『卑弥呼』第40話「結界」

 『ビッグコミックオリジナル』2020年6月20日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハが鞠智彦に会う決意を表明したところで終了しました。今回は、ヤノハが子供の頃を回想する場面から始まります。ヤノハが子供の頃に住んでいた日向(ヒムカ)にある邑の東側には結界が張られ、魔物が棲んでおり結界を越えれば死ぬので、誰も立ち入ってはならない、とされていました。ヤノハは同じ年頃の子供たちと結界を越えようとしますが、他の子供たちは怯えて逃げ出します。ヤノハが一人で森を通って結界を越えると、そこは浜辺でした。ヤノハの邑は四国の五百木(イオキ)から瀬戸内海を渡ってきたと思われる賊に襲撃され、ヤノハの義母は殺されましたから、海に近い、ということなのでしょう。

 海には難破船があり、森から虎が現れ、ヤノハを襲おうとします。すると、刀を持った男性が現れ、虎を制止させます。漢語を話す男性は、ヤノハが倭人だと気づき、森の西側の邑の倭人は立ち入り禁止と知っているだろう、とヤノハを咎めます。ヤノハは、なぜか分からないが、怖いものの話を聞くと、正体を知りたくて我慢できなくなる、と男性に理由を話します。すると、それまで険しい表情だった男性は穏やかな顔になり、ヤノハに名前を聞いた後、何何と名乗ります。虎の名前は藋(ディオ)です。何何は、5年前に日向の海岸に漂着し、乗船していた16人のうち8人が嵐で死に、5人はヤノハの邑の者に殺され、今では3人と1匹になった、とヤノハに打ち明けます。虎に同じ人数の邑人を狩らせると、邑を代表してヤノハの義母が来て、森に結界を張り邑人を立ち入り禁止にするので、虎を邑に近づけるな、と何何に提案します。何何はヤノハの義母を賢い人だったと評価し、この5年は平和だった、結界を破ったのはお前が初めてだ、とヤノハに話します。船を修理して漢(後漢)に帰るつもりはないのか、とヤノハに問われた何何は、霊帝に謀反を起こしたので帰れない、と答えます。何何は黄色の頭巾を着けており、黄巾の乱の残党でした。何何は、戦はもうごめんだ、と穏やかな表情で言います。何何のことは誰にも言わない、と誓うヤノハを何何は信じます。ヤノハは何何に頼んで虎を触り、邑に帰ったヤノハは義母にひどく叱られました。

 場面は替わって現在の山社(ヤマト)です。日見子(ヒミコ)たるヤノハが暈(クマ)の鞠智彦(ククチヒコ)と会うことにイクメは反対し、ミマト将軍は、筋を通すなら那(ナ)と和議を結ぶべきだ、とヤノハに進言します。ヤノハに問われたテヅチ将軍は、自分は山社に投降した戦人なので日見子様(ヤノハ)の決断に従うのみ、と答えます。ヤノハに問われたヌカデは、暈の国にある「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)以来、日見子様に運命を委ねた者なので、意見はない、と答えます。ヤノハに問われたミマアキは、頭では父(ミマト将軍)と姉(イクメ)が正しいと分かるが、これまで日見子様は我々が思いもよらぬ決断をしてことごとく功を奏してきたので、どう考えれば正解か悩んでいる、と答えます。するとヤノハは、ミマアキだけがこの場を楽しんでいるようだな、と言います。ヤノハは、ミマアキだけ残って他の者は退出するよう、命じます。父のミマト将軍から、日見子様は怒っているのか、と問われた娘のイクメは、恐らく怒っており、怒るとより冷静になる、と答えます。クラトは退出するヌカデから、ミマアキがまだ残ってヤノハと密談中と聞き、考え込むような表情を浮かべます。その様子を見たヌカデは、日見子様は欲しいものを必ず手に入れる方なので、お前の想い人(ミマアキ)も危ないぞ、とクラトに忠告します。

