説記事もあります。哺乳類の雌雄においては、生物学的プロセスおよび表現型にさまざまな差がよく見られます。たとえば、ほとんどの哺乳類の雄は雌よりも大きい、ということなどです。性差は多くの種に共通していると考えられるため、ヒトの性差のある性質および疾患の検討にはよく動物モデルが利用されます。しかし、遺伝子、とくに常染色体遺伝子の発現に対する性別の影響はよく分かっていません。

 この研究は、性別がゲノムにどのように影響するのか検討するため、哺乳類5種を用いて、性差のある遺伝子発現に関するゲノム規模の多組織比較調査を実施しました。この研究は、マカク・マウス・ラット・イヌの雌雄の各起原層および主要な器官系を示す、12種類の組織のRNAシーケンシングデータを収集した。この研究は非ヒトデータを、対応するGenotype Tissue Expression(GTEx)コンソーシアム(人体のすべての主要組織の遺伝子発現を目録にしたもの)のヒトRNA-seqデータと比較しました。

 比較解析から、各組織に保存された性差のある遺伝子発現が数百ほど見られ、それぞれが雌雄の性質の差に寄与する、と明らかになりました。たとえば、ヒトの平均身長にみられる約12%の性差は、遺伝子発現でよく保存されている性差によって説明できます。しかし、この結果から、遺伝子発現におけるほとんどの性差が進化的に最近生じた適応で、すべての哺乳類の種に共通したものではないことも明らかになりました。この知見は、ヒトの健康および疾患における幅広い性特異的な差を説明するうえで役立つと考えられますが、性差に関する非ヒトモデルの利用に慎重な注意が必要なことも示しています。進化的な観点からも注目される研究です。


参考文献:
Naqvi S. et al.(2019): Conservation, acquisition, and functional impact of sex-biased gene expression in mammals. Science, 365, 6450, eaaw7317.
https://doi.org/10.1126/science.aaw7317

大相撲初場所千秋楽

 今場所は大荒れとなりました。まず、両横綱のうち白鵬関は1勝2敗となり4日目から、鶴竜関は1勝3敗となり5日目から途中休場となりました。両大関のうち、角番の豪栄道関は5勝10敗と負け越して大関から陥落し、先場所大関から陥落した高安関は6勝9敗と負け越して、大関には復帰できませんでした。元大関の栃ノ心関も5勝10敗と不振で、まだとても状態が戻っていないようです。上位陣の不振は深刻で、これまでなら上位陣のだらしなさが批判されるところですが、むしろ、34歳の白鵬関と鶴竜関および33歳の豪栄道関を昨年(2019年)末までに引退もしくは大関陥落に追い込めなかった若手がだらしない、と言うべきでしょう。ただ、少子高齢化が進展する中、大相撲のような古臭くて理不尽な慣習が多く残り故障しやすい世界に、身体能力の高い有望な少年がどれだけ入門してくるかと考えると、もちろん白鵬関が相撲史で後々まで語り継がれるだろう偉大な力士だという特殊事情はあるにしても、単に稽古不足などといって若手を精神論で批判しても意味がない、とは思います。

 白鵬関と鶴竜関の休場に関しては、稀勢の里関(荒磯親方)の先例の悪影響と言うべきでしょう。力士、とくに関取ともなると、どこか状態が悪いのは普通で、休場理由を探すのは容易ですから、むしろほとんどの関取は無理をして出場している、とも言えるでしょう。正直なところ、白鵬関も鶴竜関も無理をすれば出場でき、白鵬関は何とか勝ち越すくらいはできたと思いますが、優勝が難しそうとなったので、あっさりと休場したのだと思います。

