『卑弥呼』第39話「密談」

 『ビッグコミックオリジナル』2020年6月5日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハを襲った刺客が那(ナ)から都萬に亡命した島子のウラではないか、と推測するヤノハたちを、クラトが不敵に見ているところで終了しました。今回は、那(ナ)の国の身像(ミノカタ、現在の宗像でしょうか)に、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の諸国の王たちが集まっている場面から始まります。その場にいるのは、那のウツヒオ王、伊都(イト)のイトデ王、都萬(トマ)のタケツヌ王、末盧(マツラ)のミルカシ王です。そこへ、舟で新たに3人の王が現れます。それは、伊岐(イキ、現在の壱岐でしょう)のイカツ王、津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)のアビル王、穴門(アナト、現在の山口県でしょうか)のニキツミ王です。九州の王たちは、大倭豊秋津島(オオヤマトトヨアキツシマ、本州を指すと思われます)の王も参加したことを意外に思います。

 まずタケツヌ王が、7人の王によるこの場の密談は未来永劫内密にするよう、提案します。ここでの戦いも無用と言うミルカシ王に対して、心配無用とウツヒオ王は答えます。身像は天照大神(アマテラスオホミカミ)と須佐之男命(スサノオノミコト)が和平を交わした誓約(ウケイ)の地で、その時生まれた三柱の女神にかけて秘密と不戦を約束する、とウツヒオ王は言います。山社(ヤマト)を認めるのか、とタケツヌ王に問われたウツヒオ王は、その前に現在の大陸情勢を知りたい、と言って韓(カラ、朝鮮半島でしょう)に最も近い津島のアビル王に尋ねます。公孫度(コウソンタク)という将軍が遼東太守に任命され、後漢からの独立を策して中原への道を封鎖したいようだ、とアビル王は答えます。ミルカシ王は、今後倭の使者が伽耶(カヤ)までしかいけないことを、タケツヌ王は公孫度が倭に侵攻してくることを懸念します。アビル王は、黄巾の乱以降、後漢の力は急速に衰えており、徳を失った天子の王朝は滅ぶべしというのが軍閥たちの本音だろう、と言います。アビル王はその具体的な名前として、曹操・劉備・袁術・関羽・張飛を挙げ、後漢各地の名だたる将軍がいつ武装蜂起してもおかしくない、と説明します。作中では、現在紀元後207年頃のようなので、すでに袁術は死んでいるはずですが、倭にはまだ情報が届いていない、ということでしょうか。ウツヒオ王に大倭豊秋津島の状況を尋ねられたニキツミ王は、大陸同様に一触即発と答えます。鉄の原料をめぐって鬼(キ)の国が金砂(カナスナ)国に侵攻し、金砂国は吉備(キビ)に援軍を要請しましたが、吉備を快く思わない聖地である出雲の事代主(コトシロヌシ)が金砂国からの独立を宣言しました。山社と同じ状況か、とイトデ王は嘆息します。ニキツミ王は、事代主が吉備の背後にいる日下(ヒノモト)を懸念している、と言います。日下とはサヌ王の、と言いかけたミルカシ王をイトデ王が制止します。

 ウツヒオ王は、自分たちだけでも和平を結ぼう、と提案します。そのためには、山社を国として認め、新たな日見子を王の中の王として擁立することだ、とウツヒオ王は言います。つまり、日見子を担ぐことで暈(クマ)や日下あるいは大陸の侵略を止めるためです。ミルカシ王は直ちに賛成します。イトデ王はウツヒオ王に、那が伊都を攻めないと約束するなら自分も賛成する、と言います。イカツ王もアビル王も同意します。タケツヌ王は、そもそも単独で和平の使者をするつもりだったので、賛成しますが、暈の鞠智彦(ククチヒコ)の動静が気になる、と言います。ミルカシ王は、鞠智彦を曲者と考えています。タケツヌ王が暈に放った軒猿(ノキザル、間者)は、鞠智彦は日見子と和議を結ぶつもりだ、と報告していました。ウツヒオ王は、一刻も早く使者を送ろう、と言いますが、イトデ王は、暈と我々連合国では強国の暈を選ぶだろう、と言います。タケツヌ王も、先に会った方と和議を結ぶのが定石、と言います。7人の王たちは、もし日見子(ヤノハ)が先に暈と会うと選択すれば我々の敵となり、倭国大乱は永久に続くだろう、と懸念します。

