禁煙により非喫煙者と変わらなくなる一部の細胞の変異量

 一部の細胞の変異量が禁煙により非喫煙者と変わらなくなることを報告した研究(Yoshida et al., 2020)が公表されました。喫煙は肺癌を引き起こし、この過程は、煙草の煙に含まれる60種類以上の発癌物質がDNAを直接損傷して変異させることにより進行します。肺癌細胞のゲノムに煙草が及ぼす重大な影響に関しては充分に裏づけられていますが、正常な気管支細胞に関しては同等のデータが存在しません。

 この研究は、喫煙の影響を細胞レベルで解明するため、合計16人の気管支上皮細胞を調べました。その内訳は、小児3名、喫煙歴のない者4名、元喫煙者6名、現役の喫煙者3名です。この研究では、気管支細胞の単一細胞から632個のコロニーが作り出され、そのゲノムの塩基配列が解読され、遺伝的変異のデータセットが得られました。

 その結果、これらの変異の大部分は喫煙が原因だった、と判明しましたが、予想外だったのは、同じ人における変異の量(変異負荷)の細胞間変動性が喫煙によって増大したことでした。同じ気管支上皮の生検で得られた細胞であっても、変異量が10倍も異なること(1細胞当たり1000個から10000個以上まで)もありました。

 元喫煙者や現役の喫煙者から採取した細胞の大部分は、変異量が多かったものの、変異量が同年齢の喫煙歴のない者と変わらない細胞もありました。現役の喫煙者に、ほぼ正常な変異量の細胞がほとんどなかったのに対して、元喫煙者の場合には、そうした細胞の出現頻度が4倍に達し、研究対象の細胞の20~40%を占めていました。また、この研究は、ほぼ正常な変異量の細胞のテロメアが、元喫煙者の変異量の多い細胞よりも長いことを見いだしており、テロメアが長い細胞は、細胞分裂の回数が少なく、休止状態の幹細胞の子孫細胞である可能性がある、と推測しています。

 ドライバー変異(癌の発生や悪化の直接的な原因となる遺伝子変異)は年齢とともに頻度が増え、喫煙経験の全くない中年被験者では4~14%の細胞に存在しました。現喫煙者では25%以上の細胞にドライバー変異が存在し、2個または3個ものドライバー変異を有する細胞も0~6%確認されました。このように、喫煙は変異負荷や細胞間の不均一性、ドライバー変異を増大させますが、禁煙は煙草による変異生成を免れた有糸分裂停止細胞による気管支上皮の復元を促進します。健康における禁煙の有効性が改めて確認された、というわけです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【遺伝学】タバコをやめると喫煙のシグナルが減る

 対象者(16人)の肺の細胞を調べたところ、一部の細胞の変異量が、元喫煙者と喫煙歴のない者で同じだったことが判明した。また、喫煙していた者が禁煙すると、その肺組織の一部にタバコ煙への曝露による損傷のない細胞が補充されることも示唆された。この研究について報告する論文が掲載される。

 今回、Peter Campbellたちの研究チームは、喫煙の影響を細胞レベルで解明するため、合計16人の気管支上皮細胞を調べた。その内訳は、小児3名、喫煙歴のない者4名、元喫煙者6名、現役の喫煙者3名である。今回の研究では、気管支細胞の単一細胞から632点のコロニーが作り出され、そのゲノムの塩基配列解読が行われ、遺伝的変異のデータセットが得られた。その結果、これらの変異の大部分は喫煙が原因だったことが判明したが、予想外だったのは、同じ人における変異の量(変異負荷)の細胞間変動性が喫煙によって増大したことだった。同じ気管支上皮の生検で得られた細胞であっても変異の量が10倍も異なること(1細胞当たり1000から10000以上まで)があった。

 元喫煙者や現役の喫煙者から採取した細胞の大部分は、変異量が多かったが、変異量が同年齢の喫煙歴のない者と変わらない細胞もあった。現役の喫煙者に、ほぼ正常な変異量の細胞がほとんどなかったのに対し、元喫煙者の場合には、そうした細胞の出現頻度が4倍に達し、研究対象の細胞の20~40%を占めていた。また、Campbellたちは、ほぼ正常な変異量の細胞のテロメアが、元喫煙者の変異量の多い細胞よりも長いことを見いだしており、テロメアが長い細胞は、細胞分裂の回数が少なく、休止状態の幹細胞の子孫細胞である可能性があるという考えを示している。


医学研究:喫煙とヒト気管支上皮における体細胞変異

医学研究:正常な上皮での喫煙に誘発される変異生成の動態

 喫煙は、肺組織において発がん物質誘発性の変異生成につながり、がんを駆動する変異が生じるリスクを高める。疫学研究では、禁煙には有益な累積的効果があることが示唆されている。今回P Campbellたちは、喫煙者、元喫煙者、喫煙非経験者の正常な気管支上皮から得た単一細胞由来のコロニー632個の変異状態を調べた。その結果、喫煙がゲノムの不均一性を高めており、それには既知および新規の変異シグネチャーの散発的な寄与があることが示唆された。現喫煙者の細胞にはがんのドライバー変異の増加が認められる一方、元喫煙者の一部の細胞は変異負荷がほぼ正常でテロメアがより長く、これは、禁煙の効果と気管支上皮のほぼ正常な細胞による復元とが関連付けられることを示唆している。



参考文献:
Yoshida K. et al.(2020): Tobacco smoking and somatic mutations in human bronchial epithelium. Nature, 578, 7794, 266–272.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-1961-1

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