 稀勢の里関は2019年初場所に引退しましたが、横綱昇進後初めて迎えた2017年春場所で優勝して以降、2018年九州場所までの10場所で勝ち越したのは2018年秋場所だけで(10勝)、途中休場が5場所、全休が4場所と横綱としては惨憺たる成績でした。こんな惨状でも横綱審議委員会からは引退勧告がなく、悪例を残しただけとなりました。白鵬関と鶴竜関の両横綱にも、少々休場しても構わないだろう、と開き直っているところが窺えます。じっさい、相撲協会は稀勢の里関にこれだけ甘い態度を示した以上、白鵬関と鶴竜関に関してはある程度の休場を認めねばならない、と思います。少なくとも、今場所の白鵬関と鶴竜関の休場に関して、横綱審議委員会が厳しく勧告するようなことはあってはならない、と思います。

 両横綱が休場し、来場所は大関が1人となり、40年近く存在しなかった横綱大関が復活することになりそうで、危機的状況とも言えます。ただ、炎鵬関など個性的な力士もおり、相撲人気自体はとくに低下していないようです。とはいえ、横綱大関陣の不振はやはり大問題なので、若手の台頭に期待するしかありません。炎鵬関は西前頭5枚目で8勝7敗と勝ち越し、二桁の黒星も充分あり得る、と予想していたので、これは意外でした。現在の相撲人気に大きく貢献している炎鵬関が重傷を負わないよう、願うばかりです。

 序盤の時点で大波乱も予感させた優勝争いは、じっさい、幕尻(西前頭17枚目)の徳勝龍関と西前頭4枚目の正代関が1敗で引っ張り、14日目に直接対決するという、予想外の展開となりました。正代関の方は、まだ28歳ですし、最高位は関脇なので、上位陣が不調の今場所で大きく勝ち越しても不思議ではないかもしれません。しかし、三役で勝ち越したことはなく、もう3年近くずっと平幕なので、私もすっかり「過去の期待力士」と認識しており、この活躍には驚きました。

 それ以上に驚いたのは徳勝龍関の快進撃で、いかに幕尻で対戦相手に恵まれているとはいえ、すでに33歳で過去2年はほぼ十両にいただけに、今場所前にこの活躍を予想できた人は皆無だろう、とさえ思います。旭天鵬関が37歳で優勝した時にも驚きましたが、その時点で10年以上ほぼ幕内におり、最高位が関脇で小結での二桁勝利もあり、優勝の2場所前には西前頭6枚目で勝ち越している実力者だけに、最高位が西前頭4枚目の徳勝龍関と比較すると、納得できるところはあります。徳勝龍関と正代関の直接対決は、徳勝龍関が今場所面白いように決まっている突き落としで勝ち、単独首位で千秋楽を迎えました。

 千秋楽は、まず正代関が御嶽海関と対戦し、押し出して勝って2敗を守り、優勝決定戦への望みをつなぎました。御嶽海関の状態が悪いとはいえ、重圧のかかる一番で素晴らしい内容でした。徳勝龍関は幕尻ながら結びの一番で貴景勝関と対戦し、得意の左四つに組み止め、上手を引いて寄り切って勝ち、14勝1敗で初優勝を決めました。正直なところ、貴景勝関が実力差を見せつけて圧勝し、優勝決定戦では地力の差から正代関が有利と予想していただけに、徳勝龍関が真っ向勝負で貴景勝関に勝ったのには驚きました。幕尻での優勝ではありますが、千秋楽まで優勝を争った正代関に直接対決で勝ち、千秋楽で大関を真っ向勝負で破っていますから、価値があると思います。

 上位陣が崩壊状況にあるなか、大関の貴景勝関は終盤までただ一人優勝争いに絡みましたが、14日目に朝乃山関に敗れて優勝争いから脱落しました。現時点では、貴景勝関が次の横綱に最も近いでしょうが、突き押し相撲だけに、横綱に昇進できるのか、昇進できたとして、横綱に相応しい安定した成績を残せるのか、懸念は残ります。貴景勝関は研究熱心でまだ若いので、今後の成長に期待したいところではありますが。

