脳の働きによる効果的な謝罪方法

 脳の働きによる効果的な謝罪方法に関する研究(Ohtsubo et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。これまで謝罪の研究では、誠意のある謝罪が許しを引き出しやすい、ということは知られていました。しかし、どのような謝罪の内容だと誠意があるとみなされるのか、という具体的な研究はありませんでした。これまでの研究で、個人間の謝罪では、謝罪にコストをかけることで誠意が伝わる、と明らかになっていました。たとえば、被害の補償を申し出る、大事な用事をキャンセルして謝罪を優先するといった、謝罪する側に何らかの不利益が生じることが謝罪のコストとなります。このようなコストをかけてでも謝るということは、謝罪する側が本当に申し訳ない、関係を改善したいと思っていなければできません。しかし、謝罪は個人だけがするものではなく、現代社会では組織・企業・国などの集団が謝罪をする場面も多く、集団の謝罪においてもコストがかかっているほど誠意があるとみなされるのか、というこれまで検討されてこなかった問題を、この研究は取り上げました。

 この研究は、まず予備調査として、大学生108名に第三者の立場から企業や組織が問題を起こした場面を想像してもらい、それに対して企業が「コストをかけて謝罪した」・「単に謝罪した」・「謝罪しなかった」と分類して、それぞれの対応にどれくらい誠意が感じられるかを評定してもらいました。たとえば、ある会社の製品で発火事故が何件か生じたという場面で、その企業が「すぐに謝罪し製品の交換も行なうと発表する場合」・「単に製品の不具合について謝罪する場合」・「調査中として謝罪しない場合」について評定してもらいました。全部で15種類の組織の問題があり、それぞれについて3種類の対応があったため、合計45種類のシナリオが評定されました。

 その結果、誠意の知覚はコストのかかる謝罪ほど高くなっていました。個人間の謝罪の場面では、誠意を知覚すると、脳の意図処理ネットワーク(前頭前皮質・両側の側頭頭頂接合部、楔前部)が活発化する、と以前の研究で明らかになっています。そのため、この研究もfMRIを用いて、集団によるコストのかかる謝罪が、コストなしの謝罪(ただ謝罪するだけ)、謝罪なしと比較して意図処理ネットワークを活発化するのか、調べました。スキャナの中での実験の手続きは、まず集団の過ちの説明があり、それに対する集団の対応が説明され、その集団を許せるかどうかを評定し、その後で10秒間休憩してもらい、次のシナリオへと移っていきます。この方法を予備調査と同様に、今度は10種類の組織の問題それぞれに3種類の対応シナリオを用意し、計30回繰り返してもらいました。実験に参加した25人分のデータを分析した結果、前頭前皮質についてはコストのかかる謝罪条件でも特に強い活動が見られませんでしたが、両側の側頭頭頂接合部と楔前部では、コストがかかる謝罪を想像した場合、コストなし謝罪や謝罪なしの対応を想像した場合よりも強く活動していました。

 この知見は、謝罪を受ける側が、個人の謝罪と同じように集団からの謝罪を処理している、と示しています。つまり、個人間の場面で効果的なコストのかかった謝罪は、文脈に応じて適切に集団用に変更した場合、集団謝罪の場面でも有効である、と示唆されています。個人間の謝罪の機能は友好的な関係の回復にあります。企業の謝罪は集団の利益の保持など個人の謝罪とは異なる目的があるかもしれませんが、人々の脳は、それを対個人の場面と同じ場所で処理している可能性が示唆されました。これを理解すれば、効果的な集団の謝罪方法なども理解できるようになる、と考えられます。こうした謝罪の機能と効果は、もちろん文化により異なるところは大きいでしょうが、共通する側面も多分にあり、それは進化的基盤に基づくものだと思います。進化心理学的側面からのこうした研究も少しずつ調べていきたいものです。


参考文献:
Ohtsubo Y. et al.(2020): Costly group apology communicates a group’s sincere “intention”. Social Neuroscience, 15, 2, 244–254.
https://doi.org/10.1080/17470919.2019.1697745

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