アフリカ東部における異なる石器技術の長期の併用とエレクトス頭蓋

 アフリカ東部における異なる石器技術の長期の併用と、石器と共伴したホモ・エレクトス(Homo erectus)頭蓋に関する研究(Semaw et al., 2020)が報道されました。エチオピアのアファール(Afar)地域のゴナ計画研究地区(The Gona Project study area)では、260万~200万年前頃のオルドワン(Oldowan)石器が多数発見されています。オルドワンは、5段階の伝統的な石器製作技術の区分では様式1(Mode 1)とされます(関連記事)。ゴナでの200万年前頃以降の堆積物には、様式2(Mode 2)となるアシューリアン(Acheulian)石器群が見られます。

 ゴナ地区ではホモ・エレクトス(Homo erectus)の骨盤が発見されており、その形態と進化の理解を深めました。本論文は、ゴナ地区で発見された2個体のエレクトス頭蓋を分析し、石器とエレクトスの関係を検証しています。ゴナ地区のエレクトス頭蓋の一方は、BSN12(Busidima North)で発見されたの126万年前頃の部分的な頭蓋冠(BSN12/P1)で、その年代は、頭蓋冠と関連する、ブーリヒナン(Boolihinan)凝灰岩(BHT)と同じ噴火によるものと考えられる、エチオピアのアワッシュ川上流のメルカクンチュレ(Melka Kunture)層から、1262000±34000年前と推定されています。BSN12/P1には様式1および2の石器が共伴します。もう一方は、BSN12の北東約5.7 kmに位置するDAN5(Dana Aoule North)で発見された、保存状態のより良好なエレクトス頭蓋(DAN5/P1)ですDAN5/P1にも様式1および2の石器が共伴し、年代は160万~150万年前頃と推定されています。

 DAN5とBSN12の石器群には、握斧や10cm 以上の長さとなる両面もしくは片面を調整した大型の石器(large cutting tools、略してLCT)などの様式2石器群と、非成形石核などの様式1石器群が含まれます。石材のほとんどは、近くの川岸で採取できる粗面岩や流紋岩や玄武岩です。DAN5のLCTはエチオピア南部のコンソ(Konso)やケニアのコキセレイ(Kokiselei)のような他の早期アシューリアン遺跡と広い類似性を共有していますが、一部の詳細は異なります。DAN5とBSN12の握斧の約半分は大礫で作られましたが、175万年前頃以降のコンソ遺跡の握斧の大半は剥片で作られています。コンソの早期握斧はDAN5よりも平均して長く、わずかに薄いようです。ゴナとコンソの石器群の違いはおそらく石材の特徴と関連しており、ゴナではコンソよりも小さな石材がより多く用いられました。

 BSN12/P1成人頭蓋冠には、右眼窩縁・前頭鱗・左頭頂部の一部が含まれます。頭蓋内容量は800~900 mlと推定されます。眼窩上隆起の頑丈さから、BSN12/P1は男性と推測されます。より保存状態の良好なDAN5/P1には、頭蓋冠と上顎の大半が含まれます。DAN5/P1の推定頭蓋内容量は598 mlで、既知のアフリカの成人エレクトスでは最小となります。DAN5/P1は、犬歯こそないものの、その歯槽は小さく、女性と推測されます。BSN12/P1とDAN5/P1はホモ・エレクトス(Homo erectus)の形態的特徴を共有しますが、全体的なサイズなどいくつかの点では異なります。DAN5/P1は185万~176万年前頃のジョージア(グルジア)のドマニシ(Dmanisi)頭蓋や、ケニアの160万~150万年前頃の学童期(juvenile、6~7歳 から12~13歳頃)個体(KNM-ER 42700)や、ケニアの95万年前頃のオローゲサイリエ(Olorgesailie)頭蓋(KNM-OL 45500)と類似しており、頭蓋内容量の小ささや後頭部のわずかな湾曲などを有する点で、典型的なアジアのエレクトス頭蓋とは異なります。

 BSN12/P1は、タンザニアの化石(Olduvai Hominid 9)やエチオピアの100万年前頃の化石(BOU-VP-2/66)といったアフリカの標本だけではなく、アジア南東部および東部の人類化石とも、より長く低い頭蓋冠や厚い眼窩上隆起を有する点で類似しています。2点のゴナ標本における解剖学的変異については、いくつかの仮説を提示できます。まず、より古いDAN5/P1は新しいBSN12/P1よりも、小さなサイズや華奢な頭蓋冠や弱い眼窩上隆起といった祖先的特徴を保持しており、両者の違いはアフリカのエレクトス内の長期的な向上進化に起因する、というものです。次に、ゴナのエレクトス2個体のサイズと形態的変異は、おもに単一種内の性的二形の結果というものです。最後に、アファール地域におけるホモ属において、以前には認識されていなかった分類学的多様性を反映しているかもしれない、というものです。

