デニソワ人由来のチベット人の高地適応関連遺伝子

 種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)に由来するチベット人の高地適応関連遺伝子について、2020年度アメリカ自然人類学会総会(関連記事)で報告されました(Huerta-Sanchez et al., 2020)。この報告の要約はPDFファイルで読めます(P126)。高地に居住するチベット人は、高地適応関連遺伝子を有しています。そのうちの一つが、酸素供給の変化への生理学的反応を調節しているEPAS1遺伝子で、正の選択の顕著な痕跡を示すだけではなく、デニソワ人由来と推定されています(関連記事)。

 本報告は、デニソワ人からチベット人の祖先集団へのEPAS1遺伝子の移入と選択の年代を推測しています。EPAS1遺伝子がデニソワ人からチベット人の祖先集団にもたらされたのは4万~3万年前頃ですが、それがすぐに有益なアレル(対立遺伝子)として選択対象になったのではなく、もっと最近になってから有益なアレルとして選択されていった、と本報告は推測しています。チベット人の主要な祖先集団の一部がデニソワ人と交雑したのはユーラシア東部でもさほど高度の高い地域ではなく、その後でチベット高原のような高地に拡散した、ということでしょうか。

 ヒマラヤにおける人類集団の長期の遺伝的安定性を報告した研究では、高地適応関連遺伝子のEGLN1とEPAS1の高地適応型アレル頻度の違いから、両遺伝子における高地適応型ハプロタイプの頻度上昇時期が異なると推測されていましたが、その正確な時期についてはより多くの標本が必要になる、と指摘されていました(関連記事)。本報告はその研究と整合的で、さらに詳しく解明している、と言えそうです。チベット高原における16万年以上前のデニソワ人存在の可能性が指摘されていますが(関連記事)、デニソワ人はユーラシア東部に広範に分布しており、チベット人の主要な祖先集団の一部がデニソワ人と交雑した地域は、チベット高原ではないのかもしれません。


参考文献:
Huerta-Sanchez E. et al.(2020): Methods to infer the timing of admixture and selection in high altitude populations. The 89th Annual Meeting of the AAPA.