ヨーロッパ北部の中期更新世後期の木製品から推測される狩猟技術

 ヨーロッパ北部の中期更新世後期の木製品に関する研究(Conard et al., 2020)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。ドイツ北部のニーダーザクセン(Lower Saxony)州のシェーニンゲン(Schöningen)遺跡では、中期更新世となる30万年前頃までさかのぼる保存状態の良好な遺物が発見されています。とくに注目されるのは、多くの石器や動植物遺骸とともに、更新世遺跡ではめったに発見されない木製品が発見されていることです。

 2011年の発掘で発見された木製品は、断片化された小さな端を含めて長さが64.5cm(本体は63.4cm)、最大直径は2.9cm、重さは264gの細長い棒です。この棒の両端は尖っており、トウヒ(Picea sp.)の枝もしくは茎から慎重に作られた、と推測されます。シェーニンゲン遺跡で発見された木製品には、マツ(Picea sp.)で作られた、より長くて大きな複数の投槍も含まれています。

 新たに発見されたトウヒの木製棒には、掘ったり剥がしたりする時にできるものではない明確な摩耗が見られ、民族誌および実験的な事例に見られる投槍の衝撃破壊および損傷に一致する痕跡が確認されたので、投擲に使用された可能性が高い、と推測されています。この木製棒は飛んでいる間、重心の周りを回転し、ブーメランのように投げ手には戻ってきません。代わりに、回転は獲物への攻撃精度を高めながら、真っ直ぐで正確な軌道を維持するのに役立ちます。

 この木製棒はさまざまな距離で効果的な武器であり、鳥やウサギ、さらにはウマのようなより大きな獲物を狩るのに使用できる、と考えられます。じっさい、シェーニンゲン遺跡では多くの動物遺骸が発見されています。ただ、木製棒の投擲で大型の獲物を仕留めた事例は中期更新世に関しては報告されておらず、民族誌の事例から、複数の武器で狩猟が行なわれていたのではないか、と本論文は推測しています。木製棒の投擲可能距離は、5~30mの短い距離から100mまで多様で、本論文はシェーニンゲン遺跡の新たに発見された木製棒については、その中間の投擲距離を想定していますが、証明には実験が必要と指摘しています。また実験では、このサイズの棒を投げると、毎秒最速30mに達します。中期更新世の投槍の威力は、以前の実験でも指摘されています(関連記事)。

 本論文は、中期更新世後期となる下部旧石器時代において、ヨーロッパ北部では複数の武器を使用した高度な狩猟が行なわれていた可能性は高く、それは更新世において広範な地域で同様だっただろう、と推測しています。本論文は、シェーニンゲン遺跡の人工物の製作者についてとくに言及していませんが、当時、ヨーロッパ南西部における複数系統のホモ属の共存可能性が指摘されており(関連記事)、ヨーロッパ北部に関しても、同様の状況を想定しておくべきかもしれません。


参考文献:
Conard NJ. et al.(2020): A 300,000-year-old throwing stick from Schöningen, northern Germany, documents the evolution of human hunting. Nature Ecology & Evolution, 4, 5, 690–693.
https://doi.org/10.1038/s41559-020-1139-0

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