2020年度アメリカ自然人類学会総会(ネアンデルタール人とデニソワ人のABO式血液型)

 来月(2020年4月)15日~4月18日にかけて、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス市で第89回アメリカ自然人類学会総会が開催される予定ですが、コロナウイルスの感染状況によっては中止されるかもしれないようです(関連記事)。アメリカ自然人類学会総会では、最新の研究成果が多数報告されるだけに、古人類学に関心のある私は大いに注目しています。総会での各報告の要約はPDFファイルで公表されているのですが、まだいくつかの報告をざっと読んだだけです。とりあえず今回は、とくに興味深いと思った報告(Villanea et al., 2020)を取り上げます(P297)。

 この研究は、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)のABO式血液型におけるハプロタイプ構造を検証しています。ABO式血液型遺伝子の遺伝的多様性は現代人(Homo sapiens)においてよくよく特徴づけられており、世界中で観察されているABO式血液型の表現型多様性と対応しています。しかし、現代人と近縁な絶滅ホモ属(古代型ホモ属)であるネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)および種区分未定のデニソワ人(Denisovan)のABO式血液型遺伝子は、ほんど注目されてきませんでした。

 この研究は、ネアンデルタール人2個体とデニソワ人1個体を含む、28集団の2500人における、ABO遺伝子座の遺伝的多様性を分析しました。本報告の要約では詳細は省略されていますが、この古代型ホモ属3人とはおそらく、高品質なゲノム配列が得られている、南シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)遺跡で発見されたデニソワ人個体(関連記事)およびネアンデルタール人個体(関連記事)と、クロアチアのヴィンディヤ洞窟(Vindija Cave)遺跡のネアンデルタール人(関連記事)でしょう。

 分析の結果、現代人集団におけるABO式血液型頻度の以前の推定が改めて確認されました。次にこの研究は、現代人のABO遺伝子座のハプロタイプを用いて、古代型ホモ属3人のABO遺伝子型を決定しました。アルタイ地域のネアンデルタール人個体は、O型アレル(対立遺伝子)の派生的なネアンデルタール人多様体をホモ接合型で有しています。一方、クロアチアのネアンデルタール人個体はAOのヘテロ接合型を有し、そのA型アレルは派生的なネアンデルタール人多様体でしたが、O型アレルは現代人集団と共有される祖先的多様体でした。デニソワ人個体はO型アレルの祖先的多様体をホモ接合型で有し、これは現代人と広く共有されています。

 この研究で注目されるのは、アルタイ地域のネアンデルタール人に見られる、派生的なネアンデルタール人型のO型アレル多様体が、ヨーロッパおよびアジア南部の現代人においてひじょうに低頻度で見られ、遺伝的距離分析から、この派生的なO型アレルはネアンデルタール人系統と現代人系統の遺伝子流動により遺伝子移入された、と推測されることです。この研究でも改めて、ネアンデルタール人と現生人類との交雑が確認されました。ABO式血液型頻度は現代人の各地域集団間で多様なので、ネアンデルタール人やデニソワ人でも各地域集団により頻度は異なっていた、と考えられます。とはいえ、現時点ではもちろん、将来も、ネアンデルタール人やデニソワ人の各地域集団間のABO式血液型頻度の違いを高い精度で推測するだけの標本数が得られる可能性は低そうですが。なお、アメリカ自然人類学会総会に関するこのブログの過去の記事は以下の通りです。


2019年度(第88回)
https://sicambre.at.webry.info/201903/article_50.html
https://sicambre.at.webry.info/201903/article_51.html
https://sicambre.at.webry.info/201903/article_53.html
https://sicambre.at.webry.info/201904/article_1.html
https://sicambre.at.webry.info/201904/article_10.html
https://sicambre.at.webry.info/201904/article_11.html
https://sicambre.at.webry.info/201904/article_23.html
https://sicambre.at.webry.info/201904/article_24.html
https://sicambre.at.webry.info/201904/article_34.html