 朝乃山関は、勝ち越したものの、10勝5敗に終わりました。今場所13勝以上での優勝なら大関昇進もあったかもしれませんし、来場所後の大関昇進を目指すなら、11勝以上はしておきたかったところです。多くの人が次の大関の最有力候補と認め、横綱昇進まで期待する人も少なくないと思われる朝乃山関ですが、まだ大関に昇進するには物足りないところがあるのは否定できません。状態が悪かったとはいえ、御嶽海関が7勝8敗と負け越すなど、他の大関候補が伸び悩んでいるので、朝乃山関の今後の成長に期待したいところではありますが。

 十両では、照ノ富士関が全勝を逃したとはいえ、13勝2敗で優勝したのは見事でした。ただ、復活とはいっても、まだ全盛期の力に遠く及ばないことは明らかで、今後も、全盛期の力を取り戻せるとは思えません。本来ならば、照ノ富士関は今頃横綱として君臨し、白鵬関と鶴竜関の少なくとも一方は引退に追い込んでいなければならなかったのですが、何とも残念です。十両に陥落した逸ノ城関は、6勝9敗と負け越してしまいました。まだ状態が戻っていないのでしょうが、本来なら今頃は照ノ富士関とともに横綱として君臨していたはずの逸材だけに、優勝争いに加われないばかりか負け越してしまうとは、本当に残念です。

一夫一妻制の起源

 有名な男優が起こした不倫事件とそれへの反応に伴い、Twitter上でも一夫一妻(一夫一婦、単雄単雌)についてそれなりに盛り上がったように見えます。「経験的に本能に反する一夫一妻制」との発言もある一方で、「人類は一夫一婦制に向いていないのか」との記事を引用して、そうした見解を否定する発言もあります。現生人類(Homo sapiens)では一夫多妻を容認している社会が歴史的に多かったと言えるでしょうが(他に多夫一妻などもありますが)、前近代の日本社会もそうだったように、一夫多妻を容認するような社会でも一夫多妻は一部にのみ見られるものであり、多くの人々は一夫一妻を維持してきました。

 この一夫一妻(単雄単雌)の起源をめぐって、上述のように一般層の認識は分かれていると言えそうですが、学界でもそれは変わらないようで、複数の仮説が提示されており、まだ決着していません(関連記事)。「人類は一夫一婦制に向いていないのか」との記事では、人類を定義する最重要の特徴とも言える常習的な直立二足歩行の定着を、配偶形態における単雄単雌の定着による雄から配偶者である雌への食料運搬で説明しています。この仮説では、人類系統における配偶形態の単雄単雌の起源は、直立二足歩行と同じくらいひじょうに古いことになります。

 化石種の配偶形態については、形態の性差(性的二形)が強く関わっている、とされます。性的二形が強いと単雄複雌、弱いというか性差がほぼないようだと単雄単雌というわけです。現代人は、単雄単雌のテナガザルほどではないとしても、ゴリラ属やチンパンジー属など他の近縁系統よりも性的二形は弱くなっています。ただ、初期人類進化史において化石記録は断片的なので、性的二形の程度については議論が分かれています。440万年前頃のアルディピテクス・ラミダス(Ardipithecus ramidus)では雌雄の体格差が小さかったと推測されており(関連記事)、現代人の祖先である可能性の高いアウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)についても、性差は現代人並だった、との見解もあります(関連記事)。

 ただ、440万年前頃のラミダスが現代人系統なのか、かなり疑問ですし(関連記事)、アファレンシスについても、性的二形は現代人よりずっと強かった、との見解の方が有力と言えるでしょう。ホモ・エレクトス(Homo erectus)の性的二形はアファレンシスと現代人の中間程度との見解が妥当だとすると(関連記事)、人類史における配偶形態の単雄単雌(一夫一妻)はホモ属以降とも考えられます。ただ、社会構造と性差との関連はそれほど明確ではない、との指摘もあります(関連記事)。その意味で、アファレンシスの時点で配偶形態はある単雄単雌にかなり傾いていた可能性もあるとは思います。