 動物相から、DAN5は草原土壌の河岸森林地帯と、BSN12はより開けた草原地帯と推測されます。ゴナのエレクトスは、川の近くの開けた生息地に隣接する森林地帯に住んでいたようです。DAN5/P1の右上顎第一大臼歯の安定同位体分析から、食性はC3植物もしくは雑食(卵や昆虫や草食動物など)と推測されます。ただ、DAN5/P1の炭素13値は既知の前期更新世ホモ属ではかなり低い点で注目されますが、その解釈にはデータが不足している、と本論文は指摘します。

 本論文は現時点での証拠から、DAN5/P1とBSN12/P1の解剖学的変異を、エレクトスが広く分散し長く続いた性的二形の種だったから、と推測しています。ゴナの2個体よりも前のドマニシの人類も、エレクトスの標本内ではサイズと性的二形の顕著な程度を示す、と本論文は指摘します。エレクトスの広範な分散と低い人口密度は、中断された遺伝子流動の時間に起因する地域固有形態の発達機会を作りました。近年の古代DNA研究で示されているように、遺伝子流動の一時的な中断は必ずしも種分化をもたらさず、数十万年の分離の後でも、人類は互いを交配可能な相手と認識できます。この小さく分散した集団間の遺伝子混合の中断は、多くの主要な形態および行動的属性を共有するものの、かなりの表現型多様性を示す高度に多型な種につながり得ます。

 ゴナの考古学的記録は、この仮説と大まかに一致しています。長期にわたるエレクトスと様式1および2石器群の併用は、小さく分散した集団間の保存された行動的特徴と伝統を示唆するからです。初期のアシューリアン遺跡は、LCTとの関連でほぼ様式1の石核および剥片も有しており、さまざまな遺跡で確認されています。さらに、アフリカ東部の160万~150万年前頃の多くの遺跡には様式1の石器しか含まれていませんが、これに関してはおそらく過小報告されている、と本論文は指摘します。DAN5でもBSN12でも様式1および2両方の石器が発見されていますが、BSN12では様式2の石器がほとんどなく、容易に見過ごしてしまうかもしれません。そのため、注意深く見ていけば、多数の様式1石器群の中に様式2石器もあると推測され、それが見落とされて様式1遺跡と判断される場合も少なくないだろう、というわけです。ゴナの証拠が示唆するのは、様式1遺跡のほとんどは広義のエレクトスの所産で、最近まで根強かった「単一種/単一技術」で想定されるような異なる人類種の共存ではない、ということです。エレクトスの石器技術には多様性がある、というわけです。

 エレクトスの小集団を含むいくつかの初期人類集団は、180万年前頃までにアフリカからユーラシアへと拡散しました。ドマニシ遺跡の年代からは、それがアシューリアンの開発前だった可能性があります。アフリカに残った集団がアシューリアン技術を開発し、後にアジアへの移住に伴い拡散した可能性が最も高そうです。複数の人類種による同年代の2つの異なる技術の共存という可能性も提示されていましたが、本論文は、アフリカに残ったエレクトスが様式2のアシューリアン技術を開発し、可変的かつ柔軟に、様式1および2の両方を使用した、と主張します。

 アシューリアン石器の製作には大きな石材と複雑で高度な製作が必要ですが、様式1の石器は、鋭利な切断剥片が必要な時はいつでも製作されました。石器の機能は石器技術のさまざまな表現において重要になるかもしれません。BSN12の豊富な動物相化石では、解体痕もしくは叩き石による打撃痕は識別されませんでした。しかし、DAN5の動物相化石では、人類による動物消費の証拠と一致するような痕跡が確認されました。ゴナの証拠は、エレクトスが集団水準の行動的多様性および柔軟性を有しており、様式1および2両方を長期にわたった併用していた、と示唆します。

 ただ、この研究には関わっていない碩学のウッド(Bernard Wood)氏は、ゴナの2ヶ所で発見された人類頭蓋の前後数十万年間も石器は製作されていたかもしれない、と指摘し、エレクトスによる製作との判断に慎重な姿勢を示します。また、本論文はエレクトスにおける強い性的二形の可能性を指摘しますが、最近の研究では、エレクトスの性的二形はゴリラ属やアウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)と現代人との中間程度と推測されています(関連記事)。性的二形は社会構造との関連も指摘されており、その意味でも今後の研究の進展が注目されます。