2018年度(第87回)
https://sicambre.at.webry.info/201804/article_46.html

2017年度(第86回)
https://sicambre.at.webry.info/201705/article_13.html

2016年度(第85回)
https://sicambre.at.webry.info/201606/article_23.html

2015年度(第84回)
https://sicambre.at.webry.info/201504/article_15.html

2014年度(第83回)
https://sicambre.at.webry.info/201404/article_22.html
https://sicambre.at.webry.info/201404/article_34.html
https://sicambre.at.webry.info/201404/article_37.html
https://sicambre.at.webry.info/201405/article_5.html
https://sicambre.at.webry.info/201405/article_7.html

2013年度(第82回)
https://sicambre.at.webry.info/201304/article_30.html

2012年度(第81回)
https://sicambre.at.webry.info/201204/article_20.html

2011年度(第80回)
https://sicambre.at.webry.info/201104/article_27.html

2010年度(第79回)
https://sicambre.at.webry.info/201004/article_23.html

2009年度(第78回)
https://sicambre.at.webry.info/200905/article_27.html

2008年度(第77回)
https://sicambre.at.webry.info/200804/article_20.html
https://sicambre.at.webry.info/200804/article_28.html
https://sicambre.at.webry.info/200804/article_32.html

2007年度(第76回)
https://sicambre.at.webry.info/200703/article_32.html
https://sicambre.at.webry.info/200704/article_11.html


参考文献:
Villanea FA, Fox K, and Huerta-Sánchez E.(2020): ABO blood type variation in archaic humans: haplotype structure in Neanderthals and Denisovans. The 89th Annual Meeting of the AAPA.

言語脳活動の遺伝と環境の影響度

 取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、言語脳活動の遺伝と環境の影響度に関する研究(Araki et al., 2016)が公表されました。日本語の解説記事もあります。これまで、言語機能は生まれた後、両親をはじめとする周囲の環境の影響を受けて形成される一方で、ある特定の遺伝子異常により言語障害が生じることから、遺伝的な影響もあることが知られていました。語彙力や流暢さなど実際の言語の能力に関しては、古くから双生児間で似ていることが報告されていましたが、言語の中枢である大脳の活動については、遺伝と環境がどの程度影響を与えているのか、不明でした。

 これまでに脳磁計(脳の神経細胞が発する微弱な磁気を計測する医療用計測装置で、磁気のパターンから脳での電気活動を高精度に推定でき、脳波に近い信号ではあるものの、脳波よりも空間分解能が高い、と考えられています)を用いて様々な脳活動が計測されており、中でも左前頭葉でみられるβ帯域(13-25Hz)や低γ帯域(25-50Hz)の脳活動が言語機能に関連している、と明らかにされてきました。この研究は、遺伝的に100%一致する一卵性双生児と約50%一致する二卵性双生児を対象として、言語に関する課題を与えた時の脳活動を脳磁計にて計測し、低γ帯域(25-50Hz)の脳活動の強さを一卵性と二卵性双生児群で比較することにより、言語機能に関する脳活動の遺伝と環境の影響度を調べました。

 この研究は、大阪大学大学院医学系研究科附属ツインリサーチセンターの研究の一環として行なわれ、同センターによりリクルートされた一卵性双生児28組、二卵性双生児12組を対象として行なわれました。3文字のひらがなもしくはカタカナの名詞(「あひる」や「メロン」など100単語)をスクリーンに提示し、その名詞に関連する動詞を思い浮かべてもらい、その際の脳活動を脳磁計により計測しました。この研究は、計測した脳活動の中で、低γ帯域(25-50Hz)の脳活動が左前頭葉に限局して出現することに着目し、その脳活動の強さを算出しました。

