スイレンのゲノムと顕花植物の初期進化

 スイレンのゲノムと顕花植物の初期進化に関する研究(Zhang et al., 2020)が公表されました。スイレンは被子植物スイレン目に属します。アンボレラ目(Amborellales)、スイレン目(Nymphaeales)、アウストロバイレヤ目(Austrobaileyales)は合わせて「ANAグレード被子植物」と呼ばれ、これらは現生の主要被子植物につながる系統から最も早く分岐した系統の現生の分類群です。この研究は、熱帯スイレンの一種であるニンファエア・コロラタ(Nymphaea colorata)の409Mbpのゲノム配列について報告しています。

 系統発生学的な解析から、アンボレラ目とスイレン目が、他の全ての現生被子植物に対する連続した姉妹系統であることが裏づけられました。ニンファエア・コロラタのゲノムと、他のスイレン19種のトランスクリプトームからは、スイレン目で全ゲノム重複が1回起きたことと、それはスイレン科(Nymphaeaceae)とおそらくハゴロモモ科(Cabombaceae)で共有されていることとが明らかになりました。この全ゲノム重複で保持されている遺伝子の中には、花成への移行と花の発生を調節する遺伝子のホモログが含まれます。

 ニンファエア・コロラタにおける花器官のABCE遺伝子のホモログの幅広い発現は、初期の被子植物にも、同様に広範な活性を持つ花器官決定の祖先的なABCEモデルが存在したことを裏づけているかもしれません。スイレンで進化した魅力的な芳香と色は主要被子植物にも共通する特徴で、この研究はそれらの生合成遺伝子と推定される遺伝子をニンファエア・コロラタで複数特定しました。花の芳香をもたらすそうした化合物および生合成遺伝子からは、それらが主要被子植物のものと平行して進化してきた、と示唆されました。ニンファエア・コロラタは系統発生学的に独特な位置にあり、そのゲノムからは、被子植物の初期進化を明らかにする手掛かりが得られます。


参考文献:
Zhang L. et al.(2020): The water lily genome and the early evolution of flowering plants. Nature, 577, 7788, 79–84.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1852-5