参考文献:
Semaw S. et al.(2020): Co-occurrence of Acheulian and Oldowan artifacts with Homo erectus cranial fossils from Gona, Afar, Ethiopia. Science Advances, 6, 10, eaaw4694.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aaw4694

神経発達に由来するショウジョウバエの行動の個性

 ショウジョウバエの行動の個性に関する研究(Linneweber et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。動物の行動の個性の起源に関する通俗的な認識の大半は、「氏」(行動を導くのは遺伝ゲノム)か「育ち」(行動を導くのは経験と環境)か、という規範的な枠組みにあります。ほぼ全ての動物において、固有の行動癖は遺伝学的に同じ個体間でも普通に見られることで、脳の解剖学的構造の自然な発達変異と同じですが、脳の発達の個体差から個体の行動が予測できるか否かは、まだ研究されていません。

 この研究は、ショウジョウバエにおける行動の個性に関する神経発達の非遺伝性起源について報告しています。自由に歩くショウジョウバエに道筋を示すと、直線的に歩く傾向のある個体もいれば、うろうろする個体もいます。この研究は、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を対象に、DCN(Dorsal Cluster Neurons)と呼ばれる視覚系神経細胞の配線の仕組みの個体差が、道筋をたどるというハエの行動における個性の現れにどうつながるのか、検証しました。

 その結果、DCN発達におけるランダム変異がハエ一匹一匹の脳回路に固有の非対称性をもたらし、それがハエの行動を強く誘導している、と明らかになりました。DCN配線の非対称性が強いほど道筋に合わせることが上手く、したがって直線的に歩いた、というわけです。この研究は、ランダムな神経変異と動物の行動の個性の関係を明示しています。正常な神経発達の先天的な混乱が遺伝的に類似する個体群に行動の多様性を生み出すポイントで、同様の仕組みはヒトなどの他の種にも存在すると考えられる、というわけです。


参考文献:
Linneweber GA. et al.(2020): A neurodevelopmental origin of behavioral individuality in the Drosophila visual system. Science, 367, 6482, 1112–1119.
https://doi.org/10.1126/science.aaw7182

飼い犬に見られる不安や問題行動

 飼い犬に見られる不安や問題行動に関する研究(Salonen et al., 2020)が公表されました。この研究は、フィンランドの飼い犬13700頭について、飼い主の報告に基づいて調査し、72.5%の飼い犬が攻撃性や恐怖心などの問題行動を示した、と明らかにしました。最も多かった不安様形質は騒音感受性で、32%の飼い犬が1種類以上の騒音を怖がり、花火を特異的に怖がった犬が26%いました。2番目に多い不安様形質は恐怖心で、29%の犬に見られました。具体的には、他の犬に対する恐怖心(17%)、見知らぬ人間に対する恐怖心(15%)、新たな状況に対する恐怖心(11%)でした。

 騒音感受性、特に雷に対する恐怖心は、高所や地面(たとえば、金属の格子板やピカピカの床)を怖がることと同じように、年齢とともに高くなりました。若齢の犬は、放置されると物品を損傷し、物品に放尿することが、老齢の犬よりも多く、注意力が散漫になったり、極度に活発になったり、自分の尻尾を追いかけたりすることも多い、と明らかになりました。雌犬は恐怖心を示すことが多かったものの、雄犬は雌犬よりも攻撃的かつ過度に活発で、衝動的になることが多いことも明らかになりました。

 この研究は、犬種間の違いについても明らかにしました。騒音感受性が最も強かったのがロマーニョ・ウォーター・ドッグ、ホイートンテリアと雑種で、恐怖心が最も強かったのがスパニッシュ・ウォーター・ドッグ、シェットランド・シープドッグと雑種でした。ミニチュア・シュナウザーの10.6%が見知らぬ人間に対して攻撃性を示しましたが、ラブラドール・レトリーバーでは0.4%にすぎませんでした。この研究によって得られた数々の知見は、犬の不安や行動に関する問題が犬種間で一定以上共通している可能性を示唆しています。こうした状態になる犬を減らすには、たとえば繁殖政策の実施や生活環境の改善などに注力すべきである、とこの研究は指摘しています。下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


動物行動学:飼い犬に普通に見られる不安や問題行動について

 犬の種類を問わず普通に見られるとされる不安や問題行動について詳しく調べた結果を報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。今回の研究で、最も一般的な不安様形質が騒音感受性で、その次が恐怖心であることが示唆されている。

