言語脳活動の遺伝と環境の影響度

 取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、言語脳活動の遺伝と環境の影響度に関する研究(Araki et al., 2016)が公表されました。日本語の解説記事もあります。これまで、言語機能は生まれた後、両親をはじめとする周囲の環境の影響を受けて形成される一方で、ある特定の遺伝子異常により言語障害が生じることから、遺伝的な影響もあることが知られていました。語彙力や流暢さなど実際の言語の能力に関しては、古くから双生児間で似ていることが報告されていましたが、言語の中枢である大脳の活動については、遺伝と環境がどの程度影響を与えているのか、不明でした。

 これまでに脳磁計(脳の神経細胞が発する微弱な磁気を計測する医療用計測装置で、磁気のパターンから脳での電気活動を高精度に推定でき、脳波に近い信号ではあるものの、脳波よりも空間分解能が高い、と考えられています)を用いて様々な脳活動が計測されており、中でも左前頭葉でみられるβ帯域(13-25Hz)や低γ帯域(25-50Hz)の脳活動が言語機能に関連している、と明らかにされてきました。この研究は、遺伝的に100%一致する一卵性双生児と約50%一致する二卵性双生児を対象として、言語に関する課題を与えた時の脳活動を脳磁計にて計測し、低γ帯域(25-50Hz)の脳活動の強さを一卵性と二卵性双生児群で比較することにより、言語機能に関する脳活動の遺伝と環境の影響度を調べました。

 この研究は、大阪大学大学院医学系研究科附属ツインリサーチセンターの研究の一環として行なわれ、同センターによりリクルートされた一卵性双生児28組、二卵性双生児12組を対象として行なわれました。3文字のひらがなもしくはカタカナの名詞(「あひる」や「メロン」など100単語)をスクリーンに提示し、その名詞に関連する動詞を思い浮かべてもらい、その際の脳活動を脳磁計により計測しました。この研究は、計測した脳活動の中で、低γ帯域(25-50Hz)の脳活動が左前頭葉に限局して出現することに着目し、その脳活動の強さを算出しました。

 その結果、脳活動の強さについては、一卵性ペア、二卵性ペアでそれぞれ比較すると、一卵性ペアで高い類似性が認められました。さらに、遺伝と環境の影響度を共分散構造分析(データのばらつきを基に、直接見ることのできないデータに潜む変数を同定する解析方法で、双生児研究では盛んに利用されており、あるデータに対して遺伝と環境の影響がどれくらいあるのか、推定できます)で算出することにより、遺伝と環境の影響度がいずれも50%程度である、と明らかになりました。つまり、言語機能における左前頭葉の脳活動は遺伝と環境から同程度影響を受けて形成されているわけです。

 この研究は、言語脳機能の形成が環境によってもかなり左右されることを明らかにしました。今後の展望として、言語教育においてどのような方法が学習効率を向上させるかなど、効率的な言語教育法の開発につながることが挙げられています。通俗的には、人間の能力は氏(生得的、遺伝子)と育ち(環境)のどちらなのか、といった問題設定がしばしばなされますが、もちろん、「能力」も含めて人間の表現型は遺伝子と環境の相互作用により発現していくものです。ただ、個々の表現型に関してどちらの影響がより強いのか、という問いかけは重要ですから、その意味でこの研究は意義があると思います。また、言語進化の観点からも注目される研究です。


参考文献:
Araki T. et al.(2016): Language-related cerebral oscillatory changes are influenced equally by genetic and environmental factors. NeuroImage, 142, 241–247.
https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2016.05.066

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