 人類の配偶形態の変遷については、その社会構造の変化の中で考察しなければならず、現時点で私には詳細かつ的確に論じるだけの準備はとてもありません。この問題に関しては、化石記録からの推測に限界がある以上、人類も含まれる類人猿(ヒト上科)社会の在り様も参考にしなければならないでしょう。現生類人猿社会から強く示唆されるのは、類人猿社会の重要な共通する特徴は非母系である、ということです。そこから、テナガザル属のような単雄単雌も、ゴリラ属のような単雄複雌も、チンパンジー属のような複雄複雌も進化してきたのではないか、と思います。

 では、人類社会はどうなのかというと、少なくとも現生人類に関しては、他の現生類人猿と比較して重要な特徴は、一つには、ゴリラ属のような家族的単位とチンパンジー属のようなやや大きな規模の集団とを両立させ、後者の中に前者が組み込まれている、ということだと思います。もう一つは、出自集団を離れて他の集団に合流しても、出自集団との関係を維持し続ける、ということです。つまり現代人の社会は基本的に、無系でも父系でも母系でもなく双系的というわけです(関連記事)。もちろん、個々の社会が父系もしくは母系に傾いていることは珍しくなく、その程度も多様です。

 このような現生人類社会の特徴がどのように形成されてきて、それが配偶形態と関わっているのか、私の現在の知見ではとても的確に推測できません。まず、ゴリラ属で時として見られるように、父系的な集団が形成され、その中で単雄単雌や単雄複雌の排他的な配偶関係が成立したのでしょう。その後、雌の出自集団とのつながりの維持と、配偶形態の単雄単雌傾向が定着していき、これは、脳容量の増加と直立二足歩行への特化により、出産がさらに困難になったことと関連しているのではないか、と考えています。その意味で、単雄複雌の排他的な配偶関係傾向の確立はホモ属以降ではないか、と考えているのですが、出自集団とのつながりが維持されるようになった時期も含めて、現時点では妄想にすぎないので、この問題は今後も調べていきます。

大河ドラマ『麒麟がくる』第2回「道三の罠」

 1547年(西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)秋、尾張の織田信秀が美濃へと進行してくるなか、明智光秀(十兵衛)は都の医師である望月東庵とその助手の駒を連れて美濃に戻ります。兵数では織田勢の方が圧倒的に優勢ですが、斎藤利政(道三)は信秀に人望がないと見抜いており、勝つための策を立てていました。利政は早々に籠城を選択し、家臣の稲葉良通だけではなく、嫡男の高政(義龍)も利政に対して不満を抱いています。しかし、利政は織田軍の油断を突いて出撃し、織田軍を敗走させます。この織田軍の美濃侵攻は、美濃守護である土岐頼純が陰で画策した結果でした。利政は、自分の言いなりにはならない、と言い放った頼純を毒殺します。

 今回は信秀と利政の戦いが描かれましたが、予想以上に長く、大規模な撮影になっていたように思います。これでは後半の予算が不足するのではないか、と部外者ながら心配になってしまいますが、初の4K製作の戦国時代大河ドラマということで、予算はこれまでの大河ドラマよりも潤沢なのでしょうか。信秀の人物像はまださほど描かれていませんが、利政(道三)に関してはすっかりキャラが確立した感じで、この人物造形は成功のように思います。利政(道三)が息子との戦いで敗死する姿を想像できないくらいですが、利政(道三)と高政(義龍)の親子関係が今後どう変わってくるのか、ということも序盤の見所となりそうです。今回も帰蝶の出番があり、作中では初めて光秀と対面しましたが、おそらくこれでも当初の予定より出番は減っているのでしょう。帰蝶の出番は全て撮り直しなのかと思うと、沢尻エリカ氏は本当に大迷惑をかけてしまったのだな、と改めて思い知らされます。なお、帰蝶は美濃守護である土岐頼純の妻という設定になっています。