ヒトの足の進化

 ヒトの足の進化に関する研究(Venkadesan et al., 2020)が報道されました。日本語の解説記事もあります。ヒトの足は、剛性が高く、アーチを備えていますが、これらの特徴は効率的な直立歩行に必須です。ヒトが足の親指の付け根を使って体を押し出す時、足には体重よりも大きな力がかかり、そのため足の中央部分は湾曲します。しかし、足はこの大きな力に耐える充分な強度があるため、その形状を維持できます。これに対して、ベルベットモンキーやマカクやチンパンジーやゴリラなど他の霊長類は、比較的柔軟性の高い扁平な足を持っています。ヒトの足の構造から高い剛性がどのように生じるのか、という点に関するこれまでの研究の大部分は、踵から母指球に至る足部内側縦アーチ(MLA、内側縦足弓)に着目していましたが、足を横断する足根横アーチ(TTA、足根骨横足弓)の役割を検討していませんでした。TTAはMLAと連携し、ヒト特有の足の剛性を生み出しており、そのためヒトは倒れることなく体を前に蹴り出せます。これは、他の霊長類が木の枝をつかむためにより柔軟性のある足を必要とするのと対照的です。

 この研究は、足の剛性がTTAによって生じているのかどうかを調べるため、ヒトの足について曲げ試験を行ないました。まず、ミッドフットのコンピュータ・シミュレーションとプラスチックモデルの両方が作成され、一定量曲げるのに必要な力が測定されました。その結果、より顕著なTTAを備えたプラスチックモデルとシミュレーションでは、より平坦な足のモデルよりも剛性が高く、曲げの影響を受けにくい、と明らかになりました。逆にこれらのモデルでは、MLAの曲率を増加させても、剛性にほとんど影響しませんでした。その後、長さ・厚さ・TTA曲率が異なる足のメカニカルなモデルの曲げ試験では、シミュレーションとプラスチックモデルの実験と同様に、より顕著なTTAを持つ足の模倣体を曲げようとすると、より剛性がある、と明らかになりました。最後に、献体された足において、縦アーチ組織をそのままにして足の横アーチ組織を切断すると、足の剛性が約半分に低下しました。この研究は、TTAが足の剛性の40%以上に関係している、と推測しています。紙を横方向に折りたたむと、縦の剛性が高くなるように、TTAが足において同じような役割を果たしている、というわけです。

 この研究はまた、絶滅人類種を含む霊長類全体におけるTTAの進化についても調べました。その結果、MLAとTTAが完全に発達しているのはホモ属だけと明らかになりました。MLAはまだホモ属が存在しなかっただろう300万年以上前に出現しましたが、180万年前頃のホモ属にはTTAも備わるようになりました。この知見は、2つの隣接したアーチの組み合わせにより足の縦方向の剛性が生み出されている、と示唆しています。さらに、ヒトの足の進化には、いくつかの段階があり、それにより効率的な歩行と走行が可能になったことも明らかになりました。また、ヒトの足の模倣を目指す義肢や、脚付きロボットの設計を改良できる可能性や、整形外科手術によって痛みが緩和する患者とそうでない患者がいる理由の解明や、靴職人が顧客の足をスキャンすることで、足の全体的な構造に基づき、個人に合わせた提案ができるようになる可能性など、この研究の応用も期待されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


生体力学:二足歩行のために作られたヒトの足

 ヒトの足に備わった2つの独特なアーチによって二足歩行と二足走行が可能になったという結論を示した論文が、今週Nature に掲載される。この新知見は、ヒトの足の進化を解明するための新たな手掛かりであり、ロボットの足の設計を改良するためにも役立つ可能性がある。

 ヒトの足は、剛性が高く、アーチを備えているが、これらの特徴は、効率的な直立歩行に必須である。これに対して、他の霊長類(チンパンジー、ゴリラ、マカクなど)は、比較的柔軟性の高い扁平な足を持っている。ヒトの足の構造から高い剛性がどのように生じるのか、という点について研究者は議論を重ねてきた。先行研究の大部分は、踵から母指球に至る足部内側縦アーチ(MLA)に着目していたが、足を横断する足根横アーチ(TTA)の役割を検討していなかった。

 今回、Madhusudhan Venkadesanたちの研究チームは、足の剛性がTTAによって生じているのかどうかを調べるため、ヒトの足について曲げ試験を行った。その結果、TTAが足の剛性の40%以上に関係していることが明らかになった。紙を横方向に折りたたむと、縦の剛性が高くなるように、TTAが足において同じような役割を果たしていると考えられるのだ。

 また、Venkadesanたちは、絶滅したヒト族種を含む霊長類全体におけるTTAの進化についても調べた。その結果、MLAとTTAが完全に発達しているのはホモ属だけであることが分かった。この知見は、2つの隣接したアーチの組み合わせによって足の縦方向の剛性が生み出されていることを示唆している。さらに、ヒトの足の進化には、いくつかの段階があり、それによって効率的な歩行と走行が可能になったことも分かった。

 同時掲載のNews & Views論文(Glen Lichtwark、Luke Kelly共著)では、これと同じ機構を直接応用して、ヒトの足を模倣することを目指す義肢や脚付きロボットの設計を改良できる可能性が指摘されている。


生体力学:ヒトの足の剛性と横アーチの進化

生体力学:ヒトの歩き方

 ヒトが二足でうまく歩行できる理由の1つは、ヒトの足がまるで板バネのように高い剛性を有することにある。つまり、力が加えられると曲げ抵抗が働くのである。これは、脚と地面の間で伝達される力が効率的に結合することを意味する。この特徴は一般に、踵と母指球の間の足底が地面に接しないようにしている顕著なアーチ形状である内側縦足弓(内側縦アーチ;MLA)と関連付けられている。しかし、MLAが足の剛性の総合的な測定結果と必ずしも相関しないという問題も指摘されている。一方で、MLAと直交する足根横足弓(足根横アーチ;TTA)はこれまで検討されてこなかった。今回M Venkadesanたちは、実験とモデリングの両方を用いて、TTAがいかにしてMLAとともに進化してきたか、そしてそれがヒトの歩行にどのように寄与しているのかを明らかにしている。



参考文献:
Venkadesan M. et al.(2020): Stiffness of the human foot and evolution of the transverse arch. Nature, 579, 7797, 97–100.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2053-y

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