 今回、Hannes Lohiたちの研究チームは、フィンランドの飼い犬(1万3700頭)について、飼い主の報告に基づいた調査を行い、72.5%の飼い犬が問題行動(攻撃性、恐怖心など)を示したことを明らかにした。最も多かった不安様形質は騒音感受性で、32%の飼い犬が1種類以上の騒音を怖がり、花火を特異的に怖がった犬が26%いた。2番目に多い不安様形質は恐怖心で、29%の犬に見られた。具体的には、他の犬に対する恐怖心(17%)、見知らぬ人間に対する恐怖心(15%)、新たな状況に対する恐怖心(11%)だった。

 騒音感受性、特に雷に対する恐怖心は、高所や地面(例えば、金属の格子板やピカピカの床)を怖がることと同じように年齢とともに高くなった。若齢の犬は、放置されると物品を損傷し、物品に放尿することが、老齢の犬よりも多く、注意力が散漫になったり、極度に活発になったり、自分の尻尾を追いかけたりすることも多かった。雌犬は恐怖心を示すことが多かったが、雄犬は、雌犬よりも攻撃的で、過度に活発で、衝動的になることが多かった。

 Lohiたちは、犬種間の違いについても明らかにした。騒音感受性が最も強かったのがロマーニョ・ウォーター・ドッグ、ホイートンテリアと雑種で、恐怖心が最も強かったのがスパニッシュ・ウォーター・ドッグ、シェットランド・シープドッグと雑種だった、ミニチュア・シュナウザーの10.6%が見知らぬ人間に対して攻撃性を示したが、ラブラドール・レトリーバーでは0.4%にすぎなかった。

 今回の研究によって得られた数々の知見は、犬の不安や行動に関する問題が犬種間で共通している可能性を示唆している。こうした状態になる犬を減らすには、例えば、繁殖政策の実施や生活環境の改善などに注力すべきだとLohiたちは指摘している。



参考文献:
Salonen M. et al.(2020): Prevalence, comorbidity, and breed differences in canine anxiety in 13,700 Finnish pet dogs. Scientific Reports, 10, 2962.
https://doi.org/10.1038/s41598-020-59837-z

岡田晋吉『太陽にほえろ!伝説』

 ちくま文庫の一冊として、筑摩書房より2020年2月に刊行されました。本書の親本『太陽にほえろ!伝説 疾走15年私が愛した七曲署』は、2003年に増補決定版として日本テレビ放送網より刊行されました。この増補決定版の親本は1996年に日本テレビ放送網より刊行されました。本書の親本は、以前図書館で読んだと記憶していますが、もうその記憶は薄れてしまいましたし、全作品リストも掲載されているので、文庫化を契機に資料用として購入しました。

 本書を読んで改めて思うのは、制作者側と視聴者側とでは『太陽にほえろ!』への想いが異なる、ということです。もちろん、制作者側とはいっても、プロデューサー・監督・脚本家・出演者などで違ってくるでしょうし、そもそも想いは一人ずつ違ってくるもので、それは視聴者でも同様だと思います。ただ、制作者側と視聴者側とでは、やはり『太陽にほえろ!』への想いに大きな違いが生じやすいとは思います。視聴者は基本的に放送された作品しか知らず、制作時の苦労は見えてきません。そこが最大の違いかな、とは思います。著者が選んだ「ベスト・エピソード100」に、私のお気に入りの話が入っていなかったり、逆に意外な話が入っていたりするところに、制作者側と視聴者側の意識の大きな違いが窺えます。

 すっかり忘れていた話も多いのですが、ボギー役の世良公則氏は、『太陽にほえろ!』のプロデューサーである著者から劇中で歌うよう、何度か要請されても、最後まで歌わなかったそうです。世良氏は演技の世界と歌の世界を峻別し、自分の歌は『太陽にほえろ!』には合わない、と言っていたそうですが、世良氏への印象通りの話です。石原裕次郎氏は、亡くなる2週間前に見舞いに訪れた著者に、ラガー役だった渡辺徹氏は太りすぎなので、医者の指導で食生活を変えなければいけない、と言っていたそうです。もうその頃には石原氏は肉体的にも精神的にもかなり厳しい状態だったのでしょうが、それでも若い役者を気遣うところが、石原氏らしいと思います。ベスト・エピソード100もそうですが、本書を読んで視聴当時のことが思い出され、懐かしくなりました。購入して正解だったと思います。