 鞠智(ククチ)の里では、鞠智彦が志能備(シノビ)の棟梁らしき男性に、ナツハを譲るよう、依頼していました。鞠智彦はナツハを自分の警固に用いるつもりでした。敵は警固がナツハ一人と侮るでしょうが、その背後には多数の狼や犬がいる、というわけです。鞠智彦は、新たな日見子(ヤノハ)に会いに山社に行き、山社を国として認める代わりに暈の操り人形になれ、とヤノハに提案するつもりでした。この条件をヤノハが受け入れねば、その場でヤノハを殺す、と鞠智彦は志能備たちに打ち明けます。ヤノハは不幸な事故に遭い、狼に突然食い殺される、というわけです。夜萬加(ヤマカ)では、ナツハが暈の国にある種智院の「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)の祈祷部(イノリベ)の長だったヒルメに、挨拶していました。ヒルメはナツハに、ヤノハを絶対に殺すな、と命じます。ヤノハを死よりもっと恐ろしい目に遭わせ、全てを奪い取ってやりたい、とヒルメはナツハに本心を打ち明けます。ヒルメはナツハに耳打ちし、ナツハは驚愕した表情を浮かべます。

 山社では、千穂への遠征から帰還した日見子(ヒミコ)であるヤノハを歓迎する宴が催されていました。テヅチ将軍はヤノハに、暈の国にある「日の巫女」集団の学舎である種智院のイスズから使者が派遣されたことを伝えます。その使者によると、暈の鞠智彦が和議を提案してヤノハとの会見を求めている、とのことでした。イクメもその父のミマト将軍も、暈との和議に反対し、那や伊都や末盧に和議の使者を送るべきと進言します。翌朝、イクメとミマト将軍は再度、鞠智彦と会わないよう、ヤノハに進言しました。暈と会えば、那や伊都や末盧は山社を敵と誤解する、というわけです。それに対してヤノハが、どうしても鞠智彦に会いたい、と答えるところで今回は終了です。


 今回は、重要な情報が明かされて密度が濃く、話の方も、ヤノハと鞠智彦との対面に向かって話が動くとともに、そこにヒルメの思惑とナツハも絡んできて、たいへん面白くなっていました。今回、曹操や劉備が言及されたことで、改めて、雄大な規模の話になりそうだな、と期待が高まりました。おそらく、魏への遣使も描かれるのでしょうが、その時点での山社がどこにあるのか、ということは注目されます。現時点では、日向の奥深くに位置しますが、あるいは、現在の奈良県に移っているかもしれません。本州の情勢も少し明かされ、この時代からすでに出雲は聖地とされていたようです。出雲が含まれている金砂の国は後の令制の出雲と伯耆あたりでしょうか。注目されるのは、金砂と争っている吉備の背後に日下の国がいることで、これはサヌ王が東征して建てた国とされています。日下はこの時点で、吉備も動かすくらいの勢力の国ということでしょうか。本作がどの考古学的編年を採用しているのか不明ですが、日下の国はすでに纏向遺跡を中心とした大勢力なのかもしれません。今後は、日下の国、さらには九州にまだいるサヌ王一族に忠誠を誓う者たちの動向と、ヤノハとの駆け引き・攻防が注目されます。

 鞠智彦がナツハを警固に任命したことも注目されます。ナツハはヒルメを母親のように慕っていますが、そのヒルメはヤノハへの強い憎悪を抱いています。ナツハはヤノハの弟のチカラオと思われますが、ヒルメからナツハの名を聞き、死よりもっと恐ろしい目に遭わせたい、と聞いても表情を変えませんでした。あるいは、ヤノハは養母を見殺しにし、自分も助けなかった、ナツハは考えており、ヒルメと同じくヤノハを憎んでいるのかもしれません。そのナツハが驚愕したヒルメの指示が何なのか、たいへん気になります。あるいは、喋れなくなったナツハは重要な記憶も失っており、姉がヤノハという名だったことを忘れているのかもしれません。ヒルメはナツハがヤノハの弟とは気づいていないでしょうから、ヒルメがナツハを使ってヤノハに復讐しようとするところは、物語として面白くなっています。『三国志』に見える、卑弥呼(日見子)となったヤノハを支える「男弟」がチカラオ(ナツハ)と予想しているのですが、ナツハはヤノハの名を聞いても表情を変えませんから、姉弟が再会し、単純に弟が姉に協力するという展開にはならないかもしれません。まあそもそも、ナツハがヤノハの弟とは確定していないので、以上の予想も的外れかもしれませんが。

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