 その結果、脳活動の強さについては、一卵性ペア、二卵性ペアでそれぞれ比較すると、一卵性ペアで高い類似性が認められました。さらに、遺伝と環境の影響度を共分散構造分析(データのばらつきを基に、直接見ることのできないデータに潜む変数を同定する解析方法で、双生児研究では盛んに利用されており、あるデータに対して遺伝と環境の影響がどれくらいあるのか、推定できます)で算出することにより、遺伝と環境の影響度がいずれも50%程度である、と明らかになりました。つまり、言語機能における左前頭葉の脳活動は遺伝と環境から同程度影響を受けて形成されているわけです。

 この研究は、言語脳機能の形成が環境によってもかなり左右されることを明らかにしました。今後の展望として、言語教育においてどのような方法が学習効率を向上させるかなど、効率的な言語教育法の開発につながることが挙げられています。通俗的には、人間の能力は氏(生得的、遺伝子)と育ち(環境)のどちらなのか、といった問題設定がしばしばなされますが、もちろん、「能力」も含めて人間の表現型は遺伝子と環境の相互作用により発現していくものです。ただ、個々の表現型に関してどちらの影響がより強いのか、という問いかけは重要ですから、その意味でこの研究は意義があると思います。また、言語進化の観点からも注目される研究です。


参考文献:
Araki T. et al.(2016): Language-related cerebral oscillatory changes are influenced equally by genetic and environmental factors. NeuroImage, 142, 241–247.
https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2016.05.066

大河ドラマ『麒麟がくる』第8回「同盟のゆくえ」

 帰蝶に依頼されて織田信長の様子を探りに尾張に潜入した明智光秀(十兵衛)は、漁から戻って来た信長が自ら魚をさばいて安く売り、庶民から慕われている様子を見て、奇妙な男だと感じます。信長が帰蝶の夫に相応しいのか、光秀は悩みますが、母には大事なのは美濃だと言われます。帰蝶は光秀に尾張へ行くべきと言わせ、信長に嫁ぐ決意を固めます。光秀が帰蝶を説得したと報告を受けた斎藤利政(道三)は光秀を褒めます。

 しかし、織田と結ぶことに反対の利政の息子の高政(義龍)は、同志と思っていた光秀が裏切ったと怒っていました。高政は光秀を土岐頼芸と引き合わせ、帰蝶を信長に嫁がせないよう、改めて伝えます。光秀は、海に面した尾張の豊かさを強調し、尾張と組むことにより美濃は戦わずして豊かになれる、と主張しますが、高政は旧来の秩序の維持を重視し、あくまでも織田と結ぶことに反対し、二人は決裂します。1549年(西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)2月、帰蝶は信長へと嫁ぎます。織田と斎藤との提携を知った今川義元は、尾張への侵攻を決断します。

 今回は、帰蝶が光秀への想いを諦め、信長に嫁ぐ決意を固めるまでが描かれました。帰蝶も駒も互いに光秀への想いに気づいており、帰蝶が光秀への想いを断ち切るまでの描写はなかなかよかったと思います。これもすべて昨年(2019年)11月後半以降に撮り直したのかと思うと、つい見方が甘くなってしまいます。帰蝶の決意以上に今回注目されるのは、光秀と高政との決裂です。高政は光秀を学友として信頼し、将来自分が当主となった折には光秀を頼りにしようと考えていただけに、光秀が帰蝶に信長へ嫁ぐよう進言したことを裏切りと考えたのは仕方のないところでしょう。

 高政と父の利政との不仲というか、高政の父への不信感は初回から描かれていましたが、本作では、それが伝統秩序を重視する高政および美濃国人衆と、それを軽視して利害を重視する利政との対立という構造で描かれています。光秀は、学友として高政を支えたいという気持ちもありつつも、都と堺を見たうえで、尾張の繁栄も実見した経験から利政側に立つ、という流れになっています。実際にはそのように単純化できないのかもしれませんが、利政と高政の対立の結末を考えると、歴史ドラマとして面白い描写になっていると思います。これまでのところ、集権化も含めて強引な政策を進めようとした利政が国人衆に離反された、という流れで利政は敗死しそうで、利政の今後の心理描写も楽しみです。