 ヤノハは唯一残ったミマアキに、これまでの身の回りの世話への感謝を述べ、今日限りで任を解いてイクメのみに自分の身の回りの世話をさせる、と言い渡します。ヤノハはミマアキに、もっと重責を任せるつもりでした。現在、ヤノハは日見子として、夜に神々と語らい明日のお天道様のご来光を祈っている上に、昼は政事(マツリゴト)まで執り行なっています。今は二役を兼ねているヤノハですが、必ず倭国を平らかに導くので、その時はミマアキに昼の政事を代わってもらいたい、と提案します。それは本来王の仕事では、と驚くミマアキに対して、ミマアキだけが自分の心を読めるから、とヤノハは理由を明かします。自分の世話役でなくなれば、ミマアキには禁忌はなくなり、女も抱き放題だ、とヤノハはミマアキに言います。自分は男が欲しくても秘め事にする以外方法はない、と言うヤノハは、想い人の一人二人はいるだろう、とミマアキに問いかけます。ミマアキほどの美しさなら、望めば女は皆振り向くはず、とヤノハに言われたミマアキは、どうかご勘弁を、と言って返答を避けます。ヤノハは、時間を置こう、政事に携わることを考えてみてくれ、とミマアキに言います。

 次にヤノハはヌカデを呼び、種智院イスズに鞠智彦と会うことにしたと伝えるよう、命じます。自分を日見子様と呼ぶヌカデに対して、他に人がいない時はヤノハでよい、とヌカデに言います。道中は物騒なので腕の立つ者二名を警護につける、と言ったヤノハは、まずクラトの名前を挙げます。するとヌカデは、クラトを危険な仕事につけると、お気に入りのミマアキが不機嫌になるぞ、とヤノハに忠告します。ミマアキとクラトは相思相愛の仲だ、とヌカデに聞かされたヤノハは、驚いた表情を浮かべます。ヤノハでも気づかないことがあるのか、とヌカデは意外そうに言います。ヌカデから話を聞いたヤノハが、子供の頃に結界を破って義母に怒られた時に言われた、お前のその好奇心、欲しいものを必ず手に入れる執着心で身を滅ぼさなければよいが、という忠告を思い出すところで、今回は終了です。


 今回は、子供の頃からのヤノハの好奇心と欲しいものへの執着心の強さが描かれ、ヤノハの基本的な個性が子供の頃に確立していた、と了解されます。注目されるのは、ヤノハの邑に漂着した黄巾の乱の残党が虎を飼っていたことで、ナツハがヤノハの弟であるチカラオだとすると、幼い頃より虎に親しみ、動物を操る能力を身に着けたのではないか、とも考えられます。まあ、結界を越えることは厳禁とされており、ヤノハもわざわざ弟を危地に追いやろうとはしないでしょうが、チカラオも姉に似て好奇心が強いのかもしれません。黄巾の乱の残党も登場したことで、雄大な規模の話になるだろう、との期待がさらに高まりました。

 ヤノハがミマアキに昼の政事を任せようとしたことは、予想はしていたものの、やや意外でした。『三国志』に見える、卑弥呼(日見子)となったヤノハを支える「男弟」の最有力候補は、ヤノハの弟のチカラオ(現在のナツハ?)だろう、と考えていたからです。そのミマアキとクラトが恋仲であることに、ヤノハは気づいていませんでした。そこでヤノハが義母の忠告を思い出したのは、何か引っかかることがあったからなのだろう、と思います。では、何に引っかかっているのか、というとまだ分かりませんが、ヤノハが日向の邑長に襲撃された時の、クラトの行動なのかもしれません。相思相愛の関係なら、クラトはもっとミマアキを案ずるような行動をとったのではないか、といった疑問をヤノハは抱いたのかもしれません(的外れかもしれませんが)。クラトは筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)に残ったサヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の残党の一味で、日見子となって日向を領地としていくヤノハを殺すことも躊躇っていないようですが、ヤノハはミマアキとクラトの関係をヌカデから知らされたことにより、情報収集と鋭い洞察力で、クラトの怪しさに気づいて危機を脱するのかもしれません。今回、鞠智彦は言及されただけで登場しませんでしたが、ヤノハとの会見でどのようなやり取りが交わされるのか、またヤノハへの強い憎悪を抱くヒルメの指示を受けたナツハが、鞠智彦の配下として同行してヤノハに対してどのような行動に出るのか、たいへん楽しみです。

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